第四話 竹田城の幽霊③
善助は腕を組み、しばし考え込んでいたが、やがて静かに口を開いた。
「……どうりで。以前ここを訪れた時よりも活気がないと感じたが……原因は幽霊騒ぎだったか。」
その言葉に宿の空気がさらに重くなる。
しかし、又兵衛は肩をすくめ、あからさまに鼻で笑った。
「へっ、幽霊なんているわけねえじゃねえか。なあ、殿!」
桜は一瞬言葉に詰まり、ちらっと又兵衛を見やる。
(……えっ、妖怪がいるのに幽霊は信じないんだ……?)
内心でそう突っ込みながらも、無理に笑ってみせた。
「ど、どうだろー? は、はは……」
そのやり取りを横目に、善助はゆっくりと姿勢を正した。
「竹田城跡の調査が目的でしたが……殿、ここは幽霊騒動も同時に調査した方が良いかもしれません。」
彼女の声は落ち着いているが、真剣そのものだった。
「この竹田城跡とその城下は今後、播磨と丹波を結ぶ要の拠点。幽霊騒動を放置すれば、連携にも支障が出ましょう。」
桜は善助の言葉に力強くうなずいた。
「そうだね。それに……もしそんな幽霊が本当にいるなら、赤松家の当主として、知らないふりはできない。」
その瞳には決意が宿り、迷いはなかった。
「行こう、みんな。」
「はっ!やっぱ殿は肝が据わってんな!」
全登は静かに十字を切り、目を伏せた。
「迷える魂を……救いましょう。」
彼女の温かい言葉が響く。
皆が賛同する中――ひとりだけ、頑なに口を閉ざす男がいた。
友信だ。腕を組んで下を向いたまま、重苦しい沈黙を保っている。
「……」
それを見咎めた善助が、片眉を上げてにやりと笑った。
「どうした、友信。まさか貴様、男のくせに……幽霊が怖いのではないだろうな?」
友信はびくりと肩を震わせ、耳まで赤くなる。
「ぐぬぬっ!? ……お、おらぁ、町に妖怪が出ても困るから……ここで警備しておくだあ!」
言い訳めいた言葉に、善助はふっとため息をつき、半眼で睨んだ。
「だめだ。修行のため、お前も来い。」
「んだあああーっ!?」
友信の情けない声が宿場に響き渡り、桜は思わずくすりと笑ってしまった。
こうして一同は、幽霊騒動の調査へと向かうことを決めたのであった。
夕時。食事を終えた一行は、宿場町をあとにして竹田城跡へと向かう山道に足を踏み入れた。
空はまだ夕暮れのはずなのに、山に近づくほど日差しは薄れ、谷間を渡る風は肌を刺すほど冷たい。
桜は首もとを押さえながら、ふと見上げた。山頂にかすむ石垣――それが竹田城跡なのだろう。
高く聳える影は、まるで空に取り残された亡霊のようにじっと一行を見下ろしているように思えた。
「……行くしかないな」
善助が帳面をしまい、口を結んだまま前を歩く。
「なぁ、姉御。幽霊がいるにしてもよ、そう都合よく今日出たりしねえよ」
又兵衛は強がるように笑ったが、その笑みもどこか引きつっている。
桜は彼の背中を見つめながら、(……本当に出なければいいけど)と心の中で呟いた。




