表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/106

第四話 竹田城の幽霊①

丹波の国の入り口にさしかかり、一行はとある宿場町へと足を踏み入れた。

昼下がりの太陽が白壁の町並みを柔らかく照らし、行き交う旅人や荷を積んだ馬の蹄音が石畳に響いている。

香ばしい焼き団子の匂いが漂い、商人たちの威勢のよい掛け声が耳に届く。だが、町全体にどこか影のような空気が差していた。

善助が立ち止まり、振り返って仲間に声をかける。

「今日はここで宿をとりましょう。」

「え? 姉御、まだ昼すぎだぜ。宿をとるには早いんじゃないか?」

槍を肩にかついだ又兵衛が眉をひそめ、不満をもらす。

善助は帳面を取り出し、さらさらと記録を書きつけながら答えた。

「ここの近くに、竹田城という城の跡地があってな。今は使われてはいないが……いずれ播磨と丹波を結ぶ、重要な拠点になるだろう。実は今回の旅の途中で調査してくるよう、官兵衛殿に言われておるのだ。」

(竹田城かー……城マニアの父さんが色々語ってたなー。たしか有名な観光地だっけ。)

桜は心の中でつぶやき、どこか懐かしい気持ちに胸を揺らした。


一行は宿に入り、磨き込まれた木の香りがほんのりと漂う帳場に腰を落ち着けた。外のざわめきが遠ざかり、蝋燭の炎が小さく揺れる。

善助が宿の帳面に名を記しながら、穏やかに問いかける。

「ご主人。このあたりにある竹田城跡へ行くには、どの道を進めばよいですか?」

帳場の向こうで帳面を整理していた主人の手が――ぴたりと止まった。

筆を置く音もなく、ただ沈黙が落ちる。やがて彼は顔を上げ、深く刻まれた皺の下から鋭い視線を善助に向けた。額に手を当て、重い声が低く漏れる。

「……あなた方、竹田城跡へ行かれるのですか。」

善助は視線を逸らさず、落ち着いた声で答えた。

「ええ。道を教えていただければと。」

主人はしばらく口を結び、やがて重々しくため息をついた。

視線を宙にさまよわせながら、言いにくそうに言葉を絞り出す。

「やめておいた方がよいでしょう。あそこは……近ごろは誰も寄りつきませぬ。」

「どういうことです?」

善助が低い声で問いただす。背後で又兵衛は「なんだそりゃ」と言わんばかりに腕を組み直し、椅子の背にふんぞり返る。全登は小首をかしげ、桜は思わずごくりと唾を飲んだ。

しかし、主人は口を閉ざしたまま、沈黙が広がる。

蝋燭の炎が、かすかに揺れた。善助は眉を寄せ、静かに言葉を継いだ。

「お気遣いには感謝します。だが、我々もあそこには明確な目的があってのこと。行くなと申すのであれば――相応の理由をお聞かせ願いたい。」

主人はしばし葛藤するように目を伏せ、やがて決心したように顔を上げた。

その声音は、ひそやかに震えていた。

「あの城跡には……幽霊が出る、と噂されております。」

「え……ゆ、幽霊……?」

桜が思わず声をあげ、背筋にひやりとしたものが走った。

その瞬間、帳場の奥で茶碗を拭いていた女中がビクリと肩を震わせ、こちらをちらりと不安げに見やった。

どうやら、この町ではただの噂では済まぬほどに、その話が広く信じられているらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ