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赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第一章 示された道

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第一話 戦国大名―赤松桜③

城門を抜けると、目の前に広がったのは活気あふれる城下町だった。

道は土が踏み固められていて、両側には木造の商家が並び、店先では品物がずらりと並べられている。

「さあさあ、新鮮な野菜だよ! 朝採れの大根に人参、安くしとくぜ!」

「焼きたての団子はいかが? 甘くてうまいよ!」

「この反物、京から取り寄せた上等品だよ!」

商人たちが威勢のいい声を張り上げ、買い物客たちが品定めをしている。

通りには、髪を結い上げた町娘たちが華やかな着物を揺らしながら歩いている。

力強い掛け声とともに、米俵を担ぐ男たちが忙しそうに行き交う。

子どもたちは店先で飴玉をねだったり、棒を振り回しながら鬼ごっこに夢中になっている。

(すごい……まるで映画の世界に入り込んだみたい!)

桜は目を輝かせながら町を歩いた。

町の様子をじっくり観察していると、不意に何かが体にぶつかった。

「――え?」

同時に、腰に結んでいた小さな財布がスルリと消えた。

「……え!? ちょっと、待って!!」

驚いて振り向くと、小柄な男が素早く身を翻し、狭い路地へと走り去っていく。

「誰か、あの人を――!」

必死に声を上げたが、通行人たちは驚くだけで誰も動かない。

(どうしよう! 追いかけないと……!)

焦る桜の目の前で、突然、影が横切った。

「そおいっ!」

鋭い掛け声とともに、少年が低い姿勢で地面に滑り込み、男の足元へ向かって体を投げ出した。

「うおっ……!?」

男はバランスを崩し、前のめりに倒れる。

次の瞬間、私の財布が空中に舞った。

「――あっ!」

桜は慌てて手を伸ばし、財布をキャッチする。

その間に、男は起き上がると、そのまま走って逃げてしまった。少年は立ち上がると、少し誇らしげに鼻を鳴らした。

「ねえちゃん、不用心すぎるぜ!」

見ると十歳ぐらいだろうか、彼はまだ幼さの残る顔つきの少年だった。

「助かったよ。ありがとう!」

「ははっ、いいってことよ!」

少年は得意げに笑いながら手を払った。

「あ……」

桜は少年が左膝を擦りむいていることに気づく。

桜は懐から布を取り出し、少年の足をしばるために布を傷口にかけ、手を添えた。

「ははは、大したことねえって」

「だめだよ、血がでてるし。……ん?」

桜の手が淡い緑色の光が出て、少年の傷がある部分を包んでいる。

おそるおそる布をどけると、少年の膝にあったはずの擦り傷がほとんど治ってしまっていた。

「へー、ねえちゃん、治癒の念術が使えるんだな!」

「え……!う、うん」

といいつつ桜は自身の手を見る。

(やはりこの世界には魔法のようなものがあるらしい)

桜は立ち上がって少年に聞いた。

「本当にありがとう。何かお礼に手伝えることってないかな?」

少年は少し考え答える。

「そうだなー、俺今から商屋へ手伝いにいかないといけないんだ。しばらく妹の遊び相手をしてくれねえかな」

桜は大きくうなずいた。

「お安い御用だよ!」


挿絵(By みてみん)


少年の案内で、桜たちは小さな集落の一角にある、こぢんまりとした家に辿りついた。

屋根は藁葺きで、外壁は年月を感じさせる木材。

ひっそりと佇むその家は、どこか懐かしく、そして温かみのある雰囲気を纏っていた。

少年は玄関先で立ち止まり、家の中へ向かって声をかける代わりに、手をひらひらと振って合図を送った。

すると、奥からちょこちょこと小さな足音が聞こえてきて、やがて幼い少女が顔をのぞかせた。

「こいつは梅っていうんだ!」少年が明るい声で紹介する。

「あ、俺は貞吉、よろしくな!」

貞吉と名乗った少年は、胸を張って得意げに笑った。

どこか世話焼きな兄のような空気をまとっていて、梅という少女を大切にしているのが伝わってきた。

「うん!よろしく、貞吉、梅ちゃん」と桜は笑顔で応じる。

すると貞吉は、すっと身を翻し、勢いよく地を蹴って駆け出した。

「じゃ、頼むな!なるべくすぐ帰るからよ!」

風のように軽やかに走り去っていく彼の背中を見送りながら、桜はぽつんとその場に残された。


目の前に残された梅と向かい合うと、彼女はしばし黙ったまま、じっと私を見上げていた。

年の頃は七つぐらいだろうか。

つぶらな瞳にかすかな警戒の色が見えたが、それはほんの一瞬。

彼女はおずおずと、桜の着物の裾をちょんと小さな指で引っ張った。

「……お手玉しよ?」と、まるで勇気を振り絞るように小さな声で言った。

「うん、いいよ!」

桜はにこりと頷き、優しく答えた。

梅が両手に持っていた布製のお手玉を桜に渡すと、二人は向かい合って座り込んだ。

桜は手のひらの上でお手玉を軽く弾ませる。ぽん、ぽん、と布の音が小さく部屋に響く。

最初は一つ、次に二つ。簡単な技を見せると、梅はぱっと目を輝かせた。

時間がゆっくりと流れていく中、二人だけの静かな遊びが続いた。

だが、しばらくして梅がふと手を止め、小さく呟いた。

「……あー、ずっとお手玉だと飽きちゃったなー」

「そっかー……」

桜は手を止め、天井を見上げながら考える。

(そういえば、この時代って遊び道具が少ないよね……何か楽しい遊び、ないかな?)

少しの沈黙のあと、ふとあるアイデアが浮かんだ。

「ねえ、紙と筆ある?」

梅は首をかしげたが、すぐに小さく頷き、部屋の隅に置かれた木箱を開けて中を探りはじめた。

しばらくして、彼女は和紙と墨、そして筆を大事そうに抱えて戻ってきた。

「ありがとう!」

桜はさっそく紙を手に取り、机の上で手際よく小さな四角に切り分けていく。

すると梅は目を丸くして、作業をじっと見守っていた。

一枚、また一枚。桜はその札に、簡単な絵や数字を描き始めた。

梅はどんどん身を乗り出し、何ができるのかと興味津々で覗き込んでくる。

「できた!」

桜は完成した札を両手で差し出した。

「……これは?」

梅が目をぱちくりとさせる。

「これはね、トランプっていうんだよ」と私は優しく微笑んだ。

「これを使うと、色んな人数で色んな遊びができるんだよ。数字を比べたり、絵を揃えたりね」

梅の目がきらきらと輝き、頬がほんのりと赤く染まった。

「すごい!それなら飽きないね!」


その後も、桜と梅は札を使ったゲームを繰り返しながら、時間を忘れて夢中になっていた。

やがて、戸の外から足音が近づいてきたかと思うと、貞吉の慌てた声が響いた。

「早く帰るつもりだったのに、すっかり遅くなっちまった!」

ガラガラ、と戸が開いて、貞吉が息を切らしながら戻ってきた。

「ただいま!すまねえ桜、すっかり遅くなっちまった。」

「あ、おかえり!」

桜は笑顔で手を振る。

その瞬間、梅が札を床に広げ、誇らしげに言い放った。

「ロイヤルストレートフラッシュ!」

「……げ。」

桜は一瞬、言葉を失った。

貞吉は眉をひそめ、不思議そうに二人を交互に見つめた。

「…ロイヤルストレートフラッシュ?」

彼の頭の上に、見えない「?」が浮かんでいるのが目に見えるようだった。



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