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赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

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第三話 播磨の盗賊⑧

宿場町―。

 さらわれていた男の子を目にした母親は、堪えていたものが一気に溢れ出したように、顔をくしゃくしゃに歪めて駆け寄った。

「……っ!」

 声にならぬ叫びとともに、男の子を両腕で抱きしめる。

 母親の頬を伝う涙は止めどなく、大粒の雫がぽたぽたと地面を濡らした。

 その一方で、抱きしめられた男の子は、きょとんとしたまま。何が起こったのか、まだ理解できず、ただ母の胸の中で瞬きを繰り返している。

「ありがとうございます……ありがとうございます……!」

 母親はわが子を抱き上げたまま、何度も、何度も頭を下げ続けた。声は震え、足取りも覚束なかったが、それでも子を離すまいと必死にしがみついている。

 その親子の背中が人混みに紛れていくのを見送りながら、善助が静かに桜へと視線を向けた。

「……殿」

 憂いを含んだ声。その一言に、彼女の胸中の不安が滲んでいた。

 桜は少し笑みを作り、皆を安心させるように声を上げる。

「大丈夫だよ! ……いろいろ心配かけてごめんね。」

 彼女は真っ直ぐに仲間を見回し、強い瞳で言葉を続けた。

「あの盗賊たちみたいな人を、一人でも少なくしなきゃいけない。だから私は、ここで立ち止まってなんていられない。」

 胸に手を当てると、その声には決意が込められていた。

 桜は仲間たちに向き直ると、にこっと笑って見せる。

「だからみんな、これからも力を貸してね」

 善助は静かに背筋を伸ばし、真剣な眼差しで桜に向き直った。

「……ははっ!」

 友信は大きな体を揺らし、力強く頷く。

「んだあ」

 全登もやさしい笑みを浮かべ、身体を傾けながら答える。

「私も援軍に来たときは、お手伝いしますね」

「ありがとう! 全登ちゃん!」

 桜は嬉しそうに声を弾ませた。

 すると又兵衛が、あきれたように肩をすくめる。

「まったく……もう勝手に一人で走りだすなよな。」

「ははは……ごめんね、又兵衛。」

 桜は舌を出すように笑って、少し気まずそうに後頭部をかいた。

 その脇で、スシイヌが尻尾をぶんぶん振りながら桜の足元にまとわりつく。

 桜はその小さな体を抱き上げ、頬をすり寄せながら微笑んだ。

「お前がみんなを案内してくれたんだね……助かったよ。本当にありがとう」

「ワン!」

 スシイヌが短く鳴くと、全登が思わず目を細める。

(……ワンって言った。イヌみたいだ……)

 その場に柔らかな笑い声が広がり、重苦しかった空気はいつしか温もりに包まれていった。


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