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赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

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第三話 播磨の盗賊⑥

バキッ!

 その瞬間、異様な音が響いた。槍を構えて突進した盗賊の一人の首が、不自然に折れ曲がる。

 盗賊の男の体が揺れ動く。頭部を狙った鋭い当身。倒れる男の影から西洋甲冑が日の光を反射し、閃いた。

「悪党たちよ――死して神に許しを請いなさい」

 陽を背に立つ全登の声は澄み渡り、まるで天啓のように響いた。

「な、なんだお前は!」

 盗賊たちは一斉に全登の方を向き、驚愕に目を見開いた。

 だがその刹那、風を切るような鋭い剣閃がほとばしり、陽光を浴びた草むらに鮮やかな血飛沫が散った。飛び散った滴がきらめき、まるで紅い花が瞬間に咲き乱れるかのようだった。

「ぐあっ!」

「ひいっ!」

 仲間の断末魔に、盗賊たちの顔色が一気に蒼ざめる。現れたのは、まるで鬼のような目をした赤松家の将達。

「くそっ! こいつら、どこから湧いてきやがった!」

 震える声を振り絞りながらも、刃を握る手はまだ諦めていない。

 彼らはこれまで幾度となく死地を越えてきた男たちだった。血煙の中であっても体勢を立て直し、残った四人が息を合わせるように吠え声をあげ、一斉に切りかかった。

 キインッ! ガィインッ!

 鋼と鋼が激しく打ち合わされ、乾いた火花が散る。

ブシュッ――。

 だが、宇喜多家、赤松家の猛将たちが相手では、とても勝ち目はなかった。

 盗賊たちの必死の抵抗も虚しく、一人、また一人と無惨に崩れ落ちていった。

 やがて、残ったのはただ一人。盗賊の頭――剛蔵のみ。

 血に塗れた地面の中、彼の荒い息遣いだけがやけに大きく響いていた。

「まったく、鼻の良いこいつがいなけりゃ、殿を探し回らなくちゃならないところだったぜ」

 又兵衛が槍を払いつつ、隣にちょこんと立つスシイヌへ視線を落とす。その口調は軽いが、動きには一分の隙もなかった。

「お前達っ……!ちくしょう!」

 剛蔵はよろけながらも地に落ちた刀を拾おうとする。

 そこへ、背後から友信がぬっと現れ、大槍を構える。

 ゴスッ!

 鈍い音とともに、大槍の柄で頭部を揺らされた剛蔵は、その場に崩れ落ちた。

「殿、お怪我は?」

 駆け寄った善助の声は焦りを帯びていた。

「ううん……大丈夫。ありがとう」

 桜はほっと息を吐き、緊張の糸が切れたように力が抜け、その場に座り込んだ。昼の光がその肩を優しく照らしている。


 ほどなくして、盗賊の頭―剛蔵は両膝をつかされ、縄で厳重に縛り上げられていた。

 荒い息を吐きながら、彼は周囲の手練れの家臣たちを見回す。

「……嬢ちゃん。あんた、なにもんだ?」

 桜は立ち上がり、まっすぐにその瞳を見据えた。

「私は赤松家当主、赤松桜。」

「ハッ!」

 剛蔵は嘲るように笑う。

「こいつはたまげたぜ……この国の領主様だったとはな」

 桜は一歩踏み出し、きっぱりと告げる。

「金輪際、盗賊行為をしないと誓いなさい。そうすれば命までは取らない。」

 桜の声は静かだった。けれども、その響きは決して揺るがぬ鋼のようで、場の空気を張り詰めさせた。

 沈黙が流れる。風が草を揺らす音さえも、どこか遠くへ追いやられたように感じられる。

 やがて、剛蔵は小さく肩を震わせ、薄ら笑いを浮かべた。血に染まった唇の端をゆっくりと歪める。

「……おやさしい殿様だぜ。だがな――盗賊の俺にも、信念ってもんがあんだよ」

 掠れた声には、開き直りでも虚勢でもなく、どこか確固とした重さが宿っていた。

 桜はその言葉を受け、唇を噛みしめる。胸の奥から込み上げる苛立ちと哀しみが入り交じり、どうしても飲み込めない。

「その信念ってのは、命より大事なものなの?」

 鋭く問いかけるように視線を向けた。

 その双眸には、ただ答えを求めるだけでなく――どうか誤った答えを返さないでほしい、そんな必死の願いが込められていた。


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