第三話 播磨の盗賊⑤
剛蔵は、その異様な光景に思わず眉をひそめ、警戒心を露わにする。
「……なにをするつもりだ」
ごつごつとした拳に力がこもり、刀を握り直した瞬間――
桜は迷わず動いた。右脚で大地を蹴り、軽やかに前へと跳ねる。
左手の細剣がまっすぐ伸び、その突きは全身のしなりを極限まで引き出したものだった。脚から腰、背、腕――その連なりが放つ鋭さは、一筋の光の矢のように大男の胸を狙う。
「おおっと!」
剛蔵は反射的に地を蹴り、後方へと飛び退く。
全身をバネのように使った、異様に間合いの長い突き―。
突きは剛蔵の胸元をかすめ、風を裂いて空を貫いた。ほんの紙一重。彼の胸前に煌めきが走った。
「……あっぶねえ……」
大きく息を吐き、にやりと笑みを浮かべた大男。だが、その笑みは一瞬で凍りつく。
桜の瞳は揺るがず、ただひたすらに自分を射抜くように見据えていたからだ。
――タタッ――!
桜は細剣を突き出したまま、まるで矢そのもののように走り抜ける。
大振りの突きからの、捨て身の突進―。
その動きは常人の域を超えたわけではない。ただ、武士同士の斬り合いに慣れきったこの国の者たちにとって、見慣れぬ異国の技は異様に映り、対応の隙を生んだ。
「ぐうっ……!」
虚を突かれた剛蔵は回避が遅れ、とっさに身をよじる。だがそれでも間に合わず、細剣が肩口へと深々と突き刺さる。
ブシュウッ!!
鮮血が昼の光に弾け、赤くきらめきながら飛び散った。
「くそったれえ……!」
膝をつき、荒い息を吐く大男。手で押さえたその肩からは血が噴き出し、衣を濡らしていく。
桜は細剣を引き抜き、大男を見据える。
表情には勝利の余韻も油断もなく、ただ冷静に言葉を紡ぐ。
「……私の勝ちだね。約束通り、あの男の子を解放して」
その声を聞きながら、剛蔵は苦しげに顔を上げた。
「……おい、てめえら」
後ろに控える手下たちへと視線を送る。
「かまわねえ、全員で縛り上げろ。」
「へい」
にやにやと笑みを浮かべ、盗賊たちは一斉に桜ににじり寄る。昼の陽光が彼らの影を地面に落とし、円を描くように桜を囲んだ。
桜の瞳が大きく見開かれる。
「そんな……!約束が違う!」
剛蔵は口元を歪め、嗤った。
「おいおい……俺たちは盗賊だぜ? 義理や筋で飯が食えるかってんだよ」
ジリッ ジリッ――
乾いた土を踏みしめる音が、桜の周囲で不気味に響く。昼下がりの陽光が差し込む中、盗賊たちがにじり寄り、影を伸ばしていた。背後では弓を構えた盗賊が、桜を狙いすましている。矢じりが太陽を反射し、ぎらりと光った。
「うっ……」
桜は盗賊達に細剣を突きつけて威嚇するが、その手が小さく震えているのを自分でも感じた。頭の中で必死に打開策を模索する。けれど、包囲網はすでに閉じつつあり、良い策は思い浮かばない。
そして――
「うおおおおっ!」
怒号と共に盗賊たちが一斉に地を蹴った。砂塵が舞い上がり、鋭い刃が一斉に光る。




