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赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

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第三話 播磨の盗賊④

剛蔵はギラついた眼を細め、口元を歪ませて笑った。

「いいだろう。嬢ちゃんが勝てば小僧を解放してやる」

 吐き捨てるように言いながら、一歩前へ踏み出す。

「だが俺が勝てば――嬢ちゃん、二度と家には帰れねえぜ。」

 その大きな体が軋む音を立てるように動くと、肩をぐるりと回し、首をバキバキと鳴らした。

 次の瞬間、錆びつき刃こぼれだらけの刀を大きく振り上げ、桜に向かって構える。

 日の光を反射してかろうじて光るその刃は、長年の血と錆で黒ずみ、見る者に不吉な気配を漂わせていた。

「悪いが少々痛い目をみてもらうぞ。」

 低く唸るように言うと、大男はゆっくりと桜に歩み寄る。

それを見た、周囲にいた盗賊の一人が慌てて声をあげる。

「剛蔵さん!売り物なんだから、傷をつけねえようお願いしますよ!」

 剛蔵は振り返りざま、乱暴に鼻を鳴らして答えた。

「わかってらあ!」

 言葉と同時に、刀を振り下ろす。

 ――ブウンッ!

 風を切る鋭い音が空気を裂き、地面の草がざわりと揺れる。

 桜は反射的に足を引き、後方へと飛び退いた。裾がひるがえり、頬に冷たい風がかすめる。

 刀はかろうじてかわされ、地面に叩きつけられた衝撃で土煙がふわりと舞い上がった。


「ほぉ……多少は武芸の心得があるじゃねえか!」

 感心したようにうなると、剛蔵は刀を振り回し始める。

 右へ、左へ、容赦なく襲い来る鉄の軌跡。

 ――ブンッ! ビュウッ! ブウンッ!

 空気が震えるほどの重い音が連続して響く。

 ガキイインッ

 剛蔵の刀を受け止めた桜の細剣が火花を散らす。

「それにその異国の剣……ただの町民じゃねえな。」

「ぐっ……!」

 剛蔵の攻撃は荒々しく、隙も大きい。しかしその一撃一撃は、並の武士でさえ受け止めきれぬほど重い。

 桜は細剣でまともに受けることを避け、身をひねり、細かな足さばきでかわし続ける。


「ちょこまか動きやがって! おらあっ!」

 怒声とともに、剛蔵は刀を左から振り抜く。

 だが、その刃は途中でぴたりと止まり、瞬時に切り返された。フェイントから続く本命の斬撃が、桜の左側から鋭く襲い掛かる。

「くっ!」

 反応がわずかに遅れた桜は、とっさに細剣を構えて受け止める。

 ――ガキィンッ!

 金属のぶつかる衝撃が腕をしびれさせ、足元がぐらつく。

 次の瞬間――。

 押し負けた細剣の刃がはじかれ、鋭い切っ先が桜の左肩を裂いた。

 ブシュッ!

「いっ……!」

 桜の悲鳴が漏れる。着物の肩口が大きく裂け、白布を鮮やかな赤が瞬く間に染め上げていく。血の匂いが風に混じり、辺りの盗賊たちがどよめいた。

「チッ……傷ものにしちまったじゃねえかよ。」

 苦笑しながら桜にゆっくり歩み寄る。

 だが――。

 桜は震えることなく、まっすぐに大男を見据えていた。

 右手をそっと左肩に当て、深く息を吸い込む。

 ――ブウン……。

 掌からやわらかな光があふれ出す。まるで剛蔵の余裕を押し返すかのように淡い輝きが肩を包み込み、滲んでいた血がみるみるうちに止まっていった。

 剛蔵の目が大きく見開かれる。

「治癒の念術……何者だ、あんた。」

 仲間の一人が怯え混じりに叫ぶ。

「剛蔵さん! そんな小娘、さっさとのしてやってくだせえ!」

 だが剛蔵は口角を歪ませ、苛立ちながら返す。

「わかってらあ!」

昼下がりの陽光が、木々の間からきらきらと差し込み、戦いの場を照らしていた。

 桜は右手に柔らかな光を宿したまま、一歩、また一歩と大男へと近づく。その光は陽の光と混ざり合い、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。


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