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赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第一章 示された道
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第一話 戦国大名―赤松桜②

城の広間。

高い天井からは柔らかな日の光が差し込み、木の床の上に斜めの影を落としている。

桜はその中央に正座し、震える声を抑えながら必死に語っていた。

自分がいた元の世界のこと。そして気がつけばこの時代に飛ばされていたこと。

そして自分の存在がなぜか、周りに自然と受け入れられている事――。

思い出すだけで頭が混乱しそうになるが、何とか言葉をつなげて説明を続けた。


話が一通り終わると、老将・赤松政秀が眉間に深い皺を寄せ、低い声でゆっくりと確認した。

「……で。崩壊した日ノ本を元に戻すため、殿はこの時代にやってきた、と。」

桜は背筋をこわばらせ、うつむいたまま小さく答える。

「……うん……」

広間にいた五人の武将たちは顔を見合わせるでもなく、ただ重々しい沈黙を保った。障子越しに聞こえる風の音だけが、やけに大きく響く。

「……やっぱり、信じてもらえないかな……」

桜がぽつりとつぶやいたその瞬間――

「当たり前だろ!」

場を裂くように、後藤又兵衛が声を上げた。オレンジ色の髪が日の光を受けて揺れ、いたずらっ子のような目が愉快そうに細められる。

「そんなこと、いきなり言われても誰が信じるんだよ!」

又兵衛は膝を叩きながら笑い、さらに隣の仲間を肘で突いた。

「なあ、姉御!」

その呼びかけに、栗山善助は小さくため息をつき、黒いショートヘアを耳にかけながら視線を逸らした。

表情は柔らかくも厳しく、何か言いたげだったが――結局は口を閉ざしたまま、ただ沈黙を守った。

「だよねえ……」

正直、自分でも突然すぎると思う。でも、何とか証拠を示さなければ。

「……では、お聞きしますが」

静かに響く落ち着いた声。

桜が振り向くと、官兵衛が鋭い目を向けていた。

「これから天下を握るのは、誰だかご存じでしょうか?」

彼は瞳の奥で何かを探るように、じっと桜を見つめている。

桜は一瞬戸惑ったが、迷うことなく答えた。

「……信長だよ」

その瞬間、官兵衛の表情がわずかに変わった。

「……!」

「んなわけねーだろ!」又兵衛が大笑いする。 

「今信長は毛利、武田、上杉ら諸大名から信長包囲網を敷かれて八方ふさがり!

毛利や武田ならまだしも、信長はもう終わりだっての!」

「……武田はだめだったんだよ。長篠の戦いで、鉄砲でやられるの」

「んなわけねーだろ!」

とまた又兵衛は大笑いする。

「鉄砲なんて、合戦で使いものにならねーっての!」

「……教科書に書いてたのになあ……」


みなが解散した後、桜は日の差し込む姫路城の廊下をゆっくり歩く。

(私はたしかにここへ来る前に神様にお願いをした……世界を元にもどしてほしいと。ここで私が当主になった事には意味があるはず……まずは当主としてがんばらないと!)

まずは当主として何をすればいいだろうか?

桜は大きな決意とともにいてもたってもいられず、つい歩幅を早くする。

「いたっ!」

歩幅を不用意に早めてしまったことで、慣れない着物を踏み、前へと倒れてしまう。

「いたた……」

膝を床に打ち付けてしまったようだ。

かすかな痛みが、じんじんと続く。

桜は膝を手で撫でた。すると――


 ――ポウッ


膝を押さえた手に緑色のやさしい光がやどる。

「うわっ」

突然の事に桜ばびっくりし、手を膝から離した。

手からは何事もなかったかのように光が消えている。だが――

「あれ……?」

ふと先ほどまでじんじんしていた膝の痛みが少し楽になったように感じる。

ただそこまで強い痛みではなかったため、気のせいかもしれない。

(今の光はなんだったんだろう……。魔法……?)

たしかに魔法があったとしても不思議ではない。自分だってつい数日前、現代から戦国時代へタイムスリップしているのだから。

ましてや妖怪がいる世界。非現実的な時間に、桜は少しづつではあるが慣れはじめていた。

ちょうど向こうから老将―赤松政秀が歩いてくるのが見えた。

「あ、政秀!」

「これは殿、座り込んでどうしたのです?大丈夫でございますか?」

「う、うん!全然平気!」

慌てて立ち上がりながら桜は笑顔を取り繕う。ちょっと恥ずかしい。

「それよりね……」

言葉を整えるように、少し真剣な表情を作る。

「私は当主としてがんばっていきたいと思ってるの。当主としてまずは何をやればいいかな?」

すると政秀は、目を細めて頷いた。

「これは殿、感心ですぞ! そうですな……国とは民あってのもの。まずは城下へ出られて、民の言葉を聞かれてみてはいかがでしょう?」

「城下の人の声を聞く……」

桜はその言葉を繰り返し、うん、と力強く頷いた。

「うん!やってみるよ!」

まだまだ不安は尽きないけれど、こうして少しずつ前に進んでいけばいい。

ここでの一歩一歩が、未来に繋がっていくと信じて。


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