表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第一章 示された道
3/4

―プロローグ―③

桜はまぶたをゆっくりと開いた。ぼんやりとした視界が徐々に焦点を結ぶ。

「……ん?」

 寝転がっていた体を起こし、周囲を見回す。柔らかな畳の感触が足元から伝わり、鼻をくすぐるのはかすかに香る白檀の匂い。見上げると、木の梁が走る天井が目に入った。

「ここは……?」

 辺りを見回すと、襖と障子に囲まれた和風の部屋だった。古めかしいが手入れの行き届いた空間。静寂の中、どこか遠くで風鈴の音がかすかに揺れている。

「は……!」

 桜は突然、先ほどの記憶が蘇り、息をのんだ。

 砲撃、終わる気配のない激しい爆音。煙に包まれ、逃げ惑う人々。あの崩壊した町から、どうしてこんな場所に——。

 早く、逃げなければ。

 そう思うや否や、桜は立ち上がり、勢いよく障子を開け放った。

 目の前に広がったのは、美しい日本庭園だった。

 手入れの行き届いた苔庭には、白砂の枯山水が広がり、楓の葉が風に揺れている。奥には小さな池があり、青銅の灯籠のそばで鯉が悠々と泳いでいた。耳を澄ますと、水の流れる音が心地よく響いている。

 桜は言葉を失った。

(……どうして? 私、逃げているうちにどこかに迷い込んじゃったの?)

 庭の向こう側に視線を向けると、そこには壮麗な城と高くそびえる塀があった。見上げるほどの大きな天守閣。白壁に映える黒瓦の屋根。

内戦で破壊されたはずの姫路城がそこに建っていた。世界が変化する前の、懐かしい姿。

(映画のセット……? いや、それにしては……)

 桜は困惑しながら、もっと周囲を確認しようと、高台へ向かって走り出した。

 視界が開けた瞬間、彼女は息をのむ。

 そこに広がっていたのは、見渡す限りの城下町だった。

 碁盤の目のように整然と並ぶ建物。行き交う人々は皆、和服姿。荷を積んだ馬が通り、商人たちが声を張り上げる。遠くの市場からは活気に満ちたざわめきが聞こえた。


挿絵(By みてみん)


(こんなの……映画のセットなわけがない!)

 鼓動が速まる、ここは一体どこなのか、どうして自分がここにいるのか——。

「姫様」

「うわっ!」

 突然、背後から声をかけられ、桜は驚いて飛び上がった。

 慌てて振り向くと、そこには着物を纏った女性が立っていた。優雅にまとめられた髪に、落ち着いた色合いの着物。身のこなしは丁寧で、どこか気品が漂っている。

「え……? あ……」

 桜は反射的に両手を前に出し、とっさに口を開いた。

「私、あやしいものじゃ……」

 しかし、女性は不思議そうに首をかしげ、柔らかく微笑んだ。

「探しましたよ、姫様。食事の準備ができました。」

「え……?」

 桜の思考が一瞬停止する。

「ささ、早く。」

 着物を着た女性はそう言い、にこやかに手を差し伸べた。

「あ……はい……」

 桜は戸惑いながらも、その手に導かれるように歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ