第七話 備前の妖怪②
「チッ、雑魚が出迎えってか!上等だ!」
又兵衛は槍で獣のような妖怪の腹を貫くと、そのまま力任せに地面へ叩きつけた。
「はっ!」
善助の日本刀が閃く。鋭い一太刀が妖怪の首をはね、そのまま隣にいたもう一体の胴を断ち切った。
「ふうううっ!」
友信は大槍を豪快に振るい、一度に複数の妖怪を薙ぎ払った。
一行が洞窟の奥へ進むにごとに、妖怪の手下どもが闇の中から次々と襲いかかってくる。
不気味に光る赤い目、ぎざぎざに裂けた口から滴るよだれ、鋭い爪を振り上げ、一行に向かって猛然と飛びかかってきた。
「うっ……!」
桜が咄嗟に後ろへ飛び退くと、すぐそばで友信が槍を振るった。
「ぶっ刺すだあ!」
友信の大槍が唸りを上げ、妖怪の一体を串刺しにする。だが、その妖怪は槍に貫かれながらも友信の腕を掴んだ。槍をつたいながら首をぬっと伸ばし、その牙が友信を狙う。
「友信!」
善助が即座に駆け寄り、日本刀を一閃。妖怪の腕ごと首を切り裂いた。友信の槍を離れた妖怪の体が地面に崩れ落ちる。
「助かっただあ……!」
「こいつらに恐怖心はない。やっかいな相手だ……」
善助が眉をひそめる。だが、構うことなく二体目、三体目と迫る妖怪たち。
「チッ、きりがねぇな!」
又兵衛が槍を大きく振るうと、獣のような妖怪たちはうなり声を上げつつ槍の
圏内から飛び退いた。
だが、その刹那――闇の影を裂いて、別の妖怪が背後から音もなく迫る。
周囲の妖怪に気を奪われた又兵衛の背中へ、爪を振り上げた。
「又兵衛、あぶない!」
桜の鋭い声が響く。彼女はとっさに細剣を構え、足を踏み込んで妖怪へ突進し
た。
プシュッ――。
鋭い突きが妖怪の腹部を正確に貫く。
ぐらりと身をよじらせた妖怪が血を吐きながら桜を睨みつけ、その眼光には憎悪
が燃えた。
だが、その動きに気づいた又兵衛がすかさず踏み込み、槍の穂先を大きく払う。
バシュッ!
背中を深々と切り裂かれた妖怪は、断末魔の声を上げて地に崩れ落ちた。
「殿、やるじゃねえか!」
又兵衛が豪快に笑い、血を払うように槍をひと振りする。
「えへへ……」
桜は細剣を胸の前に構え直し、照れ笑いを浮かべながらも息を整えた。
官兵衛はその光景にひとつ頷くと、すぐさま妖怪の群れへ視線を戻し、低くつぶやいた。
「……このままでは埒が明かぬな」
低くつぶやいた官兵衛は、わずかに目を閉じ、胸の奥から息を吐き出すようにして呪文の言葉を紡ぎ始めた。
低い声は洞窟の壁に反響し、ぞわりと背筋を撫でるような不気味な響きとなる。
「影に影を重ね、闇に闇を加う。
声は地を縛し、牙は魂を裂く。
来れ、冥の棘。」
その時間、十数秒――。
仲間たちは周囲の妖怪を押しとどめるように刃を振るいながら、官兵衛の詠唱を護るように立ち回った。
やがて官兵衛は目を見開き、すばやく両の手を重ね合わせ、複雑な印を結ぶ。
「闇の念術――《棘黒陣》」
その声を合図に、妖怪たちの足元から黒々とした文字の紋が浮かび上がった。
まるで大地そのものが呻いているかのように、洞窟の空気が一瞬で張りつめ、冷気が肌を刺す。
ピシリ――ッ。
乾いた音が響いたかと思うと、地面全体に蜘蛛の巣のような黒いひび割れが走る。
次の瞬間――
バシュッ! ブシュッ! グシャッ!
影から生えるように無数の黒い棘が一斉に突き出し、立ちはだかる妖怪たちの身体を容赦なく貫いた。骨の砕ける嫌な音、肉の裂ける湿った音が洞窟にこだまし、妖怪たちの断末魔の叫びが重なり合う。
「ガアアアアッ!」
耳をつんざく悲鳴。数体の妖怪が身体を痙攣させ、そのまま崩れ落ちる。やがて棘は黒い煙となって溶けるように消え、後に残されたのは血に濡れた岩肌と、動かなくなった妖怪たちの亡骸だった。
「おおっ、さすが官兵衛! 一気に片付いたぜ!」
又兵衛が大きく息を吐き、口角を上げて叫ぶ。手にした槍をひと振りし、飛び散った血を払い落とすと、再び頼もしげに構え直した。その声に、張り詰めていた緊張がわずかに和らぎ、仲間たちの表情に光が戻る。
「……強力な念術を放つには、相応の時が必要だ。すまぬが、その間は敵を引きつけてくれ。」
官兵衛は短く息を整えながら答え、鋭い視線でなおも蠢く妖怪の影を睨み据える。
「まかせろ!」
又兵衛が力強く叫ぶと、その声を合図に仲間たちも再び前へと踏み出す。
金属と牙のぶつかる音、血が飛び散る匂い、足元に倒れる影――混沌の中を一歩ずつ、確実に進んでいった。




