表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤松天翔物語  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/108

第十話 毛利軍本隊―進軍開始。⑦

――


「おお、来たな。隆元たかもと元春もとはる隆景たかかげ。」

 畳の上に正座した父、毛利元就もうりもとなりが、三人の子を前にして目を細める。

 その手には三本の矢。元就はその一本ずつを三人の子らに渡した。

「お前達、これを折ってみよ。」

 3人は顔を見合わせつつも手に力を込める。

 パキッ。パキッ。パキ……。

 細い矢は、幼き三人の小さな手でも容易く折ることができた。

「うむうむ。一番力の弱い隆景でも折れたな。では、これはどうじゃ。」

 今度は三本を束ね、3人に差し出す。

 元春が力をこめる。腕の筋が浮き、顔をしかめるが――。

 ググッ……。

「三本の束では……一番腕っぷしの強い元春でも折れなかったな。」

 元就の声は厳しくも優しい響きを帯びていた。

 元就は、ひとりひとりに視線を移してゆく。

「隆景――そなたは聡く、物事をよく見抜く子よ。知恵こそがおぬしの力となろう。」

 優しく告げられるその言葉に、隆景は小さく背筋を伸ばし、真剣なまなざしで父を見返す。

「元春――そなたは誰よりも腕っぷしが強い。力をもって仲間を守れるのは、大きな誇りだ。」

 言われた元春は胸を張り、悔しそうに笑いながらも、父の言葉に素直にうなずいた。

「隆元――そなたは常に弟妹を気遣い、広い視野をもって皆を導こうとする。父はそれをよく知っておる。」

 その言葉に、隆元は少し照れくさそうに笑い、弟妹へとやさしい眼差しを向けた。

 元就は三人をゆっくりと見渡し、声に力を込める。

「そなたら三人は、わしの自慢の子供たちじゃ。――この3本の矢のように、互いに助け合い、力を合わせれば決して折れることはない。」

 重々しく告げられる言葉は、幼い胸に深く刻まれてゆく。

「これからも3人、力を合わせて生きてゆくのだぞ。」

 広間にはしばしの静けさが訪れ、子らのまなざしには父の教えを受け止める強い光が宿っていた。


 隆元が声を張り上げる。

「こら、元春! また喧嘩をしたそうではないか! いいか、よく聞け。殴る前に今一度考えよ。相手が正しいこともあるやもしれぬではないか!」

 真っ直ぐな叱責の声が座敷に響いた。

 元春の顔に、ふっと小さな苛立ちが走る。唇を尖らせ、心の中でつぶやく。

(いつもキーキーうるせえなあ、兄貴は……。)

 そのとき、背後で紙がめくれる音がばさりと立ち、続いて積み上げられた本が崩れる派手な音がした。

「わーん!」

 幼い隆景の泣き声が部屋に弾ける。

 隆元は咄嗟に身を翻し、本を拾い上げながら隆景のもとへ駆け寄った。

「これ、隆景。女の子なのだから重いものを持つでない。兄ちゃんが持ってやろう。」

 隆景を気遣うその手つきは柔らかく、声は自然と優しさに満ちていた。

 元春はそんな兄の様子を、少し離れたところからじっと見つめる。

(兄貴は……隆景には甘いよなあ……。)


 ――やがて時は流れ、三人は成長し、戦場に出るようになった。

 隆景の光の念術が、空を覆う無数の光の槍となり敵軍の頭上に降り注ぐ。

「はあーっ!!」

 元春は先頭に躍り出て、雄叫びとともに槍を振るい、敵兵たちを次々となぎ倒していく。

 その背中は猛き虎のようだったが、あまりに突出しすぎて、瞬く間に敵兵に囲まれてしまう。

「ちぃっ!」

 刃が閃き、槍をかわした敵兵の短刀が肩を掠める。そこへ―。

 ブシュッ、グサッ!

 背後から別の刃が敵兵を両断し、血飛沫が散った。

「元春! 先走りすぎだ! まったく……」

 駆けつけた隆元が、背後から敵兵を切り伏せながら叱る。

 だが次の瞬間、やれやれと言いたげに口角を上げ、元春に叫んだ。

「よい、兄が後ろを守ってやるゆえ、存分に暴れてこい!」

 その声に、元春は思わずニイッと笑った。

(ああ、やっぱり兄貴がいりゃあ……俺は何も怖くねえ!)

 彼は再び槍を構え、敵陣へと猛然と突き進んでいった。


 城の広間。暖かい日差しが障子から差し込み、障子の桟にできる影がゆっくりと動いていた。

 子どもじみたやりとりに見えても、そこには互いを譲らぬ真剣さが漂う、“いつもの光景”が広がっていた。

 隆景が小首をかしげ、わずかに笑みを浮かべて告げる。

「まったく、兄上は猪武者がすぎます。少しは引くことを覚えてくださいませ。」

 元春はふんっと鼻を鳴らし、獲物を前にした獣のように目を光らせる。

「なにいっ? 兄貴みたいな口を利きやがって。妹のくせに生意気だ!」

 そう言いざま、ぐっと手を伸ばし隆景の頭を軽くぐりぐりと押す。

 痛みは大したことはない。だが隆景の瞳にはむっとした怒りが燃えた。

「いーたーいー! いのしし! いのししいのししいのしし!!」

 声は調子を外していても、言葉の刃は本気だ。

 すかさず元春も応酬する。

「なんだと! あたまでっかち! あたまあたまあたまあたま!!」

 中庭では小鳥がさえずり、ゆっくりとした時間が流れる。

 だが、その時―


  ――ピシッ。


 広間にかけられていた三本の矢のうち一本にひびが走り、乾いた音を立てて床に落ちた。

 元春の笑みが消え、視線がそちらに吸い寄せられる。

「……ッ?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ