能力者として
放課後。チャイムが鳴るやいなや、純は誰よりも早くカバンをまとめた
「……おっ、荒井、今日も“帰宅部”最速ダッシュっすか?」
クラスメイトの冷やかしを背中で受け流しつつ、純はサラッと返す
「“帰宅”じゃねぇ、“出勤”だ」
「は? どこ行くんだよ。バイト? コンビニ? ゲーセン?」
「……秘密結社」
「真顔で言うなや!!」
ドアを抜けて階段を降りながら、純はポケットの中で通信機のスイッチを押した
ビーッ……ビーッ……
画面には、一瞬、静電気のようなノイズとともに文字が浮かぶ
「はいよ、こちら純」
純は通信機を受け取ると、
司令官が応答した
ビー……ッ。ビー……ッ
通信機から微弱なノイズ音。そして、機械音声のような、でも妙に人間くさい声が返ってきた
『――こちら司令室。“新入り”受信確認。荒井純、予定どおり本拠地へ移動開始とみなす』
「なあ司令官、いつまで“新入り”なんだよ。もう半年だぞ?」
『“新入り”は“新入り”だ。年功序列と可視化レベルで決定済み』
「合理的なようで雑すぎるだろその分類……」
ぶつぶつ言いながらも、純の足取りは軽快だ。階段を降りきると、外には少し肌寒い風
制服の上着をバサッとはためかせて、純はイヤホン型の通信機を片耳に差し込んだ
「で、今日の出勤内容は? 異界か、警報か、また変な植物でも生えたか?」
『任務指定:予備対応。メインオペレーターは――蒼山』
「……あー、そっちか」
通信の向こうで、一瞬“沈黙”という名の圧が走った気がした
『“そっち”とは何だ、新入り』
「いえいえ、ありがたく拝命いたします、最強の蒼山様の下、感電覚悟で全力働かせていただきます」
『皮肉と受け取っていいか?』
「いやいや滅相もない、これガチ感謝っす」
慣れているのだ。司令官のこのノリも、貴明の恐ろしさも――
工場のような外観を抜けた先にあるのは、軍事基地顔負けの設備。異能者たちの舞台裏だ
ゲートを通過すると、タービン音と電磁フィールドの唸りが耳を打つ
そこに待っていたのは――
「よっ、今日も元気そうで何より!」
にこやかな声とガッツポーズ。根口航介だった
「……航介さん、今日もテンションだけは高いっすね」
「いやー最近な、息子が中学で友達とバンド組んだらしくてよ。“パパ、音響のケーブル貸して!”って、かわいすぎんだろ!」
「普通に親バカじゃねぇか」
純が呆れたように言うと、航介はなぜか得意げに胸を張った
「だってよ、智嬉が“パパが昔ギターやってたなんて知らなかった〜!”とか言うんだぜ? 父親の新たな一面に感動しちまってな?」
「いや、それ……感動っていうより情報不足じゃ……」
「バンド名もな、“ストロベリーヘルレイジング”だってよ!」
「センスが大渋滞してる!!」
「なあ純、お前も高校でバンド組め! 雷属性だし、ギター似合うぞ!」
「なにその偏見! 雷属性=ギターは一部の中二病だけだって!」
「ボーカルでもいいぞ! 『雷光に震えよ凡俗どもォ!』とかシャウトするの! バッチリだろ!」
「絶対問題になるやつだそれ!!」
冗談半分、本気半分の航介のノリに、純はこめかみを押さえる
(これが一応、能力者チームのベテランなんだよなぁ……)
とはいえ、根口航介はただの親バカじゃない
元・異界戦線の前線部隊。異能の分類は“空間操作”。接触なしで物体を動かすだけでなく、空間ごとひん曲げることすら可能。……その気になれば、駅ビルひとつ、ねじ切れる
だが、いまは。
「よし、じゃあ今日の訓練、オレが付き合ってやる! 俺がターゲット役だ!」
「えっ、いや、航介さんってば割と本気で強いじゃないっすか。やる気出されると普通にヤバいんすけど」
「なぁに、安心しろ。今日は“七割抑えて”やる」
「三割残ってる時点でアウトなんですよ!!」
航介さんは楽しそうにニヤニヤしていた




