純の強制特訓
滝の脳内は――もう完全にパニックの嵐だった。
(やっべぇ……これ絶対、兄ちゃんの雷コントロール教室が必要じゃん……
てか俺、なんで中学生で“雷の家庭教師”やんの!?無理だろ!? 社会の先生でも無理だろ!?
どうすんだよこれ!!
大人でも無理だってのに中学の俺なんかがひきうけていいのか!?
体育祭どうなる!? 合唱コンクールどうなる!?)
そんな滝の脳内暴走なんてお構いなしに、純は焦りまくって胸を張る。
滝の脳内、すでに校舎が雷で爆散してる映像が勝手に流れ始める。
(俺の青春……
“普通の中学生活”とかいう現実…
全部雷で燃えるぅぅぅぅぅ……!!!)
体育館が光の柱に包まれ、机が静電気で浮き上がり、校舎の前で卒業写真を撮ろうとしたらバックが巨大な落雷
雷で全て台無し 笑えない
(修学旅行も!文化祭も!体育祭も!
――“雷災害”で全部中止の未来しか見えねぇぇぇぇ!!!)
例えば体育館は、
天井を貫く光の柱に包まれ――ズゴォォォン!!
ステージ幕は燃え、リコーダーは空中で回転し、
机やイスは静電気で ふわぁぁぁ と浮遊
(なんで机浮いてんの……
あれ、物理どこ行った……!?)
卒業写真を撮ろうと外へ出れば、
背景に巨大な落雷
みんなの笑顔は白飛び
写真はただの“爆心地記録”みたいになる
(笑えないッッ!!!
これ、笑えるレベルじゃねぇ!!!)
「だから違うって!!
“ピカッ”って光っただけで!!
……あれ?今のは多分心が揺れただけ?」
滝の叫びに、純はグラウンドの真ん中でただオロオロするしかなかった
「いやマジで違うんだって!!
心拍数が上がるとピャッって来るだけで!!」
反論しながらも、その足は情けないほど震えている
滝は容赦なくツッコむ
「ピャッで校舎壊れてんだよ!!!!
ピャッの規模が人類規模なんだよ!!!」
純は慌てて両手を振りながら弁解した
「……でも改善はしてるんだって!!
昔は半径1キロ停電して――」
「前科が重い!!!!
なんで一般校来たのぉぉぉぉ!!!」
滝の脳内ではまた体育館が爆発する
(もう、ダメだ、この青髪兄ちゃん…せめて、兄ちゃんが司令官から呼び出しくる前に、なんとかしなくちゃ…俺も、高校に入れば能力者になんなきゃだし…)
と高速マッハで頭を回転する滝
現実の純は、
「ち、ちょっと!?もしもーし!?
おい滝!!なんかすげぇ顔して固まってんけど!?聞こえてる!?お前の目が“この世の終わり”みたいになってんぞ!!?」
滝は遠い目のままカクンと純の胸にもたれかかる
「兄ちゃん……雷……制御……
特訓しような……放課後な……
俺の、青春……守りたいから……」
「あ?…ああ、そうだな、まずは…その、プリンター壊しちまったこと謝らなきゃなんねーな」
「いやそこからなのぉぉぉおおお!?!?」
滝の全力ツッコミが止まらない
純は真剣な顔で首を縦に振る
「だってよ……あれ、なんかバチッて光ってさ……“カートリッジ交換してください”の表示出る前に消し炭になってたし、先生、泣きそうだったし……」
滝は頭を抱える
「違う!!!そういう“家電クラッシャーの反省”じゃなくて!! いや、まあ、学校の備品だからね!?謝らなきゃなんないけど、いや、そうじゃなくて!」
純は目をぱちぱちさせながら、まだプリンターの心配をしている
「えっ、でもよ……先生、本当に泣く寸前だったんだぞ……?“今年度の予算もう無いのに……”って……俺、胸が痛ぇ……」
「兄ちゃんの“ちょっと漏れた”雷でコピー機2台とプリンター1台消し炭になったんだよ!?
このままだと次、パソコン室全滅だから! 学校便りとか作れなくなるし!!あと、テスト!!プリント!!」
滝はさらに声を上げる
「胸が痛いで済まないの!!
このままだと、学校便りが手書きになるんだよ!!先生たちの腕が折れる!!」
「えっ、手書き……?」
純はようやく現実を実感する
「そう!! 手書き!!
テストのプリントも作れなくなるし!!
みんなノート提出型のテストになるんだよ!?
中学生全員が地獄を見るんだよ!!」
滝は純の肩に手を置く
「――放課後な。兄ちゃんのための、
雷コントロール特訓、始めるぞ」
純はハッと顔を上げる
「……滝……!俺を……助けてくれるのか……?」
「いや助けとかじゃなくて……
これ以上設備壊されたら俺の生活が終わるんだよ!!!」
「動機ひでぇ!!!」
滝はメラメラと闘志が燃えていた…――




