波乱の転校初日
滝は地面に膝をつき、両手で頭を抱えた
「もうダメだ……この学校……終わった……!!」
純はまったく理解していない顔で、ドヤ顔する
「いや、でもよ?先生が“体育は動きやすい格好で来てね”って言ったんだぞ?これ動きやすいし、正解だろ?」
「正解じゃねぇ!!!
“動きやすい=戦闘服”って思う高校生いるかぁぁ!!」
滝が絶叫すると、純は肩を落とす
「だってジャージ……肩が入んねぇしよ……」
「肩幅のせいかぁぁぁぁ!!!」
滝は現実逃避するように空を見上げる
「兄ちゃん……頼む……中学と高校の校舎つながってんだよここ……“戦闘服の高校生”が歩いてたら俺の学校まで噂回るんだよ……中学生が見たら“なんか軍人来た!!”って泣くんだよ……!」
純はわざとらしく肩をすくめて
「しゃーねぇだろ、司令官が“常識を学べ”とか言うからさ」
「学ぶ前に非常識ぶちまけてどうすんだよ兄ちゃーーーん!!」
「お、おい滝!?なんだよ急に引っ付くな!恥ずかしいだろ!」
滝は全力で純に縋る
「お願い!今日は!!学校内で暴れないで!!
あとその戦闘服で体育館行かないで!!
見た目がもう事件だから!!」
純はくすっと笑って滝の頭を撫でる
「分かったよ。……“できるだけ”大人しくしてやる」
「その“できるだけ”が一番危険なんだよおおお!!」
純はニヤリと不敵に笑いながら腕を組む
「ま、安心しろ。俺、転校初日くらいは控えめにするわ」
「昨日の停電みたいなの起こしたら絶交だからな!!」
「おう。……気をつけるわ」
だがその瞬間、校内の蛍光灯が「バチッ」と瞬灯した
「やめろやめろやめろやめろおおお!!!」
「いや俺じゃねぇって!!今日は“まだ”出してねぇ!!」
「“まだ”って言うなぁぁぁぁ!!!」
滝は頭を抱えながら純に詰め寄った
「“まだ”とか言うなって言ってんだろおおお!!今の絶対兄ちゃんの雷だろ!!」
純は全力で両手を振る
「違ぇって!!俺がやるときはもっと“ドゴォォン!!”って派手になるだろ!」
「派手にするなああああ!!」
滝のツッコミは完全に悲鳴だった
その時、蛍光灯はまだチカチカしている
ピカッ!
「やめろ!!やめろ!!」
「だから俺じゃねぇって!!」
ピカッ!
「学校が死ぬ!!校舎が死ぬ!!」
「いやどういう比喩だよ!!」
すると突然、どこか遠くの教室から先生の悲鳴が上がった
「きゃあああああ!!コピー機が爆発したぁぁ!!!」
滝が絶望の顔で純を見る
「兄ちゃん……ほら……」
「やっぱりこの雷か!?」
と純は青ざめる
滝は震える指で純を指差した
「兄ちゃん、“俺じゃねぇ”って言ったよな!?」
純は顔面蒼白になり、額の汗を垂らしながら叫ぶ
「ま、待て!本当に今のは俺じゃねぇ!!雷、勝手に出てねぇ!!……はず!!」
「“はず”が一番こえぇよ!!!」
滝が半泣きでツッコむ
そこへ、別の教室から教師たちの怒号が聞こえてきた
「こ、コピー機が止まりました!原因不明です!!」
紙が燃えた形跡は……ありません!ただ“焦げた匂い”だけが!!」
「電源は生きてるのに内部だけブラックアウトしてます!!」
滝がゆっくり純を見る
純がゆっくり滝を見る
「…………」
「兄ちゃん……?」
純、震える唇で
「……ち、違……いや違う、と思う!!多分!!」
「“多分”って言うなぁぁぁぁ!!! 兄ちゃん!どっからその雷出してんだ!!」
純は必死に首を振る
「いやだから!今日は“意図的には”出してねぇんだって!!」
「意図的じゃなくて“漏電”みたいに出てんじゃねぇか!!」
「漏電って言うな!!俺は家電か!!」
その瞬間またあの音がした
バチッ!!
純の背中あたりから、青白いスパークが飛んだ
ほんの一瞬、スーツ越しの滝の髪がふわっと逆立つ
「ぎゃあああああ!!今出たぁ!!今確実に出た!!!兄ちゃん放電した!!!」
純は青ざめて後ずさり
「ま、待て!これは……その……成長期の副作用っていうか……!」
「成長期で雷飛ぶやついねぇよ!!!化け物だよ!!!!」
「いや俺も困ってんだって!!心拍数が上がるとちょっと漏れるんだよ!!!」
滝は半泣きで純の胸ぐらをつかむ
「ちょっと!? コピー機壊れるぐらい!?
それ絶対 “ちょっと” の範囲じゃねぇだろ!!?」
純は逆に震えた声で叫ぶ
「だ、だから俺も想定外なんだよ!!
心拍数が上がると“ピカッ”て来るんだって!!」
「“ピカッ”くらいならまだいいんだよ!!!」
滝は両手で頭を抱えてぐるぐる回り始める
滝は脳内で
"やばい、純は雷の制御の矯正も必要だ…"
と純の必死の抗議が遠のく程ぐるぐる思考がマッハで動き回っていた…




