幼なじみ編
夏の夕暮れ、まだ小学校に上がる前の頃だった
滝は団地の前の広場で、ひとり棒を振り回していた
落ちていた木の枝を手に取り、まるでヒーローの剣でも持ったかのように、真剣な顔で風を切っていたのだ
そこへ、駆けてきたのが智嬉だった
緑色のビー玉を握りしめ、泥だらけの膝で「おい!」と声を張る
「なんだよ、それ。剣ごっこか?」
滝はすぐに胸を張って答えた
「俺はヒーローなんだ。悪いやつを倒す練習してんだよ」
「へぇ……」
智嬉は少し黙って、ぽんと石を蹴飛ばした
「じゃあ俺が敵やってやるよ。負けんなよ?」
次の瞬間、智嬉は全力で突っ込んできた。枝と拳がぶつかり、音が鳴った。二人とも痛みに顔をしかめたが、なぜか笑いがこぼれる
「……お前、強いな」滝が息を切らしながら言う
「お前もな」智嬉が笑って答える
それからというもの、二人は毎日のように遊んだ
棒を振り回して戦ったり、ビー玉で勝負したり、時には同じランドセルを背負って走った。雨の日は屋根の下でくだらないことで笑い合った
ケンカもした
泣きながら突き飛ばし合ったこともあったが、次の日には当たり前のように一緒に遊んでいた
――気づけば二人は、互いが隣にいるのが当然になっていた
「滝、俺ら、ずっと一緒だよな」
「当たり前だろ。智嬉は俺の相棒だ」
そう口にしたあの日の約束は、子供の戯言のようでいて、のちに幾度も戦場を共にする二人を支える絆の原点となった
夏の午後、校庭の隅にある鉄棒の下で、滝と智嬉は並んで座っていた
汗ばんだシャツが背中に張り付き、息はまだ少し荒い。さっきまで二人でサッカーボールを蹴り合い、取っ組み合いのような試合を繰り広げていたのだ
「……なあ滝、お前、やっぱ体力お化けだな」
智嬉が笑いながら肩で息をついた
「は?お前こそ。最後まで粘りやがって……」
滝も額の汗を手の甲でぬぐう




