婚約パレード〜異世界“あるある”に囲まれて〜
(チーズたっぷりのカルボブルダックが食べたい)
晴れ渡る青空を見ながら、リリィは小さくため息をついた。
目の前に広がるのは、絢爛な街並みと石畳に舞い散る花びら。沿道には、笑顔で手を振る人々の姿。まるで絵本の挿絵みたいな――いや、“異世界なろうテンプレ”の集合体のような風景だった。
(この世界に来て、もう十数年……やっぱり帰れないのかな……)
目が覚めたら、赤ん坊で。
そして気づけば、「お嬢様」と呼ばれていた。
言葉遣いはやたら上品で、日常の会話に「ですわ」「ごきげんよう」が乱舞していた。
ちなみにザマス夫人はいなかった。
新しい"人生"は、公爵令嬢リリィ・ナーガ・ラングドン。
リリィは物心つくころには、“自我ヤバめな子ども”として、自分の立場を把握していた。
周囲を困惑させるのも嫌だと思い、この世界に馴染もうと、なるべく“それっぽく”演じながらこの歳になったのだが……
やっぱり無理があった。
公爵令嬢として振る舞うのもギリギリだというのに、よりにもよって“王太子の婚約者”とは。
つまり、将来はこの国の頂点──“王妃”として生きることを期待されている。
(中身は一般ピーポーなのに、王家に嫁ぐとか無理すぎる!皇室や王室はニュースで見てたけど、格が違いすぎるし!)
リリィは回避のため、あの手この手で婚約破棄を試みたものの……
気づけば、“未来の王妃”として──
空飛ぶ馬車に乗っていた。
「皆さま、ご歓声を賜り、誠にありがとうございます。」
リリィは優雅に手を振りながら、にっこりと微笑んでみせる。
──もちろん、内心では真顔である。
(わぁ、これぜんぶ人なんだよな。おはら祭りより混んでる。なんか容器に入った爪楊枝みたい。)
群衆は、まるで波のように揺れている。
リリィは笑顔を崩さぬまま、器用に受け流すように視線を移した。
そして、さっきから外を見ていても、後ろからただならぬ“気配”を感じて落ち着かない。
(……近い。)
背中に、肩に、やたら密着してくる空気の読めない変態王子が一名。
「距離感おかしいんだよ……」
ぼそりとこぼした声も、馬車の中ではしっかり拾われたらしい。
「どうしたの?寒いのかい?」
甘ったるい声がささやかれる。
(いや逆。暑苦しい。)
リリィは手を下ろし、腰を捻って体を内側へ向けた。
視線も、自然とこの男──レイン王子へ流れる。
(……やっぱり近い)
このやたら近い男は、この国の第一王子にして、婚約者、レイン・レイ・トワイライト。
顔だけはやたら整っているのがまた腹立たしい。
特筆すべきは鼻筋、そして鼻筋。
すると、足にぬるりとした感触が走った。
(ん?)
ふと視線を落とすと、リリィの膝の上には、いつの間にか白蛇のような生き物がくるりと丸まっていた。
つるんとした体はつやつやで、顔にはまんまるの目がふたつ、しっぽはピコピコ動いている。
(……なんだ、パンニャか。)
その白蛇(※一応“妖精”らしい)は、リリィが物心ついた頃から都合よく現れてのんびりしていく、謎生物である。
パンニャはぴょこりと首を持ち上げて、目を輝かせた。
「わあ!リリィ!きれいなおよめさんだね〜!」
無邪気な声に、リリィは少しだけ目を細める。
「いや、まだ“お嫁さん”じゃないの。結婚してないし。“婚約者”ってやつよ」
「ふーん……じゃあ“こんやくしゃ”さん、だねっ!」
自分で言いながら、パンニャはなんだか得意げに胸(?)を張る。
……たぶん、全然わかってない。
でも、うれしそうにぴょこぴょこと身体を揺らす姿は、なんだか見ているこっちまで頬が緩む。
──と、そのとき。
「ほう、“婚約者”……」




