ソレソシレ
リロリロリン!
リロリロリン!!
リロリロリン!!!
耳をつんざく爆音が、夜の静寂を引き裂いた。
「……〜〜!!」
声にならない文句を言いながら、手を伸ばしてスマホを掴むと、画面には「緊急速報」「大雨警戒レベル4」の文字。
まだ心臓がバクバクしている。
(ああ、誰かが“ソレソシレ”って言ってたな。音感ある人はすごいよな。)
ビックリしすぎたせいで、変に冷静になる。
……もう諦めるしかない。こんな夜に、眠れるわけがない。
居間に行くと、明かりがついていた。誰かがテレビを見ている。
「身の安全を確保してください……」
「千台川が氾濫危険水位に……」
家族の誰かが振り向いて、「起きたのね」と言う。
「起こされたのよ」と返すと、ふっと笑って、少しだけ安心する。
そのあとも一人、また一人と、居間に集まってくる。
「明日、学校休みかね」
「バッテリー、充電あったけ」
「風呂場に水をためとくが」──
“最悪”への備えを、まるで明日の献立みたいに、
ごく自然な会話に溶かし込んでいく。
そういう夜だった。
テレビを眺めながら、あくびがぽつりぽつり。
さすがに寝ようかと言って、でもどこか不安で、みんなで布団をひとつの部屋に並べて、電気を消す。
暴風雨に電線がやられてるのか、常夜灯がチカチカと光る。
「チカチカしてるね」
「停電するかな」
誰かの寝息が聞こえてきて、私も目を閉じる。
外の轟音が、少しずつ遠ざかっていく──。
*
こんな夜は、よくあることだ。
豪雨に起こされても、川が溢れかけても、私たちは生きてる。
壊れているのが普通。世界はもう、とっくに壊れている。
だけど、それでも朝は来る。
運悪く何かを失っても、放っておけばおなかはすく。
泣いても怒っても、生きるしかない。それだけのこと。
昔からずっと、そういうもんだから。
私もまた、その「そういうもんだから」の中で生きてきた。
壊れたままの世界で、何も変えられないまま、でも普通に。
だから、あの日も──
私はきっと、「いつも通り」だったのだ。




