無敵なひと
「連絡しないでって何で?」
「しつこくてイヤなの 1日何度メールしてくんのよっ」
「だってライン教えてくれないしさ」
「ったく…いい加減にしてよ! 知り合って一週間もたってないのにあんたみたいなしつこい人にラインなんて絶対教えたくないし!」
「マリの顔を立ててメールくらいならって思ったけど…そもそも性格も価値観も合わないし私、しつこくされるの苦手なの」
「ガチガチで食えない女だなっ 25過ぎて異常だよ 潔癖症だしレズなんじゃないの?」
流石にこのひと言にはブチ切れた
「…はぁ? そうね…あなたのような宇宙人より可愛い女の子と恋したほうがいいわ この低俗な俗物が! 二度とかけてくるな!!」
はあ…ムカつく これで何度目だか…
恋愛なんて面倒くさい
恋なんてしなくたって生きていけるわ
頭数揃えるだけでいいからと親友のマリに頼まれ渋々行った合コンで知り合った純一はなれなれしくていけ好かないタイプなので
避けていたらマリに泣きついたらしく マリが無断で私のメアドと携帯番号をそいつに教えてしまい
「一週間でいいからメールだけでもしてあげてよ ダメなら切っていいから」と言われメールしたら…
※
もっちぃ、おはよん
マリちゃんからメアド聞いちゃった
今朝の純くんです
あ、いま見惚れた?
これから仕事に行ってきまーす
※
会社のトイレにてパシャリ
もっちぃ、俺と臭い仲になろうぜぇ
※
これからランチだよ
美味そうだろ?
隣にもっちぃがいてくれたらなぁ
※
この調子で朝から晩まで30回くらい毎日毎日頼んでもいない自撮りつきでメールしてくる
うざいのでひと言ふた事だけ返してスルーすること数日後…
夕方…お風呂上りにまったり独り時間を満喫していたら電話がかかったのでいい機会だと思いもう連絡しないでくださいと言った途端に逆ギレされた
速攻で着信拒否してため息をつくと私は親友のマリに会えないかと連絡すると彼女は仕事帰りにうちに来てくれたので軽い夕食を用意して
純一の失礼さとメールが苦痛だったことを語った
「来てくれてありがとうねマリ…あいつ無理…失礼過ぎるししつこいし低俗だし着拒した」
「そっか ごめんね 実は…純一くんの親友が私の彼氏で、合コンでもっちぃのこと気に入っちゃってどうしても付き合いたいって頼まれちゃって…
いいよいいよ 無理に頼んだ私が悪かったし」
「だいたい…何であんな奴にもっちぃ呼ばわりされなきゃなんないのよ! もおぉ~耐えられない!!親友ならわかってよ…今後、二度と…」
「OK 合コンも無理強いしないし誰も紹介しないよ…」
「もっちぃは自分のお城に土足で入られたくないもんね…価値観も特殊だし…ごめんね…ほんと悪かったよ」
「わかってくれればいいよ…」
「じゃあ食べよっか マリの好きなボロネーゼ作ったよ」
「ありがと~もっちぃのボロネーゼ絶品なのよね 空腹なお腹にしみわたるわぁ♪」
夕食後…
ミルクティを飲みながらマリが口火を切った
「ところで…最近 気になる人とかいる? 俳優とかアーティストとか…私は斎藤工が好きなんだ」
「う~ん…そうだな…あ! いるいる 気になる人!」
「おお~誰? 誰? もっちぃさんのお眼鏡にかなった殿方は」
「…笑わない…?」
「幼稚園からの親友を信じられない? あなたが変わり者なのは知ってるから…どんな人?」
ももは暫く考え込むと真剣な面差しで応えた
「ハスキー犬」
「…へ…ハスキーって犬の?だよね」
想定外の返事にマリは口に運んだクッキーにむせながらももを見つめる
「ほら、だから笑わない?って聞いたのに」
「笑ってない! 笑わないよ で、ハスキーのどこがいいの?」
「あのね 最近つべでハスキー犬のチャンネル観てたらハマっちゃって…
高貴でイケメンなのに寂しがり屋で甘えん坊でおしゃべり好きで面倒見が良くて優しいの
ドックランを颯爽と駆け回ったり前足を伸ばしてのびをする姿も可愛くて♪
気付いたらハスキーチャンネルをたくさん登録してて♪ふふっ」
「うんうん たしかにハスキーって狼みたいでかっこいいしね
そういえばもっちぃ、狼好きだったもんね」
「でしょでしょ♪」
「でもね ウルフドックより魅力的なのよ だってカッコよさと高貴さと可愛さを兼ね備えてるんだから無敵じゃない?」
それから一時間以上 マリはももにハスキー犬の魅力について散々熱く語られることになってしまった
ももと別れた帰り道…マリは彼氏にラインで迎えを頼みながらため息をついた
「ハスキーか…いい子なんだけどね…このまま30になったら乙女のままで妖精さんになれちゃうよ…
もっちぃ、もしもあなたが誰かと恋をしたら私は相手がどんな人だろうと反対しないし絶対に応援するからね!」
変わり者の親友を想いながら彼氏と待ち合わせした最寄りの駅へ向かうマリだった