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青春の初陣。無事に撃沈す。


「いやーこの前、原付買ってさー」


「なにこれ、フェイク動画じゃない?って、止まったし」


「ん、もう通信制限なの?」


高校の入学式を終え、教室内は新たな青春の一ページが繰られてる中、彼は自由に浮かび青い空に浮かんでいる雲を眺めながら、絶賛決断を後悔していた。


一生遊べる趣味もあるし、ジィさんの山で犬と猫と戯れながら趣味に没頭したいのに....はぁ、まぁ....3年間だけだし、両親の遺言だからな


身元引受人のジィさんは、まぁ行かんで良いだろと放任的に肯定的だったのだが、物心つく前に亡くなった両親からの遺言で、高校入学を早速後悔していた。


(今日は、やけにヘリが飛んでるな)


G7サミットは春休み中に終わった筈が、オスプレイや軍用ヘリまで福生基地の方へと忙しなく行き来していた。


「....なんか、いや....まさかね」


昨日の夜に観たドラマの影響か、嫌に現実になってほしくない想像が膨らんでいた。


「....若狭くんはクラスチャット入った?」


新入生代表挨拶をした彼女、汐留 藍は黒い髪を靡かせながらそう聞いていた。


「....いや」


「え..あ、ご、ごめんね。」


何か掴めそうな彼だったが、彼女に止められた彼は無愛想にそう言うと彼女はやっぱりマズイ人に話しかけてしまったと思い、早々に話を切り上げた。


「....うわ、なにあれ」


「汐留さんに何なんあの態度」


「ありえないよね」


(はぁ...先公来ないし、屋上いくか)


学年一の美少女に無愛想かまして、早速クラスから孤立した彼は荷物を持って屋上へ向かった。


「・・うぅー...っはぁ、これから世話になりそうだな。」


太陽の光を一面に浴びている見晴らし最高の屋上で、彼は留年が絶対にないこの高校で最高のサボり場所を見つけた事を嬉しく思った。


「....やっぱ、多いよな。要人でも運んでんのか」


春の風が頬を伝うのを感じながら、彼は一向に止みそうにないヘリコプターやオスプレイの飛行音に耳を傾けていた。


そして、それを追うようにF35-Bが無人機を連れて連帯を組んで上空を通過し、心臓が揺れる程の爆音を置き去りにした。


ーーーーーぶぉぉぉぉんんっ!!


「っ!....は、なんでステルス機が...」


音にびっくりはしたが、それ以上に彼は最新鋭ステルス戦闘機を見れたのに興奮していた。


「ん....あれ」


そして、ふと戦闘機が去った方向から校門に目を向けると、2tトラックが全速力で校門に向かって来ていた。


「は?....おいおいおいおい」


ーーーーードガァァァァァンっ!!


時速140km程で容赦なく公立高校の年季の入った校門をゲームみたいに吹き飛ばしたトラックは、間も無く校舎の一階に衝突した。


ーーープーッ!プゥーっ!プーっ!


「っ...なんなんだよ...」


トラックのクラクションが断続的になる中、手すりから少し乗り出して下の状況へ目を向けると、入学式のボートを片していた教師が警察に連絡しており、近所の住人が突き破られた校門の方から集まってきた。


「・・おーいっ!生徒たちは出るな!!」


「ァ...ウゥ...」


「あのーすみませんが、ここは学校の敷ちっ...ガハっ?!...ッゥ」


千鳥足の顔を伏せた女性に詰め寄られた男の教師は、いきなりその女に首元を噛まれ地面に押し倒された。


「つはっ!...はぁ...ァ..」


「ちょっ...佐藤先生っ!大丈夫ですか?!」


力ずくでその女を離した彼は、近くにいた教師に駆け寄られた。


「....っガァ!!」


「キャアァァっ?!・・ーー」


そして、男は女教師の腕に噛みつき肉を引き裂き、彼女の声が学校内に響いた。


「・・..あちゃー、そういう事...だよな。」


正気を失った住民が教師に噛みついたのを確認した彼は大体を察し、これから起きること、いや、もうすでに起こっている事を理解し、自転車を取りに行くがてら保健室へと向かう事にした。


「....きゃっ、さっき凄い音したけど、何があったの?」


すると、扉の先には汐留さんがおり驚かせてしまった。


「......わからん。....?」


思うところはあったが、それよりもここでのタイムロスの方が重要で適当に答えて先へ進もうとすると、彼女はこちらの裾を掴んで引き留めてきた。


「あのっ....どこ行くの?」


「っ.......すまない。」


これから剥き出しの人間と相対する事になるため、はっきり言って足手纏いの女を守ってやれる程、この先は甘くないのを嫌に理解していた彼は、苦虫を噛み潰すかのような気苦しい表情で静かにそう呟き、先を急いだ。


『キャァーーーーっ?!』


『やめてっ!!』


「なんだ、あれなんかの撮影?」


「すごいリアルだね、バズりそう」


校門の方から事態が広がっているのを肌に感じつつ、そちらに気を取られ聴衆のままでいられると思っている生徒たちを避けて行くと保健室に到着し、ドアを勢いよく開けた。


「うぉっ?!...っと、新入生か....どうし...」


「.....っ...」


ガッツリサボってアニメを見ていた女の保健医は教師でない事に安堵するが、 若狭は何を言うでもなく鎮痛剤、軟膏、解熱剤などの内服薬、ガーゼなど出来るだけ嵩張らない物をカバンに詰め込んだ。


「は、え...ちょ...ななな何やってんの?!」


「....これ位でいいか」


いきなり入ってきた新入生が保健医しか触ってはいけない薬品を白昼堂々盗んでおり、テンパりながらも彼を止めようとしたが、すでに彼は詰め込めるだけの薬品を入れ終えた。


「いやいやいや、君何してるかわかってる?!」


「....あんた、バイク乗るのか?」


彼女に腕を掴まれた彼は彼女の方を見るが、彼はそれよりもヘルメットと机上のキーが目に入った。

自転車で向かうつもりだったが、カロリーの節約をするためにそちらで行くことにした。


「は?え、えぇ...って、ちょ..」


「悪いな...幸運を」


彼はそれを聞くと机上のキーとヘルメットを取って、足早に保健室を後にし駐輪場へと向かった。


ーーーーピッピっ


「...っと、これか、」


ーーーーグルンっ...グルルル...


ヘルメットを被りキーのボタンを押すと原付の音が鳴り、キーを差し込むと問題なく動いたのを確認した。


「っ.....うん、思入れも糞もないな。」


生徒たちの悲鳴が校内に広がる中、裏門を抜ける際に学校の方を一瞬見え返すが、特に面識のない今日あったばかりの人たちしかいなかったので、何の未練もなく学校を後にした。


街は少しずつパンデミックの音が広がっており、警察と消防が縦横無尽に駆け回っていた。


俺はというと秋川街道を真っ直ぐに進み、登校してきたルートを辿ってジィさんと同居している奥多摩の家へと向かっていた。

学校は八王子の外れの所だったがそれらしい奴が散見されていたため、次期に阿鼻叫喚の混乱で随分楽しい事になりそうだった。しかし、山を削って無理やり通したような山間に入ると、人の行き来が多くないからか普段と変わらない様子だった。


「....しっかし、どうすっかな...」


今更ながら無免で原付を運転しながら、とりあえず学校ないしは街から離れないとと判断を急いで、上手くリスクを回避したとはいえ、これから先どうするかはっきりは決まっていなかった。


『....ズズ...えー、政府からの発表はなく、今現在政府官邸との連絡は出来ておりません。国民の皆様は、鍵を閉めて出来るだけ外を出歩かないようにして下....』


「チッ...」


ようやく繋がったラジオアプリからは、雲行きが真っ暗な情報しか流れて来ず電源を節約するために電源を切った。


「政府は機能不全。なんとか末端の警察消防は機能してるが、時間の問題か....」


限られた情報と実際に確認した事からも、これから起こるであろう事態は深刻で世紀末まっしぐらを感じざる得なかった。


「....軍人とかならとかく、もう一人は厳しいか...」


別に誰に言い訳するでもなく、一瞬チラついた連れて行く一人が思い浮かんだが、ただの学生に一人乗っかるだけでも致命的であり、多少の後ろめたさはあれどもすんなり切り捨てられた。


そうして、順調に日出町あたりを通過し、街を一望できる峠に差し掛かるとそこからの景色は案の上であった。


「・・マジかよ。」


街は所々煙が立っており、車のクラクション音とここからでも聞こえるほどの人々の慟哭と、80年の平和神話は見事に崩れ去っていた。


「...っと、そうだ。....あー」


街の様子は良いとして、彼は保健室へ向かう途中に寄った天体観測部から拝借した双眼鏡を取り、横田基地の様子を確認していた。


ラジオから得られる情報も貴重であるが、現状最も情勢を正しく捉えているであろう米軍の判断を大まかでも知りたかった。


「....基地は見捨てるか」


続々と戦闘機やオスプレイ、補給機、そして自衛隊機が離脱している様子から、核を排除して考えるなら、東京の西端とはいえ、避難民と感染者の選別及び、生存者の暴徒化に関しては初めから関与せずに、補給可能な港近くかつ軍で管理できるだけの人口過疎域の基地に移動するといった意図が見られた。

そして、仮にそうだとしたら、米軍ないし自衛隊は一応機能しているように思えた。


「....まぁ、核はしゃーなしとして、軍管理下での生活は御免だな。」


しかし、軍による管理された配給生活?というのは秩序が取れているようで、どっかのお国のような体制になるのは見え見えだったため、結論を出した彼は双眼鏡をしまって先へ進み始めた。


峠を越えてからは、登校してきた時の同じような様子で、都道251号線は信号機すらない山道のため途中車と何度がすれ違う程度であった。


そして、都道251号線を抜け青梅の奥地を通った際、おそらく道中通る最後の街だったため、様子見も兼ねてコンビニに寄る事にした。


「....一人だけか。」


一台だけ車が止まっている駐車場にエンジンをかけたまま原付を置き、ガラス越しに中の様子を見ると荒らされた様子もなく、店員らしき男が一人品出しをしていた。


「.....何だよ...」


武器と言えるものはヘルメットくらいしかないが、それを手に持って意を決して中へ入ると心霊スポット帰りのコンビニくらいの安心感を覚えてしまった。


「...っ」


拍子抜けしそうだったが、一つだけ普通なら何でもないはずのカラーコードが写ったテレビ画面で一気に戻された。


そして、店員が本当に感染していないかのジャブへ移った。


「....テレビ壊れてるんですか?」


「....ん?」


突然話しかけられた店員は一泊遅れて、こちらに向いてどっちとも取れる微妙な表情を向けてきた。


「.....」


「あー、さっきいきなり動かなくなったんですよね。まぁ、古いから仕方ないですが」


一応、ヘルメットを握りしめていつでも振り下ろせるようにしていると、その心配は無くなった。


「...そうですか、すみません。いきなり」


「いえ、大丈夫です。会計する際は、呼んでください。」


「....はい。」


正気そうな目を確認した彼は相槌して、法が通じなくなりつつある中で、商品を物色することに着手した。


カバンは薬やらでいっぱいのため、商品の3000円くらいの鞄を二つこっそり開けて、その中にタバコ、缶詰、栄養ドリンク、レトルトなどこれから金に代わる価値のある物を詰めれるだけ詰めてコンビニを後にした。


「・・.....ふぅ。生きてるだろうな、ジジィ..」


そうして、火事場泥棒を成功させた彼はジジィと住んでいる山奥の家に到着した。


「おーーいっ、ジジィっ!!」


玄関で荷物を下ろし、声を上げるが家の中にいる様子はなく、離れの作業小屋へ向かうとそこ

は常に整理整頓されているはずが、何かと格闘した後のように資材や道具が荒れ落ちていた。


「....っ、まさか」


可能性としては低いにせよ、捨てきれないその可能性に備えるため静かに切り株に刺さった斧を抜いた。


ーーーーガサッ


「っ!」


すると、後ろの茂みから何かが動き、脊髄反射で振りかぶって斧を振り下ろした。


「...っとぉっい?!....何だよ?!」


それは探していたジジィで手袋を咥えた猫のシロを抱えながら、斧を間一髪で避けていた。


「....スゥ、何だよ。脅かすなよ」


「はぁ?!お前だろ!!」


「悪い悪い、ジジィ。それよりも....」


最もなジジィの言い分に、それどころじゃない彼は空謝りして今起きていることの話を始めた。


「・・F35BにC-2輸送機か....戦争では、いや似たようなものか」


一応撮っておいた横田基地から米軍と自衛隊が引く様子と街の様子を見せながら、説明したお陰かジジィはすんなりと事態を理解していた。


「今のところ核はなさそうだし、数年は様子見か?」


こうして余裕のある発言が出るのは、事実、ジジィと若狭で自給自足するのは余裕ではあり、この持ち山にいる限り、仮に略奪者が来たとしても確実に狩れるため、既に盤石な体制に居たからであった。


「まぁ...そうだな。山梨の猟師と合流するのも視野に入れてるが、あっちはあっちで今頃面倒そうだからな。」


たとえ数十年の付き合いがあれども、有事と平時で人は変わるため安易に肉親以外の者と関わるのは憚られ、組織された武装集団はこれから生存者コミュニティーにこき使われるのは見え見えだった。


「此処の、本当の事は言ってないのか?」


「あぁ、誰にも言っとらんわい。」


南海トラフが起きた時点で首都圏で数千万人の被災者が発生するため、ジジィはこの山と家、そして貯蔵庫の事は誰にも話していないようだった。


「....ふぅ、なら知らんぷりできるな」


常日頃から備蓄していた彼らは、若干グレーな簡易水力発電、地下貯蔵庫と平時から水と食料に困らない体制が整っており、唯一の懸念点はその情報の漏洩だったが、ジジィがそんな失態するわけがなかった。


「って、今ラジオすら繋がりにくい...」


そんな中、ジジィは大層なケースからゴツイ電話を取ってイジっていた。


「あぁ、そうじゃな....っと、繋がった。」


「ん?」


道中公衆電話でも試しに110番してみたが、混線して繋がらなかった筈が、その電話では繋がったようだった。


「....おおー、こっちは生きとる。おん、....おん。.......ん......わかった。」


昔の名残りかジジィはせっかく繋がった電話を短く切った。


「誰と話してたんだ?」


「苫小牧の茂田っていたろ?」


「あー、猟師会のね。」


数年に何回で北海道で猟の遠征に付き添っていたため、一応は面識はあった。


「あいつが言うには、北海道に自衛隊や米軍が集まってるらしくてな。道知事が指揮を取ってロックダウンと感染者の分別を行なって、今は秩序が取れてるらしい」


「前のパンデミックでマニュアル...って、だけじゃなさそうだな」


30代くらいの若い男性が二期目の道知事になったと言うのは聞いていたが、あまりの迅速さにあらかじめそういった情報を先に掴んでいたという線が濃かった。


「うむ、しっかし....北海道とはな。今年は特に寒冬だったから、感染が遅れてるとか言ってたが....」


「仮に感染者のコントロールが出来れば、仕切り直せそうっちゃそうか....」


軍の動きからも地下資源、水脈と肥沃な大地である北海道を拠点にするのはかなり合理的であり、食料自給率がカンストしてる事から、軍と自治体の庇護下で一次産業を稼働し続けるのも現実味が帯びていた。


「.....ん、北海道に行くの?」


話の流れ的にそんな風になってきたため、一応聞いてみた。


「うーむ、それもありかの....ウィスキーだけじゃ飽きるからな」


本音としては酒飲みのジジィは備蓄しているウィスキー、ワインよりもビールが飲みたいようだった。


「かかっ、そうかい。」


寄ってきた猫を撫でながら、彼は思わぬ形で高校に通わずに済んだ事に正直に満足していた。






若狭 義隆 170cm 65kg

両親は他界しており、小学校からずっと奥多摩の山奥でジジィと自給自足生活。

ジィさんは猟師で義隆はノウハウや知識を継承している。

死生観が確立しており、身体能力は昔の日本人の平均くらい

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