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6:66  作者: 三十三八十六
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黒。


なんだこれ……。

やばい。やばい。

急に目が見えなくなった。


目を擦るが何も変わらない。

闇しか映らない。

俺は視力を失ったんだ。


喉が締まり声も出せない。

体が震え立ち続けるのが難しくなってきた。

何か、何か触れるものは。

支えるものを探すため、手をゆっくりと前に出した。


そこではっと気づいた。

違う、目が見えなくなったんじゃない。


伸ばした腕の先、腕時計の蓄光部がほのかに光っていた。

俺の目は見えているんだ。

束の間の安堵はすぐさま恐怖と不安に取り変わった。


じゃあここは、なんだ。

何が起きてる?

何も見えない。


手を触る。冷たく震えてる。

顔を触る。ガサガサした唇を撫でた。

体を触る。心臓は小動物ほどの速さで脈を打っている。


俺の体は、たしかに、あった。


俺は……


「あ、あ、ああー」

悪夢から無理やり目覚める時のような、か細い声をひねり出した。


そして思いっきり叫んだ。

「ああああーーーー!!」


声は闇に吸い込まれていった。

頭をかきむしり叫び続けた。


俺は、闇の中に、いる。


腕時計の蛍光色を見つめた。

ここだけが唯一の現実だ。

俺は生きていて、目はちゃんと機能している。


ずっと恐怖で動けなかったが、顔を左右に動かす。そして後ろを振り返った。

闇がそこにあった。


その時ふと、学校の七不思議を思い出した。


『闇の図書室は6:66に開かれ愚か者を閉じ込める。脱出には “あの本” を見つける必要がある』


俺は闇の図書室に入ってしまったのか?


その時、冷たい風が首筋を撫でた。

風?

俺は風が吹いてくる方向へ慎重に足を進めた。床がギィギィ……と不気味に鳴る。

感覚的に三メートルもしないうちに壁に当たった。

壁を触っていくと切れ目があることがわかった。そこから風が入ってきていた。

これは扉か?

隙間から覗こうとしたが幅は狭く、向こう側を見ることは不可能だった。


もしかしたら、ここから出られるのか?


扉らしきものを探るとひんやりした金属の感触があった。

その金具のようなものをなぞってみる。

形からすると引き戸の取っ手に思えた。

くぼんでる部分に指をかけ横に引いたがびくともしなかった。


発狂の波が定期的に襲ってくる。

そのたびに腕時計を見る。

目は見えている、生きている、俺はここにいる。


また七不思議を思い出す。


「脱出には“あの本”を見つける必要がある」


俺は都市伝説もオカルトも全く信じていない。

でも、今は、そんな馬鹿げた話にすがるしかない。


俺は、本を探すことにした。


腕時計の光は長くは持たないだろう。

完全な闇に包まれて気が狂う前にやるしかない。


扉らしきものがある壁を触りながら、ゆっくりと左に移動する。

体感で三メートルくらい進んだところで突き当たった。

次の壁面に指をやると紙のような質感のものに触れる。本か?

すぐ隣にも同じようなものがあった。

左右上下をゆっくり撫でる。


これは本棚だ。


五段ほどの本棚だということがわかった。

本の質感はサラッとしたものや布っぽいものが多い。

背表紙を指で一つ一つなぞる。


ずっと埃とカビの強烈な匂いが漂っている。

ここの空気を肺に入れたらまずい。

俺は浅い呼吸に切り替えた。

喉がカラカラだ。

時折、胃液が込み上げてくるのを堪えて唾を飲み込む。


端まで来た。

ここまでの長さを考えてみた。

扉から向かって左の壁面は、だいたい六メートルほどの横幅だ。


次は扉の真向かいの壁面だ。

左手をやると、すぐに本に触れた。

この面も本棚か。


小さな歩幅で床を確認しながら進む。

もしかしたら床になにか落ちてるかもしれないし、途中で途切れているかもしれない。

恐ろしい想像が止まらない。

足元に神経を集中させる。


ハッハッという俺の息づかいと服の擦れ、床の軋みだけが聞こえる。

手の汗はすぐに本に吸収されていく。


もし、横の壁と同じ広さならそろそろ真ん中らへんか?

想像どおりならば、ここは扉からまっすぐ来たところになるけど……


突然、指先に温かいものが触れた。




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