表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/67

密告



 ムバラートのもと側近の密告によると、知り得た情報は大きく二つ。一つは、救援を求めてきたイアリクの村人の話は嘘だったということ。そしてもう一つは、南の王国とベルニア国が共謀きょうぼうしているということ。


 南の王国、つまりバラロワ王国は、ムバラートがほぼ王になることはないと知っても、あきらめてはいなかったのだ。国境警備隊の目を盗んで密かにつながることに成功し、巧妙こうみょうに動かしていた。思い返せば、この一年、ムバラートは友好的だった。王位継承順位から遠く離れたことによって、誰もが野心を捨てたと思っていた。しかしその実、侵略戦争に勝つために、油断ゆだんさせることが目的だったとは。


 それというのも、王位継承順位から遠退とおのいても、バラロワ王国の君主の謀略ぼうりゃくに協力すれば、ウィンダー王国を征服せいふくした時、ウィンダー王国はムバラートに統治とうちさせると、かの国王はけ合ったという。そして、いずれは近隣国を次々と攻め落として、諸国家しょこっかを制する皇帝こうていとなるつもりでいる。


 そうとは知らずに、王アレンディルは、ラルティス総司令官率いる国境警備隊を送ってしまった。そして、彼らはまだ帰っては来ない。あとから様子を見に行かせた援兵えんぺいも。


 とにかく、この密告によって各地へすぐに急使が送られ、ひとまず、王都にいる権力者や騎士たち、それに近隣市内にいる領主りょうしゅたちによる会議が開かれた。


 それには、ラクシア市の領主、ルファイアス騎士も参加した。ルファイアスは、領主たちの中では目立って若い。


 会議の間は、王アレンディルがわざわざ場所を選んだ。その時は、エドリック騎士に相談をした。そして決めたのが、城の東にぽつんと建っている人気のないとうの、最上階の一室。塔の出入口には、衛兵が四人つくことになった。そして、招かれた者以外の立ち入りを禁じた。何だかものものしい感じだが、厳重な警戒の中、行われる会議も珍しくはない。


 もと側近の話を代弁したのは、エドリック騎士だ。


 王は、時と場合にもよるが、こういう話し合いの場では出席をあえてひかえ、まずは報告を待つ。王の前ではみな恐縮きょうしゅくして、活発な意見の交換ができなくなると考えられてきたからだ。それでは浮かぶもの(名案等)も出てこないままになる。


 そうすると当然、話ができるのはエドリック騎士しかいない。もと側近の体はまだ動かしてもいい状態ではないし、本人も前に出てくることを望みはしないだろう。


 話の途中からもう、会議の間は、おさえきれない様々な感情の声でざわついた。怒り、驚き、不快感、それに危険への恐れもあった。


 とうとう、大戦争が始まる・・・。


「今や、バラロワ王国の目論見もくろみあばかれた。イアリクの村人からの、野蛮なやからに襲われているという助けを求める知らせは、嘘だった。そこはすでにバラロワ王国の手に落ちていた。その狙いは、南の番人・・・つまり、ラルティス総司令官率いる警備隊をおびき寄せ、国境の警戒を弱くし、進軍をはかること。同時に、北からはベルニア国に侵略させ、挟み撃ちにして、ウィンダー王国を征服する。」


 議長を任された者が、エドリック騎士の話をまとめた。集まった中では高齢で、王都より西の土地を治めている領主である。この場を仕切るにはエドリックは若く、立場上でもふさわしくない。エドリック騎士はあくまで王の用心棒にすぎないのだから。


「しかし、かの君主の真の狙いは、全てを手に入れることだ。我らを倒してベルニア国と一つになろうと、最終的には、何もかも自身の思うがままにするだろう。もはやバラロワ王国を警戒するだけでは済まない域にきた。いよいよ我々も動かねばならん。」


 ムバラートのもと側近は、かの君主のこの悪巧わるだくみに勘づき、警告したが聞いてもらえず、ついには追放された。そしてやはり、口封じのために命を狙われたということだった。


「そうだ、迎え撃つ準備をしなければ。」


「しかし、彼(もと側近)の話は漠然ばくぜんとしている。何をすべきか、効率のいい対策がとれない。」


「重要なのは、迎撃態勢げいげきたいせいを整えることだ。今の時点でできることは、北の警戒を強め、同時に王都の兵士を強化する。そして南の国境付近に援軍えんぐんを送り、バラロワ王国の進軍を防ぐ。」


 そんなふうに飛び交う意見を聞いているうち、エドリックは、この会議そのものが何か釈然しゃくぜんとしなくなってきた。みな、そこへ送られた国境警備隊のことを、もう誰も生きてはいないものと決めつけ、それを前提としている感がある。これでは、王も納得なっとくしないだろう。安否が気になる国境警備隊の彼らのことは、早急そうきゅうに手をうつと請け合っていたのだから。


 そこでエドリックは口を挟みたくなったが、何をどう言えばいいのか上手く言葉がまとまらずに、もどかしいままこの別の話し合いを聞いているしかなかった。


 するとそこで、代わりにストップをかけてくれた者がいた。


 兄だ。


「待ってください。」


 エドリックの兄、今やラクシア市一帯の領主であり、カルヴァン城の城主である長男のルファイアスは、声を張り上げた。ちなみにルファイアスは、先代王ラトゥータスと、現国王アレンディルのもと近衛兵騎士このえきしでもある。


「南については、まずは、国境警備隊に何が起こったかを突き止める必要があるのでは。」


「ただの狼藉者ろうぜきものだと思っていたところ、思わぬ強敵が待ち構えていたということだろう。」


「単に、そうは思えません。何か・・・常識では考えられないような罠をしかけられたのでは。それは、国境警備隊のみならず、南へおもむいた部隊全てをはめようとするものだとしたら。」


「ならば、偵察ていさつ部隊を一一」


「すでに様子を見に行った援兵も戻ってはいない!」

 ルファイアスは思わずイラっとして、つい、きつい口調で言った。


 場が静まり返った。


 マズいことをしたと思い、ルファイアスはおだやかにため息をついてみせた。自分は冷静だ、と示すように。


「もし、そのような罠があるなら、ここは目立たぬように忍び込むのが得策とくさくかと。南の方の問題は、ひとまず私にお任せいただけないか。」


「ルファイアス騎士、自ら動くと?」


「ええ。今、戦力はなるべく温存しておいた方がいいでしょう。ですから、まずは私一人で。」


 ルファイアスは、弟のエドリックに視線を向けた。エドリックも、何か言葉を交わすように見つめ返した。


 ラルティス(兄さん)たちが帰ってこないのは、つまり、思わぬ強敵と戦いになり、全滅させられた・・・そうだろうか。いや、何かあるはずだ。いったい、そこで何が起こったのか。


 二人はとにかく、不気味ぶきみ得体えたいの知れない嫌な予感が無性むしょうにしてならなかった。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ