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末路



 冬がおとずれ、日中でも身にこたえるほど冷える時期になった。窓の外では雪がちらつき、小さな庭に生えている高い木々には、木の葉はもう一枚も無い。


 ここは、王宮の裏側にひっそりと建っている二階建てのやかたへいに囲まれて、王族の世界の華やかさや堅苦かたくるしさを遮断しゃだんしているように見える。きちんと管理されて綺麗な状態を保っているが、普段はまったく人気のない所だ。何代も前の君主が、夫婦で静かな隠居いんきょ生活を送りたくて建てたそう。


 そして今は、傷ついた王エウロンが、ここで一時的に療養りょうよう生活を送っている。


 暖炉だんろの前の安楽椅子あんらくいすに座っているエウロンは、すっかりやつれて、おとなしくなり、弱っているように見えた。傷はえ、体はもう自由に動いていいまでに回復したが、その顔には野望に燃えていた時の面影おもかげはなく、憔悴しょうすいしきってまるで別人のようだ。


 そんなエウロンには、常に一人だけ付き添いがいた。それは、ウィンダー王国の王都にいる騎士が交代で務めた。従者代わりの世話役といったところだったが、エウロンは、その騎士たちと時々言葉を交わすこともあった。いたわり、優しく接して欲しいというアレンディル陛下の願いによって、最初彼らはうらみをおさえ、仕方なくそうしていたところもあった。しかしそのうち、真心まごころで接し始めた。王エウロンは孤独こどくに一人で、自分が支配したかった国に、捕虜としていながら世話になっている。考えてみればみじめな話だ。そういう思いが読み取れるほど元気のない姿は、そばについた騎士がみな、思わず同情やあわれみを覚えるほどだった。


 実際、エウロンはいつまでもショックから立ち直れずにいた。かつて強敵と認めた男はもういない。なのに、今度も作戦は上手くいかなかった。さらには、その息子にまで決闘で負けた。しかも戦場を知らない若い王だ。エウロンは己の運の無さを呪い、いかに自身が衰えたかを思い知った。


 一方、エウロンが療養しているこの間に、ウィンダー王国では様々なことが話されていた。今こそ、バラロワ王国と分かり合わなければならないと考え、そして今度こそ上手くいくだろうと、多くの者が期待していた。


 そして、体の方は順調に回復したため、約束通りに、王エウロンを彼の国へ送り届ける日も決まった。冬が深まる前にと、昨日、その連絡の使者を出したところだ。そのことは本人、つまり、エウロンにも伝えられた。


 エウロンは物思いにふけっている様子で、大きな吐き出し窓の方を向いている。


 薄い灰色の空、小枝までき出しになった細い木々、れた芝生しばふ・・・。冬の自然の風景は、それだけで何となく切なくさみしい気持ちになる・・・と、付き添いの騎士は思いながら、一緒に窓の外を眺めていた。彼ら付き添う者たちは、なるべく王エウロンの視界に入らない場所にいるようにしていた。それも配慮はいりょしてのことだ。それでこの時、騎士は、エウロンが座っている椅子の背凭せもたれから、少し離れた後ろに立っていた。


 エウロンはその騎士に顔を向けて声をかけ、うつろな表情で水が飲みたいと言った。


 騎士はうなずき、召使いにそう伝えるため部屋を出た。


 ところが戻ると、部屋に鍵がかけられていた。おかしいと思い、騎士は慌てて外から回り込んだが、ハッとして、ひどくうろたえた。


 窓の向こう、部屋の中で何か燃えている・・・!


 窓にも鍵がかけられていたが、騎士は大声を上げて助けを呼び、剣のつかで窓を破って突入した。火のついたたきぎが床に転がっていて、もう一つ大きな炎が右に左に動き回っている。


 その炎のかたまりは、やはり王エウロンだ。床にたおれ込み、苦しそうにのたうち回っている。


 騎士は部屋の中を見回したが、火を消すのに使えそうなものは何もない。館内にいるのは、召使いがごく数名。だが外から近くにいた衛兵えいへいが何人か駆けつけてきた。そして事態に気づき、集まった者たちはみな急いで池から水を汲み上げ始めた。


 そうしてやがて消火されたが、そのあいだにも全く動かなくなっていたエウロンは、全身ひどい火傷やけどを負った目もあてられない姿で、すでに死んでいた。


 誰もが突っ立ったまま、しばらく動くことができずにいた・・・。


 そのうちやっと、騎士が気力を奮い起こしてベッドの方へ行き、シーツを手に取った。それを、亡くなった隣国の王のつま先から頭へそっとかぶせる。


 バラロワ王国の王は、最期さいご、自ら命をった・・・焼身しょうしん自殺。


 その衝撃が、部屋に集まった者たちをいつまでも黙らせていた。


 やがて、報告を聞いたアレンディル陛下が駆けつけた。


 アレンディルは、頭からかかとまでシーツに覆われている遺体いたいのそばに膝をつき、恐る恐るほんの少しまくり上げてその顔を見た。


 アレンディルはつらそうなため息をついて、目を伏せた。


 その時、アレンディルは不意に思い出した。戦いに敗れた時、王エウロンが何かを口にしたのを。


 そして今、それが分かった。


かまうな。」


 きっと・・・そうだ・・・という気がした。敵になさけをかけられたまま生きてはいけなかったのだと、やっと理解した。彼なりに、せめて威厳いげんを保ったのだ。






「野心を後世に引き継がせず、いさぎよ降伏こうふくする。」


 それが結局、バラロワ王国の君主エウロンの遺言ゆいごんとなった。実際にそれを聞いた者全ての胸に、その言葉はしっかりと焼きつけられていたから。バラロワ王国の方でも、その時のことは、使節団としてそばにいた従者たちから伝えられていたのである。


 こうしてその後、ようやく対話による平和的解決、つまり、ウィンダー王国とバラロワ王国の和平が実現した。


 そして、そのちかいを確固かっこたるものとし、また象徴しょうちょうするかのように、間もなく、ウィンダー王国の誠実せいじつ勇敢ゆうかんな騎士と、バラロワ王国の見目麗みめうるわしい王女が結ばれることとなった。


 もちろん、政略せいりゃく結婚ではなく、愛し合うその二人の希望、自由意志で。


 そしてこれを、両国の人々はみな、長きに渡った不和にとらわれることなく、心から喜び祝福しゅくふくした。


 永遠に続く、平和への祈りと期待をこめて。








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