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決着の時



 アベルは、どんなに兄のもとへ駆け寄りたいか知れなかった。だが、まだその時ではないとわきまえて、我慢した。今は両者ともに疲れ切って動きがないが、中断しているだけでまだ決着はついていない。それに、兄は怖いほど鋭く険しいまなざしをしている。まるで別人のようだ。いつもおだやかな表情と優しい声で話す兄。こんな顔は一度も見たことがない。


 エウロンは、無様ぶざまにボロボロにされた盾をにらみつけた。もう使う気にならないような有様ありさまだ。それで、エウロンはその盾を自分の兵士に受け取らせた。


 それを見たアレンディルも、ひどく欠けて痛んだ盾をエドリックにあずけた。


 両者、剣だけを構えて再び臨戦態勢りんせんたいせいをとった。互いに顔を見合い、様子をうかがう。


「行くぞ!」とエウロンが怒鳴どなって、王たちは再び闘志とうしを燃え上がらせた。


 お互い無闇むやみやたらに斬りつけるようなことはしない。ひっきりなしに繰り出される剣技けんぎの数々。白いやいばが空中を走り回る。よろいを少し引きき合った。アレンディルの腕から、エウロンの腰のあたりから、けきれずにつけられたかすり傷から鮮血せんけつがしたたる。


 危ない! という瞬間には、アベルは思わず目をそむけた。だが、あわてて振り戻した。リマールも同じだ。だが、エドリックとマクヴェインは、きびしい顔で一度も戦いから目をはなさなかった。


 アレンディルは攻撃を飛び退いてかわしたあと、さらに一歩さがった。次いで、剣のつかを両手で握り締め、右のひじを後ろへ引いた水平の構えで突進した。


 そして・・・!


 苛立いらだちとあせりがあだとなったか、アレンディルの突き入れた剣が、ついにエウロンの胸の上をとらえた! 必死で戦っていたので、アレンディルは、それがどんなふうに決まるのかなど考えていなかった。


 だがそれは、見事に王エウロンの鎧を打ち砕き、鎖帷子くさりかたびらを斬り裂き、肉体を深く刺していた。それほどの威力いりょくがあった。


 アレンディルは、パッと剣を手放した。わざとだ。


 エウロンがよろめく。それから、現実を受け止められない様子で、何か言いたげにアレンディルの顔を見つめながら、後ろへ倒れた。もはや声は出ない。彼自身、体が死にかけているのが分かった。勝敗を決めた若い王の剣は、自分の肩に近い部位に、真っ直ぐに突き立てられたままだ。栄光を手にし、勝ち誇る剣。これを引き抜かれたら、死はもっと早く、またたく間にやってくるだろう。


 エウロンはやいばをつかみ、なんと自ら白刃はくじんを引き抜いた。


 アレンディルが慌ててひざをつき、両手で傷口を押さえる。もし間に合うなら、命を救いたいと思ったのだ。負ければいさぎよく野心を捨てると言った、その言葉を信じて。


 粉々になった鎖帷子くさりかたびらは、血で赤く染まっている。救えるか。


 すると、王エウロンが少し頭を起こした。いきなり腕を動かして、アレンディルの手首につかみかかったのだ。


 アレンディルは驚いて王の顔に目をやったが、それは残る気力を振り絞った力で、それ以上は何も起こらなかった。ただその時、エウロンはまだ敵意てきいに満ちた目つきで、何か短い言葉をしゃべった。うらみ言を口にしたのか、アレンディルはその動きをしっかりと見たが、一文字も聞き取れはしなかった。


 エウロンは苦しそうに歯を食いしばり、地面に頭をつけた。


「手当てを!」


 アレンディルが大声で言った。そして、身動きできずにいた自分の兵士たちの方へ首を向け、しかるようにもう一度。


「手当てを、早く!」


 その命令に従って、見習い軍医のリマールが救命処置をほどこした。それと同時に、両国の従者たちも駆け寄ってきた。もちろん、アベルも。


 リマールが事態を先生に知らせに行くようエドリックに頼み、瀕死ひんしのエウロンの体はすぐに処置室へ運び込まれた。




 結果、エウロンは生きながらえた。




 そうしてバラロワ王国の君主は、立場としては捕虜ほりょとなったが、客人としての待遇たいぐうを受け、王宮の別館で療養りょうようすることとなった。


 その後、まだひそんでいるバラロワ王国の部隊は、約束通りにことごとく撤退てったいさせた。回復したら必ず送り届けると誓って、近衛兵も残さなかった。王がやぶれた今、彼らはそれをきくしかなかった。


 王エウロンは、隣国でたった一人になった。









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