一騎打ち
両者とも兜をかぶり、剣と盾を手にした。そして従者たちから離れると、決戦場のほぼ真ん中へ、黙ったまま肩を並べて歩いて行った。
そこで向かい合って立った二人の王は、儀式ばった動きで同時に剣を上げた。
審判のいない、生死を賭けた戦い。開始は互いの剣を、右、左、右から三度打ち合わせた直後にと決めた。
カチ・・・静かに剣が合わされる。
続けて二度目・・・少し強く打ち合わされた。
そしていよいよ始まる、三度目・・・!
ガチンッ ——!
来る・・・! と踏んでいたアレンディルは、大きく下がった。思った通り、王エウロンはいきなり猛攻をしかけてきた。それをかわして相手の不意を狙い、すぐさま走り寄るアレンディル。渾身の力で武器を振るう。唸りをあげた剣は、エウロンの盾をガツンッと傷つけた。
アベルは、兄の戦う姿を見ていよいよ驚いた。凄腕と言っていい。剣の扱いは巧みで、身ごなしも効率的だ。剣術を完璧に身に着けていると、一目で分かった。
ただ、アレンディルは剣術に長け、戦い方を知っているが、人を斬ったことはない。そのため最初は、その未体験の恐怖・・・殺人に対する恐怖が感覚を鈍らせて、邪魔をしていた。だがそのうち、生きるか死ぬかの戦いをしていると強く実感すると、余計な感情にとらわれる余裕も無くなり、その恐怖は消えた。今は全身全霊をかけて、国のため命ある限り己の剣を振るい続ける、まさしく戦場の戦士。もはや、ためらいはない。初めて人を殺すことになろうとも。
上から次々と打ち込み、下から突きを入れる。何度かは兜や鎧にヒットした。だが、互いに多少へこませた程度で、防備の甘い部位に痛烈な一撃もなかなか決まらない。しかし打たれる度に、体にこたえる衝撃が走る。
体力や反射神経は若いアレンディルの方が上かと思われたが、相手は実戦を積んで得た勘や見極める能力に優れていた。
エウロンが一瞬にしてアレンディルの後ろへ回りこんだ。だがアレンディルも身を翻し、背中をとらせなかった。幾度となく、素早く、対戦者を捉えられる位置へ、また反応できる場所へ、互いに相手のそばを激しく動き回っている。互いの剣が勢いよくぶつかり、火花を散らす。
手に汗握る戦いに、アベルは精神的に耐えられずもう倒れそうだ。本当なら、とても見ていられない。でも見届けなくちゃならない。仮にも僕は王弟だ。この時、よりそう強く意識できたのは、この一騎打ちの直前に兄から言われた言葉、それがずっと胸にあるからだ。
「フィルディアは、まだあまりに幼い。そして、とてもそなたを慕っている。だからその時は・・・頼んだぞ。」
はっきりと具体的に何をどうして欲しいとは言われなかったが、アベルはそこで、実質的に国を任せられたという意識を持つようにし、強くうなずいて応えたのである。兄が心置きなく決闘に臨めるよう、心配事は取り除いてあげなければ。これは一対一の戦い。ほかに力になれることが無いのなら願いをきかないわけにはいかないと、そう思って。
戦いの炎は、まだ衰えを見せずに燃え続けている。はたから見る限りは互角だ。
猛烈に打ち込まれた剣を盾で食い止め、押し退けて、体勢を崩した隙を狙う。上手く避けられてしまい、反撃を辛うじてかわす。装甲のあいだを切っ先が掠めた。アレンディルは体を回して、横殴りの一撃。エウロンが飛び退いた。すぐに距離を詰めて、剣をぶつけ合った。めまぐるしく何度も打ち合い、同時に限界がきていったん離れた。
「やるな・・・。」
肩で息をしながら、エウロンは思わずつぶやいた。完全に見くびっていた・・・なぜだ。この強さはどこからくる。戦場を知らぬはずなのに。エウロンは、向かい合っている敵国の若い王をまじまじと見つめる。すると、イライラしてきた。意外、予想外、計算違い、ことごとく狂う。地形に恵まれ、実り豊かで資源が豊富なこの隣国は、何もかも思い通りにならない・・・!




