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バラロワ王国の君主 エウロン



 無造作むぞうさにうねる赤髪、茶色の瞳。少しほおがこけてエラの張った顔に、うっすらと顎鬚あごひげを生やしている男性。


 王エウロン、バラロワ王国の君主。


 そうと分かっても、若き王アレンディルだけは、驚きを見事に面上めんじょうに出さなかった。


 もはや今なお敵の君主は、少し感情的になっていきなり言葉をつらね始めた。


「私はいろいろと策略さくりゃくった。南の森では、敵の有力な部隊を次々とだまし撃ちにし、北からは王になりそこねたあわれな男に侵略しんりゃくさせ、かつてラトゥータス王の分身となって我らを苦しめた男の城を乗っ取る。そのはずだった。だが、南の森は何の役にも立たなくなり、憐れな男は間抜けにも失敗し、奴の城は、戦争反対とおろかにうたいながらも変わらず強かった。またしても・・・またしても、ことごとく打ち負かされた!」


 理不尽りふじんめられたようなアレンディルだが、黙ったままその怒りを受け止めた。


 室内が静まり返った。


 エウロンはふんと息を吐きだし、興奮をおさえて、王アレンディルに向き直った。


「そこで、手っ取り早く一騎打いっきうちといこうじゃないか。我らは大戦争に負けはしたが、まだ降伏こうふくしていない。とはいえ、じゅうぶんに計画して起こした戦いに敗れ、すぐにまた襲撃をしかけられる力は、もはやない。私ももう、若くはない。ゆえに、貴様との一対一の決闘は、私にとっては最後の手段だ。私が負ければいさぎよ野心やしんを捨て、後世にも引き継がせぬと約束しよう。今後一切、この国をわずらわせはしないと誓う。つまり、降伏する! だが、私が勝ったその時は、分かっているな。この国をもらい受ける。」


 考えが甘かった・・・支配欲にまみれ、戦慄せんりつを覚えるほどの執着心しゅうちゃくしんに、エドリックはゾッとした。それに、むしろ少しあわれみが湧いた。この人を救う手立てはないのだろうか。彼の周りの者やその支配下にある者たちがみな、彼と同じように頂点に君臨くんりんしたいと思っているとは思えず、王エウロンが孤独に見えた。現にその娘は、ある意味愛想をつかして、彼の前から姿を消しているのである。


 エドリックがそんな思いでいる間にも、若き王アレンディルは堂々たる態度できっぱりと言葉を返していた。


「王よ、その話に応じるわけにはいかない。我らができるのは防衛戦のみ。」


 敵の君主の顔が、ムッとしたものになる。


臆病者おくびょうものめ! そのような返事に、私が納得なっとくして引き下がるとでも思うのか。」


「そのような勝手な決闘は、私にも許されてはいない。」 


 すると意外なことに、そこで王エウロンは、今度は自嘲じちょうにも似た笑みを浮かべた。


「さすがに挑発ちょうはつには乗らないか・・・あわよくばという考えもあったが。」


 エウロンが口調を変えたことで、白熱はくねつした空気がやや冷めた。しかし、両者のあいだの緊張状態は続いている。


 王エウロンが、先ほどよりもずっと落ち着いた声でまた話し始めた。


「各地に、まだ残って潜伏せんぷくしている我が軍隊がいる。」


「私の兵士たちはそれらを見つけ出し、撃退げきたいできる。」


 アレンディルが珍しく挑戦的な態度をとった。思わず口から出てしまったようだが、幸い相手を刺激することはなかった。


「まあ話を聞け。」と、エウロンが言った。「我が国との国境を守っていた、南の警備隊というのがいただろう。それらはどうなった。壊滅かいめつしたのではないか。」


 これにはエドリックも我慢ならず、その卑劣ひれつな男を、あからさまに憎悪ぞうおをこめてにらみつけた。


 するとアレンディルは、エドリックのその怒りに気づいたような返答をした。

「それは、あなたの方がよくご存知のはずだ。彼らに何が起こり、彼らがどのような目にあったか。」


 実際、アレンディルの胸にも同じ気持ちがこみあげている。


「私は事細かく指示を出し、一部始終を見ていたわけではない。しかし、手段を選ばなかった・・・というのは認めよう。そして、それにもかかわらず敗北したことを。」


 それを聞かされた者たちは、まるで恥もしない淡々とした声だと感じた。冷酷れいこくな人格がうかがえ、アレンディルはますます悲しくなるのをこらえて、彼が言う話を聞いていた。


「そこで、これならどうだ。決闘に私が負けた場合については、さっき話した通りだ。そして貴様が敗れた場合だが、その時は、そこをそのまま明け渡してもらいたい。いや、正確には南の国境付近に基地を設け、つね監視かんしすることを止めてもらいたい。この私、バラロワ王国の王エウロンと、ウィンダー王国の王アレンディルとの決闘において、私が望むものは、たったそれだけだ。それくらいなら、けることもできよう。その気になれば、我らは今この場で、貴様を殺すことだってできるぞ。さあ、ラトゥータスの息子、アレンディルよ! 武器を用意し一騎打ちに応じろ。無駄死にしたくなければ!」 


 エドリックやマクヴェインは剣のつかに手をかけ、今や敵の近衛兵もまた同じ行動をとった。


 アレンディルは、背後にひかえている自分の従者に向かって片手を上げ、それを制した。


「王よ・・・その言葉に二言にごんはないと? 負ければ野心を後世に引き継がせず、まだ潜伏している部隊を完全に引き上げさせると、確かに降伏すると誓っていただけるか。」


「誓おう。だが、勝てば部隊はそのまま。国境を常に見張る者もいなくなる。私の代で、また征服せいふくの機会が得られる。」


「私が敗れても、ウィンダー王国は強く正しくあり続ける。」


 その言葉に、王エウロンは不愉快ふゆかいそうなしかめっ面をお返しした。


 南の警戒だけを解く。かなり分は良くはなったが、それでも、これは議論されるべきことだ。だがとにかく、どうにかして、この場は収めなければならない。この状況から、エドリックにさえ、相手の気持ちをいくらかはまなければ収拾不可能だろう・・・という気がした。王の御前ごぜんまで、最も油断ならない相手をほいほい通してしまったことは、こちらの落ち度だ。ならば・・・と、陛下はお考えになったのでは。


 エドリックはそう推測した。


 本当なら、今日はここで和平を結び、長年の確執かくしつは消し去られて、完全に終戦するはずだった。アレンディル陛下は、我が身一つでまさに戦争を終わらせられる可能性に、独断どくだんで賭けたのだ。









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