使節団とゼルフィン
王都では警戒を続けながらも、何事も起こらない日々が過ぎていた。
するとある日、バラロワ王国から、話がしたいと五人の使節団が送られてきた。
かつては、先代王ラトゥータスも、何度か試みたことがあった。バラロワの王も話し合いには応じ、使いを迎え入れてはくれたが、結局、解かり合えることはなかった。それが今になって、向こうから同盟ではなく、ようやく和平を結びたいと言ってきたのだ。近隣国とも友好的に付き合う意思があると。
使者たちの希望で、その一団がまず通されたのは、多くの関係者や騎士たちが出迎える準備をしている広間ではなく、別の一室だった。彼らが持ってきた君主の言伝によって、そう手配された。
彼らが言うには、こうだった。
我が軍は、様々な手段で優位に立つも完敗した。しかしながら、貴国はただ防衛戦にとどめられた。若き王の寛大さに敬意を表し、ついに改心して和平に応じたいと思う。今日は歴史的な日になる。具体的なことについては、大勢に話す前にぜひ、和やかな場で最初にアレンディル王に申し伝えたい。
まるで本当に、直接、王の口から聞くようだった。使者たちにそう言われた家来はすぐに陛下に報告しにいき、アレンディルも快く聞き入れて使者たちの希望通りにし、旅の疲れが癒えるよう配慮するように命じた。
和やかな場として選ばれたそこは、中庭に咲き誇る花々をぐるりと眺められる、円蓋天井の素敵な離れだ。真ん中に食事ができる大きな円卓と椅子がある。広々とした部屋だが、余計な家具を置いていないので、大きなアーチの連窓越しに、外の景色を絵画を並べたように見ることができる。
アレンディルは、接待役に騎士や側近ではなく、侍従のゼルフィンをつけた。それに、女性の召使いを二人。威圧的な感じを出してはならないと考えたからだ。敗北者たちが卑屈な気持ちにならないようにと。
一方、使節団の五人は全員が騎士ということで、みな軍服姿に腰には剣を帯びていたが、そのまま通された。どの騎士も、権力のある四十から五十代の中年男性といった感じの五人である。
案内されるままテーブルの席についた客人たちに、飲み物がふるまわれた。
「長旅でお疲れでしょう・・・えっと、どちらからお越しで?」
使節団の騎士たちは、いかにももうろくした感じで話す老人を、半ば呆気にとられて不思議そうに見つめた。今の質問は、自分たちが、そもそもどこの国からやって来たのかすら分かっていないのではないか・・・。
「バラロワ王国からです。南の川と森の向こう、少し荒れた丘陵地帯にある、その王都からです。」
赤髪の騎士が答えた。
「それはそれは。その少し荒れた丘が連なる場所には、川はありますか。」
「はい。ですが、細くて枯渇しそうな、頼りない川ばかりです。」
「では、それらの川をぜひ大事にしてあげてください。死なないように、ずっと気にしてあげてください。そうすれば茶色はきっと緑になる。緑の方がいいでしょう。これからは、きっと時間がたくさんありますから。」
接待役のその老人は、細い目をしてにこにこと、そんなことを言った。
使節団の騎士たちは顔を見合った。この老人は、こちらのことや今の状況を、さらにはひょっとすると先のことまで、何もかも分かっている? 認めるのは癪だが、今、まるで魔法でもかけられたように、殺伐な気持ちが一瞬なだめられた。彼の声を聞いていると、またその言葉にも、漠然としているのに思わず深く考えさせられ、諭されているような気持ちになってしまった。彼は修道士の長か。騎士たちはみな、そのいかにももうろくしていそうな老僕に、不覚にも少し畏怖の念を抱いた。
やがて、王アレンディルがみえた。近衛騎士を二人とも従えているが、それだけだった。
ゼルフィンは感じ良くお辞儀をして、退室した。
「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。」
ウィンダー王国の若き王アレンディルは、笑顔で外交使節一行に挨拶をした。
立ち上がっていた使者たちも、丁寧に頭を下げて応えた。
ところがそのあと、彼らは奇妙な行動をとった。
赤髪の一人を残して、ほかの者たちが一斉に下がったのだ。
アレンディルの後ろで、エドリックやマクヴェインがかすかに顔をしかめる。
嫌な予感が走り抜けた時には遅く、その使者は、急に横柄な態度になった。
「そうか・・・貴様がラトゥータスの息子か。」
低く、毒の籠ったいまいましそうな声が室内に響いた。
「私を丁重にここまで招き入れてくれたことに感謝する。これで、貴様の死に顔を直に拝むことができるのだからな。」
アレンディルと二人の近衛騎士は固まり、思わず息を止めた。
間違いない —— 。
バラロワの王、本人だ・・・!




