表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/67

使節団とゼルフィン


 王都では警戒を続けながらも、何事も起こらない日々が過ぎていた。


 するとある日、バラロワ王国から、話がしたいと五人の使節団しせつだんが送られてきた。


 かつては、先代王ラトゥータスも、何度か試みたことがあった。バラロワの王も話し合いには応じ、使いを迎え入れてはくれたが、結局、かり合えることはなかった。それが今になって、向こうから同盟どうめいではなく、ようやく和平を結びたいと言ってきたのだ。近隣国とも友好的に付き合う意思があると。


 使者たちの希望で、その一団がまず通されたのは、多くの関係者や騎士たちが出迎える準備をしている広間ではなく、別の一室だった。彼らが持ってきた君主の言伝ことづてによって、そう手配された。


 彼らが言うには、こうだった。


 我が軍は、様々な手段で優位に立つも完敗した。しかしながら、貴国はただ防衛戦にとどめられた。若き王の寛大かんだいさに敬意を表し、ついに改心して和平に応じたいと思う。今日は歴史的な日になる。具体的なことについては、大勢に話す前にぜひ、なごやかな場で最初にアレンディル王に申し伝えたい。


 まるで本当に、直接、王の口から聞くようだった。使者たちにそう言われた家来はすぐに陛下に報告しにいき、アレンディルも快く聞き入れて使者たちの希望通りにし、旅の疲れがえるよう配慮はいりょするように命じた。


 和やかな場として選ばれたそこは、中庭に咲き誇る花々をぐるりと眺められる、円蓋えんがい天井の素敵な離れだ。真ん中に食事ができる大きな円卓と椅子がある。広々とした部屋だが、余計な家具を置いていないので、大きなアーチの連窓れんまど越しに、外の景色を絵画を並べたように見ることができる。


 アレンディルは、接待せったい役に騎士や側近そっきんではなく、侍従じじゅうのゼルフィンをつけた。それに、女性の召使いを二人。威圧的いあつてきな感じを出してはならないと考えたからだ。敗北者はいぼくしゃたちが卑屈ひくつな気持ちにならないようにと。


 一方、使節団の五人は全員が騎士ということで、みな軍服姿に腰には剣を帯びていたが、そのまま通された。どの騎士も、権力のある四十から五十代の中年男性といった感じの五人である。


 案内されるままテーブルの席についた客人たちに、飲み物がふるまわれた。


「長旅でお疲れでしょう・・・えっと、どちらからお越しで?」


 使節団の騎士たちは、いかにももうろくした感じで話す老人を、なか呆気あっけにとられて不思議そうに見つめた。今の質問は、自分たちが、そもそもどこの国からやって来たのかすら分かっていないのではないか・・・。


「バラロワ王国からです。南の川と森の向こう、少し荒れた丘陵きゅうりょう地帯にある、その王都からです。」

 赤髪の騎士が答えた。


「それはそれは。その少し荒れた丘が連なる場所には、川はありますか。」


「はい。ですが、細くて枯渇こかつしそうな、頼りない川ばかりです。」


「では、それらの川をぜひ大事にしてあげてください。死なないように、ずっと気にしてあげてください。そうすれば茶色はきっと緑になる。緑の方がいいでしょう。これからは、きっと時間がたくさんありますから。」


 接待せったい役のその老人は、細い目をしてにこにこと、そんなことを言った。


 使節団の騎士たちは顔を見合った。この老人は、こちらのことや今の状況を、さらにはひょっとすると先のことまで、何もかも分かっている? 認めるのはしゃくだが、今、まるで魔法でもかけられたように、殺伐さつばつな気持ちが一瞬なだめられた。彼の声を聞いていると、またその言葉にも、漠然ばくぜんとしているのに思わず深く考えさせられ、さとされているような気持ちになってしまった。彼は修道士のおさか。騎士たちはみな、そのいかにももうろくしていそうな老僕ろうぼくに、不覚にも少し畏怖いふの念を抱いた。


 やがて、王アレンディルがみえた。近衛騎士このえきしを二人ともしたがえているが、それだけだった。


 ゼルフィンは感じ良くお辞儀じぎをして、退室した。


「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。」


 ウィンダー王国の若き王アレンディルは、笑顔で外交使節がいこうしせつ一行いっこうに挨拶をした。


 立ち上がっていた使者たちも、丁寧ていねいに頭を下げてこたえた。


 ところがそのあと、彼らは奇妙な行動をとった。


 赤髪の一人を残して、ほかの者たちが一斉いっせいに下がったのだ。


 アレンディルの後ろで、エドリックやマクヴェインがかすかに顔をしかめる。

 

  嫌な予感が走り抜けた時には遅く、その使者は、急に横柄おうへい態度たいどになった。


「そうか・・・貴様がラトゥータスの息子か。」


 低く、どくこもったいまいましそうな声が室内に響いた。


「私を丁重ていちょうにここまでまねき入れてくれたことに感謝する。これで、貴様きさまの死に顔をじかおがむことができるのだからな。」


 アレンディルと二人の近衛騎士は固まり、思わず息を止めた。


 間違いない —— 。


 バラロワの王、本人だ・・・!








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ