表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/67

別れ ― そして約束



 戦争は終わった。


 アディロンの森のだましち、待ちせ襲撃、関所とイスタリア城での戦い・・・ウィンダー王国の戦士たちはそれらを全て耐え抜き、結果的には勝利した。ただ、敵の君主、バラロワ王国の王は、この結果に納得なっとくなどいっていないだろう。しかしイスタリア城での大戦争に敗れ、関所も奪い返されたことから、王都への攻撃を断念すると見られた。


 イスタリア城では、戦闘の爪痕つめあとを残さない作業が、きびきびと行われていた。敵に壊されて下りっぱなしだった正門のね橋を直す工事も、順調に進められている。


 そこを通してもらったアベルとその仲間や、親しくなった者たちは、長い石橋を渡りきったところの森の岸辺きしべにいた。この日の朝、自分の家へ帰る少女を見送るために集まったのだ。


 そのラキアは、イスタリア城の兵士に故郷のローウェン村まで送ってもらえることになっていた。ラキアはそれがとても不満そうだった。アベルやリマールが送ってくれると思い込んでいたのだ。暢気のんきな少女は、彼らがもう、規律きりつを守り、しっかり働く大人と変わらないのを分かっていない。


 よって、アベルとリマールはすぐに王都へ。そしてレイサーも、動ける隊員たちを連れてすぐにカルヴァン城へ戻らなければならなかった。


 ただ、不幸にも一連の謀略ぼうりゃく過酷かこくな戦闘の被害を最も受け、壊滅かいめつ状態におちいった南の国境警備隊については、今後どうするかの話し合いがこれから行われるという。つまり、ラルティス総司令官とその生き残った部下たちには、今はどこにも行き場がない。


 そこで王から、心身ともにとても傷つき、疲れているということも考慮こうりょされて、彼らは召集しょうしゅうがかかるまで休暇きゅうかを与えられることになった。仕事一筋(ひとすじ)だったラルティスも、その決定を素直にありがたく受け止め、おとなしく実家へ帰って、ボロボロの体より心の重傷をいやしたいと思っていた。ただ、いつもの自分を崩さず平常心でいられるだろうか・・・と、ほんの少し不安があった。


 実家のカルヴァン城には、彼女がいるから。


「それにしても、どうやってあんなに早く・・・。回り道をしてきたんだろう?」

 友と向かい合って立ったアルヴェンがきいた。


「ああ、秘密の道を来た。」と、レイサーが答える。


「まさか、鍾乳洞しょうにゅうどうの地下道か。ヴノ・ラソンへ行ってきたのか。」


「それが、あの名無しの村の本来の名か。」


「そうか、今は確かそうだったな。古い言葉で、〝山の守り人〟という意味があるらしい。」


「名前を無くした理由が分かった。」


 〝魔物が眠る洞窟〟なるものと関連付けられるものを、とにかくおもてに出したくなかったのだろう。そうレイサーは考えた。そして、アルヴェンの口からすぐにそれらの言葉が出てきても、レイサーは驚かなかった。やはり、イスタリア城とその村ヴノ・ラソンとは、古い時代から何か関係があったのだ。

 

「しかし、よく教えてもらえたものだ。あの道は、その村人たちでも恐れて通りたがらないと聞いていたが。」


「ああ、ちょっといろいろあって。だが、決定打はやっぱり、あいつかな。」


 結局、今回も助けられたな・・・と感謝しながら、レイサーはラキアを見た。なんか役に立つ、いや、いざという時にはたよりになる精霊使いの少女。


 そのラキアはべそをかいて、分かりやすく異常にしょんぼりしている。今まさに、アベルからお別れの言葉を聞かされているからだ。本人アベルだけは、友人として名残惜なごりおしまれていると思っているかもしれないが、周りにいるほかの全員気づいたろうと、レイサーは見てとった。現に、アルヴェンでさえ、「あの子は彼のことが好きなんだな。」という微笑を向けてきた。


「ありがとう・・・元気で。」


「うん・・・。」


 向かい合ったまま、若い二人のあいだに無言が続いた。


 リマールは、こんな悲しい感じの別れ方でいいのかな・・・と思い、何か口を挟みたかったが、我慢して見守った。


「ラキア・・・あの、さ、君のこと見送りたいんだ・・・だから、その・・・。」


「うん・・・。」


 ラキアは肩越しに振り向いて、後ろで待ってくれているイスタリア城の馬車を見た。


 ラキアはしぶしぶ背中を向け、のろのろと離れていった。


 すると、なんだ?


 ラキアがうな垂れていた背筋を伸ばして振り返り、駆け戻ってくる。そうかと思うと、アベルの肩に手を置いて、背伸びをし、ほおにそっとキスをした。


 アベルは驚いて目を大きくした。


 リマールもあっと口を開け、レイサーがまゆを動かし、ほかの者たちも、「え・・・。」という、ちょっと意表いひょうをつかれたような顔に。失礼ながら、彼女にそんな乙女おとめ大胆だいたんなことをするイメージが無かったからだ。


 そのラキアは赤くなった顔をらして、何も言わずにはなれた。


 アベルの右手がとっさに動いて、そんなラキアをつかまえた。そしてグイッと引き寄せ、ひたいにキスのお返しを。


 その時、レイサーやリマール、それにラルティス総司令官やアルヴェン騎士、さらには城主のエオリアス騎士にまでしっかりと見られていたが、どんな反応をされようと不思議なほど恥ずかしいという気持ちは無かった。ただ、ラキアの気持ちが嬉しかった。


 ラキアは目を丸くして固まっている。


「また会おう。そうだ、きっと会いに行くよ。」


 いつも以上に気持ちをこめて、アベルはラキアの頭を優しくなでた。


「うん!」


 元気を取り戻したラキアは、明るく手を振って、大きな窓がついた四輪馬車に乗り込んだ。


 ようやく動き出したイスタリア城の馬車は、ゆっくりと回りながら森の道へ。その時、ラキアが窓から身を乗り出して、また手を振った。


「あたしも!」


 親しくなった者たちはみな手を振り返し、笑顔で少女を見送った。


 今は秋が終わる頃。モミの木が多いフェルドーランの森は、どこもかしこも赤や黄色といった秋色に染まることはない。その分、衣替ころもがえをしたほかの木々が際立きわだって見られるようになる。そしてそれらが、遠慮えんりょがちにはらはらと紅葉もみじを落とす。下には落ち葉の吹きまりもある。もうすぐ冬が来る。


 春になったら・・・と、アベルは心の中でちかった。


 君がそうなら、僕もきっと、君のことが・・・。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ