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撃たれた男の正体



「これで、少なくとも、私に王を傷つけられるような力など無いことは、お分かりいただけたか。」


 男はアベルに体重をあずけながらそう言った。アベルは今、男の左の脇の下から背中へ片腕を回して、正面しょうめんから引き起こすようにその体を支えている。


 事情はよく分からないが、狙われてるみたいだし、この人の言うことが本当なら王国の危機だ。僕なら人を介さないで兄上に会わせることができる。全くというわけにはいかないけど。


 アベルはそのまま振り向いて、肩越しにヴォルトを見た。

「矢・・・抜かないと。」


「いや、今はダメだ。いっきに失血すると思う。それに、やじりの形状によっては簡単に抜けないし、下手にさわったらひどくなるよ。」


 アベルは弓術きゅうじゅつを得意とするが、弓矢にくわしいわけではない。その点は、少し先輩のヴォルトの方がよく知っている。


「でも、とにかく、この人を手当てしないと。ヴォルト、僕に任せてくれないか。」

「どうするんだ?」

「できるだけ密かに、この人が望むことをする。」

「どうやって。」

「あてがあるんだ。とにかく、ここをお願い。何とかごまかして。」

うそだろ、交代が来たら何て言えばいいんだ。もし部隊長が見回りに来たら?」

「僕は貧血でちょっと休んでるとか言っといて。」

「どうせ、すぐにバレるよ! そしたらしかられるっ。」

「責任は全部僕がとるよ。」


 アベルは謎の小男に肩を貸しながら歩いて、馬がいる方へ向かった。自分の馬だ。傷ついた彼を馬の背に乗り上がらせる時には、ヴォルトも手を貸した。


 アベルは手綱たづなをほどいて、男の後ろにまたがった。そして、静かに馬を歩かせながら城を目指した。


 それをヴォルトは、落ち着かない気持ちのまま見送った。


「傷にひびく時は言ってください。馬を停めますから。」


「ありがとう・・・なんとか耐えられそうだ・・・。」

 顔にあぶら汗を滲ませながら、男は弱々しく答えた。


「あなたをまず、友人の軍医にみせます。それから知り合いに頼んで、直接、王のもとへ。」


「知り合い・・・とは。」


「王の近衛騎士このえきしです。」


「エドリック騎士と・・・マクヴェイン・・・騎士。」


「エドリック騎士の方にお願いできると思います・・・あの・・・あなたは?」


 この人は今、二人の近衛騎士の名を即座そくざにはっきりと口にした。つまり、軍の関係者でなければ内部に詳しい者だ。そういえば、彼はさっき、アレンディル王は自分のことをよく知っているとも言い放った。


「若い兵士さん・・・あなたこそ・・・誰。」


 アベルが、彼のことをただ者でないと感じているように、王の近衛騎士を知り合いだと言い、ずいぶん容易たやすいことのように動いてくれる若い兵士は、彼にとってもまた謎である。


 それで、男が肩越しにしげしげと見つめていると、アベルはこう言った。


「私はあなたを信じた。あなたのことは、ひとまず王に会わせるまでは、その二人のほかには誰にも言いません。それに、ほかの誰にも見られないようにします。もし、あなたも信じて正体しょうたいを教えてくれるなら、私も名乗ることができるかもしれない。」


「私は・・・。」いくらか思案しながら、男は答えた。「私は、ベルニア国の統治者とうちしゃ・・・ムバラート様の・・・側近そっきん。いや、もと側近だ。」


 すぐにかんが働いた。


「では、あなたがもつ情報とは・・・もしかして、侵略計画。」


「まだ・・・口に出してはいけない。それで・・・あなたは。」


「私はアベルディン。」


 もと側近は、絶句ぜっくしたようだった。


「殿下・・・。」


「どうか、それも内緒で。」


 アベルは、城が建っている高台のふもとに馬をとめた。そして、崩れるように馬から下りた負傷者をうまく受け止めてやり、支えながら歩いて、しげみの陰になっている木のみきを背もたれにして座らせた。


「ここで待っていてください。」


 男は力無く、かすかにうなずいた。


 アベルは城館を見上げた。灰褐色はいかっしょくの城は、ランプやかがり火に照らされて白く、夜空にいかめしく浮かび上がっている。それは段々に築かれていて、長い坂道やいくつもの階段をまとっている。城まではすぐのように見えるが、リマールのもとへたどり着くにはまだ遠い。


「頑張ってください。できるだけ早く戻ってきますから。」


 そう声をかけて離れたアベルは、城館へと続く坂道を、馬を飛ばして上がって行った。









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