最強の騎士 エオリアス
城主エオリアスは、すぐ眼下の激闘を見渡せる場所に、高い塔の上にいた。
エオリアスはそこから、カルヴァン城の援軍が到着したのを見た。そして起こった川沿いの戦いを見守り、彼らが潜伏していた敵の部隊を撃退してくれたのを見届けた。そして次にはここへ来て、限界を超えてなお武器を振るうウィンダー王国の兵士たちに、大きな助力を与え希望をもたらしてくれたのも。
そうして、窮地に現れたカルヴァン城の援軍は、劣勢を見事に立て直した。決して諦めはしなかったが、絶望的に思われた戦いが勝利をつかみ取ろうとしているものに変わったのを、エオリアスは確信したのである。
その城主のもとへ駆け込んできた兵士が一人、息をきらせてこう報告した。
「敵の精鋭が間もなくここへ来ます!」と。
「構わん、迎えよう。」
エオリアスは眉一つ動かさずにそう言うと、知らせに来た兵士の背後に目を向けた。
それら敵の進路を阻もうとした自分の兵が、悲鳴を上げて次々と横へ倒されている。みるみる迫り来る。なるほど、かなりの手練れがそろっているようだ。
「手を出すな、その者たちを通せ。」
すると、それらは瞬く間に目の前に現れた。城壁の通路を嵐のように駆け抜けてきた敵の精鋭とやらは五人。城の塔にいて指揮をとっている大男、すなわちイスタリア城主エオリアスの姿を目に留めるや、その騎士団は一心不乱にここを目指してやってきた。
その中から、男が一人進み出てきた。いかにも、今現在、軍で高い地位にあるといった感じの強面で、見た感じエオリアスよりも若そうだった。背が高くて、体格もがっしりしている。
「お前の王は来ていないのか。」と、エオリアスは真っ直ぐに男を見て問いかけた。
「まだエウロン陛下がお出ましになる時ではない。騎士エオリアス。かつてラトゥータス王の右腕だった貴様を葬るのは、私の任務だ。」
男は堂々と、自身と誇りに満ちた声で答えた。
「では、お前が総司令官・・・ということでいいか。」
「そうだ。」
「お前は、ここまで脇目もふらずにやって来たのか。」
「なに・・・。」
その意味深な物言いに、男は顔をしかめる。
「裏門から侵入し、中庭を突き進み、建物を駆け回り、通路という通路を、障害をことごとく突破してここまで来た。城壁や窓の外へ目を向ける余裕もなく。そうではないか。」
言い当てられたようで、男は黙った。
「もう私とお前との間には何もない。さあ今、城壁の外を見下ろしてみよ。」
男は黙ったまま、何やら考えこんでいる様子で、騎士エオリアスを見つめている。
「何を警戒している。私はだまして不意をつくような愚かで醜く、卑劣なことはしない。だまし撃ちなどは・・・な。ほら、部下に私を見張らせておけばいい。」
この痛烈なあざけりの言葉にもかかわらず、緊張感が漂った。後ろの連れたちも、視線をエオリアスから外さずにいる。騎士団はみな、嫌な予感を覚えたようだ。
指揮官の男は、思い切ったようにチラと横目を向けた。それから二度見して、壁にへばりついた。無防備にも身を乗り出して下を凝視している。その焦りようを見たほかの騎士たちもまた、同じような姿勢になった。
「気づいていたか? いつの間にか、我らの色に染まりかけているだろう? かつてもう一人いた先代王の片腕が、強力な援軍を送ってくれたのだ。形勢は逆転し、今や我らの方が優勢だ。お前にはまだやることも、可能性もあるだろう。我らの王は、このような戦いを望んではいない。これは忠告だ。ただちに生き残り兵たちを全て退却させよ。」
ふらりと壁から離れた指揮官の男は、足を踏みしめて立ち、鋭い顔で目をむいた。
「だが貴様を殺せば・・・貴様を殺して、ここをもらい受ける!」
「憐れな・・・。」
男は聞く耳を全くもたず、エオリアスがため息をついた直後に、いきなり飛びかかってきた。
エオリアスは、一歩身を引いただけで軽くかわした。そして、最高指揮官同士の戦いになった。剣を交えてみると、実力の差は歴然としていた。先代王ラトゥータスの一番の騎士は、少しも衰えてなどいなかった。現役時代そのままの強さで、明らかに相手を圧倒している。果敢に挑んだ男も、確かに自他ともに認める凄腕である。なのに、受け止めるだけで精一杯だ。
最強の騎士と名を馳せた男は、武神のように剣を振るう。そうというより、操るといった感じだ。そして、もはや情け無用とばかりに勝敗を決める一撃を見舞った。
深く腹の真ん中を突き刺されて、敵の総司令官は胸壁のへりに倒れかかった。まともに受けた攻撃には、確実に鎧を破壊できる技術と威力があった。
次の瞬間・・・!
その体は、ひっくり返るようにして姿を消した。そこは壁の低くなった部分で、あっと思う間もなく落ちていったのである。
エオリアスは首を伸ばして、まだ激戦のただ中にあった下の中庭をのぞいた。
残されたほかの騎士たちも、へりから見下ろして一様に青ざめている。
男が落ちた辺りでは、敵も味方も、驚きのあまり戦いを中断したようだった。ただ騒然としていて、その中心には、もはや生きてはいないだろう、頭からも血を流した敵の総司令官の体が横たわっている。
遺体の傍らに駆け寄ってきた誰かが、やがてのろのろと顔をあげて上を向いた。
エオリアスは、その男と目が合った気がした。
男は茫然自失で佇むように数秒そのままだったが、それから近くにいる同胞に何か話し、何か身振りを加えたあと、首からかけている角笛を吹いた。
すると、それに応えるかのように、また遠くの塔の方角からも笛の音が。
退却の合図だ。
その証拠に、バラロワ王国から送られてきた軍勢は、山脈側の裏門や大手門へと速やかに退いていく。エオリアスの前からも、恐れおののいた目を向けてきた四人の騎士が離れていった。
そうして、イスタリア城の戦いは終わった。
その後は占拠された関所も取り返し、バラロワ王国の策は尽きて、最終的にはウィンダー王国が勝利した。




