一度限りの・・・
意識が暗闇に消えていく。断末魔の苦痛さえも、感覚の全てを奪われ・・・死ぬ。
僕は、このまま ―― 。
最後の最後でそう思った、が、声が聞こえて再び気づいた。
でもそのあいだに、一度、完全に命が燃え尽きた気がした。
どれだけの時間、そうなっていたか分からないけど、つまり、生き返った。
奇妙なことだが、アベルはそんな確信を持った。なぜなら、さっきまでの痛みも苦しみも感じないからだ。それに、死ぬ前は(死んだとして)なかったものがある。それもきっと魂を引き戻し、気づかせてくれた。それは、ひどく悲し気に響いてきた男の人の声。
レイサーだ。
ほら、今も聞こえる。嗚咽混じりの・・・。
「ああ・・・そんな、アベル・・・お前、なんで・・・な・・・あ?」
今、瞼がふるえた・・・と思い、レイサーは驚いて息をころし、耳をすまして見つめた。かすかな呼吸を聞き取った。
アベルが息をふき返した・・・!
「え・・・ああ・・・よかった・・・俺は、てっきり死んだものと・・・。」
アベルは、頭と肩を抱き上げられているまま、近々と真上にあるレイサーの顔を見つめ返した。
「はい・・・たぶん、死にました。でも・・・。」
〝本当に必要になった時に、一度だけ・・・〟
アベルの耳によみがえる、森の中で聞いたあの声。自分にとって、まさにこれ以上の助けが必要な時はないだろう。でも、もう次は無い。早く強くならないと。
「泣いてくれたんですか。」
レイサーはアベルの肩からパッと手を引っ込める。
「馬鹿抜かせ・・・戦場でいちいちそんな・・・。」
「だって、はっきりと痕が。目も潤んでますよ。」
「あんなに悲愴な顔して取り乱しているお前は、初めて見た。」と、ラルティス。
レイサーは顔をそむけ、できるだけ素早くサッと目をこすった。
「見せてみろ。」
「治っています。」
病み上がりのような顔に、アベルは笑みを浮かべてみせた。壊れた防具や破れた生地の下は、派手に血がついているだけだ。
「信じられない・・・なぜ。」
ラルティスがその破れ目を探りながら、驚愕の声を漏らした。
アベルはくすぐったくて、身をよじらせた。
「きっと、この森の神様が、一度限りの奇跡をくれたんです。」
その時一緒にいなかったラルティスにはさっぱり理解できない言葉だが、レイサーにもよく分からなかった。そういえば、あやかしの沼での不思議な体験を、アベルは自分の中だけにとどめてしまっていた。
その奇跡がどのようにして起こったのか、それは全く感じられなかったけど、死んで生き返るなんて、すごい体験をした・・・と、アベルは思った。




