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強力な援軍


 「アルヴェン!」と、その先頭にいる指揮官は叫んだが、戦いの騒音そうおんで声は届かない。彼は角笛つのぶえをくわえ、思い切り吹き鳴らした。 


 「レイサー!」と、こたえるアルヴェン騎士。


 なんと、隊列の後方にいたレイサーの部隊が、先陣せんじんをきってやってきたのである。


 鍾乳洞を抜けてからも、戦いに備えて無理をしない程度に先を急いできたカルヴァン城の援軍だが、若い隊員が多いレイサーの部隊は、その全員がまだ体力にじゅうぶん余裕があり元気だった。そのためレイサーは、戦場に到着する少し前に、先に行かせて欲しいとほかの指揮官たちに申し出たのだ。


 カルヴァン城の城主、ルファイアス騎士が送ったこの援軍の登場は、敵にとっては逆に奇襲ともいえるものになった。盾と剣を手に突撃しようとしたバラロワ王国の兵士たちは、後ろから勢いよく走り込んできた軍馬の群れに踏み倒され、中には驚きのあまり自分から川へ飛び込む者もいる。


 アルヴェンはバリケードを解いて味方の騎馬隊きばたいを通し、若い隊長を親しげにむかえた。またこの時は後ろの方にいたアベルも、続いて門の中へと馬を駆け込ませた。


 レイサーは、指揮官のアルヴェンをさっと見回した。斬られた二の腕から血を流し、汚れた疲れきった表情で、やや呆然ぼうぜんとしているように見つめ返してくる親友を。


「お前、ひどい体だな。顔も。」


 レイサーは元気づけににくまれ口をたたいた。顔のことは、べつに不細工ぶさいくといったわけではない。


「これくらいは仕方ない。顔も、は余計だ。」とアルヴェンも返し、友と手を握り合った。


「すぐに、ほかの部隊も駆けつける。」


 アルヴェンはホッとしたようにうなずき、それから言った。

「ラルティス騎士が、あの塔の部屋に。彼は重傷で動けない。それで護衛をつけようとしたが、必要ないと。」


「そうか。とにかく、先にこっちを片づけないと。ほら、性懲しょうこりもなく次が来たぞ。」


 二人が鋭い目を向けた川岸から、また新たな敵の部隊が橋を渡ってくるのが見えた。


 馬からおりたカルヴァン城の騎兵たちもみな、大手門の前に並んで太いやりを構えた。バリケードは強化され、じゅうぶん対抗できる厚い防壁ができた。それを見ても、敵はひるみもせずにいどんでくる。ここからめ入るのが彼らの任務。簡単に作戦変更というわけにもいかないのだろう。


「逃げ場のない橋を無謀むぼうに渡ってくる奴らを、その通り全滅にしてやる。アベル、後ろの塔から援護射撃えんごしゃげき!」


「はい!」


 敵を見澄みすましながら、すぐ背後にいるその弓の名手に命令したレイサーだが、少し振り向いて顔を寄せると、小声でこうも付け加えた。


「あそこは襲撃されにくい。ここでの迎撃げいげきが完了しても、俺が行くまでそこで待機たいきだ。敵の気配に気をつけろ。」


 アベルはうなずいて、その場を離れた。気分はたかぶり、興奮して、殺人や死への恐怖を意識せずにいられた。胸壁きょうへきの高い階段を駆け上がり、やぐら狭間さまから援護射撃を開始する。アベルは、驚異の命中率で敵の数を減らしていった。


 アルヴェンとレイサーは、再び築かれたバリケードのすぐ後ろに立って、敵を迎え撃った。通路が石橋からの一つに限られているのと、上からは、アベルを含む弓兵が援護射撃をしてくれるので、体力が続く限り対抗できた。


 するとようやく、これは敵わないと悟った敵の指揮官の命令によって、押し寄せていた敵の列は、後ろからバラけ始めてみるみる戻りだしたのである。


 しかし、ちょうどそこへ、レイサーが言ったようにあとから来たカルヴァン城の部隊も次々と到着し、引き返したバラロワ王国の兵士たちを、偶然、待ち構える形になった。よって城の外、森の川沿いでも大勢が入り乱れる戦いに。事前に有利な状況をつくり出して、関所をさんざん破壊してきたバラロワ王国の軍勢と、同じ罠を見事回避し、じゅうぶんな戦力を保ったまま現れたウィンダー王国の援軍との戦いだ。ウィンダー王国の援軍、つまり、カルヴァン城の兵士の方が多い。バラロワ王国の兵士たちには〝仕返し〟または〝仇討あだうち〟のようにも感じられるかもしれない。


 やがて、カルヴァン城の援軍の方がかなり優勢となり、勝利が見えた。そこで指揮官たちは動いて、次の行動に出た。兵士たちをまとめ直すと、いくつかの部隊が橋を渡ってきて、城内の戦闘に加わったのである。


 こうして結果、カルヴァン城の援軍がどうにか間に合ったおかげで、正門からの敵の奇襲は失敗に終わった。






 向こう岸にいる敵が退いていく。川にはたおれた者たちが何人も流されている。眼下がんかのそこらじゅうに、戦死者と負傷者がいる。


 初めて目にする戦争の生々しさを見つめているうち、アベルは不意に我にかえった気がした。そして、壁に背中をつけてその場に座り込んだ。そうしながらショックをやわらげ、動揺どうようおさえるために必死で自身に言い聞かせた。


 僕は人を殺した・・・。殺すつもりでねらって矢を放った。たくさんの人がそれに撃たれて死んだ。分かってたはずだ。兵士になるって、どういうことか。失いたくないものを守りたくて、覚悟を決めて戦い方を覚えたんだろ。このどうしようもなく滅入めいる感覚を、早く克服こくふくしなくちゃいけない。れるんだ。いや、違う。人を手にかけたことを、命の重みを分かりながらも、自分の行いを堂々と受け止めなければならない。


 僕は戦士だ、しっかりしろ!


 ようやく、少し落ち着いたと思えるようになって、やぐらの外へ出たアベルは北の塔に目を向けた。その下の周辺では、まだ戦いが続いている。


 すると、塔の下で火の手があがった。それはみるみる燃え盛り、一階の出入口を炎でふさいだ。


 アベルは、城の内部を見回した。ここから見て奥の山側では、多くの茶色と紺色の軍服が混ざり合う大乱闘となっているが、部分的に勝利をおさめた正門側、特に川沿いの城壁に敵の姿はないように見受けられた。


 アベルは顔を上げて、それほど離れてはいない塔にまた視線を向ける。


 あそこにはラルティス総司令官がいる。彼は重傷で動けないと聞いた。この城壁をわたって上から向かえば、火が回る前に敵をけて行けそうだ。


 安否あんぴが気になって仕方がなくなったアベルは、すっかりレイサーの言葉を忘れて移動した。








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