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イスタリア城の戦い



 夜が明ける少し前に、敵はいったん引いていった。兵士の数でおとりながらも、その夜のうちはひとまず敵を食い止め、持ちこたえたイスタリア城の軍勢。だが敵は立て直して、すぐにまた襲撃してくる。油断はできない、できないが、二次戦に備えて休まなければならない。それも含めて、この間に負傷者の手当てや、迎撃態勢を整え直す等、イスタリア城にいる兵士たちもできる限りのことに当たった。一部破壊された城門も修繕しゅうぜんし、横木を足し、丸太や使えそうなもので可能な限り補強された。


 そのあいだも敵の気配は岩山の中にはっきりと感じられていた。現に監視の兵士たちは、時々ちらっと現れるそれらの動きを確認している。


 この一時の停戦中に、アルヴェンは、ラルティスに戦況を報告しに行った。その部屋には各部隊長と、エオリアス騎士も集まった。


退避たいひ・・・?」


 隊長の一人が、耳を疑うといった顔できき返した。


 それをすすめたラルティスは、固い表情でおずおずと城主の様子をうかがった。エオリアス騎士がかもし出す威厳いげん貫禄かんろくは、ただでさえラルティスでも思わず辟易へきえきしてしまう。そんな彼に今、プライドを傷つけるようなみじめな提案ていあんをしたのである。


「城を明け渡せと言うのですか。」

 アルヴェンも驚いて言った。


「ええ。はっきり言って、まだ敵と張り合える状態にないと見受けられます。援軍が間に合わなければ恐らく、関所の戦いと同じ悲惨な結果となる。そこで跳ね橋を渡り、森の道を進んで王都へ。ここの戦力を王都につなぐというのはどうでしょうか。途中、カルヴァン城の部隊とも出会えるでしょう。」


 ラルティスは無残に敗れた関所での戦いをありありと記憶している。同じように敗戦するとしても、一人でも犠牲者を減らし、戦力を維持いじしておく方がまだしもだと思ったのだ。


「しかし・・・関所を取り返すことがますます困難になる。敵はこの城を乗っ取り、本拠地ほんきょちとするだろう。ここはとりでだ。関所は取り返さねばならん。」


 その言葉、城主エオリアス騎士のそれを最後に、議論されることはなくなった。


 その話し合いは、東の稜線りょうせんから、夜明けの暁光ぎょうこうがちょうど城を照らしだした時に行われたことだった。


 気を抜けない緊迫きんぱくの数時間は、あっという間に過ぎた。結局時間もなく、そのままとどまることとなったのである。たたき潰される最後の瞬間まで、あくまで防衛戦をつらぬくという結論に至ったのだ。


 そして太陽が明るく白く輝きだした頃、一度目の襲撃とは比較にならない大軍が押し寄せてきた。


 今アルヴェンは、まさに戦闘の渦中かちゅうにいて、防具の隙間すきまという隙間に傷を負い、血を流して戦っている。生存者たちも、誰もがみな傷だらけだ。


 やはり、援軍はまだ来ない。


 アルヴェンは、それらは必ず来る・・・! と、味方みかたの兵士たちを勇気づけてきた。確かに、来るには来るだろう。しかし、その援軍カルヴァン城の部隊がとった行動を普通に考えれば、どんなに急いでも、本当ならまだあと一日はかかる。それとも奇跡を信じるか。今日耐えられれば、あるいは・・・。


 そうだ、耐えねばならぬ!


 アルヴェンは闘志を奮い立たせ、城内の庭で力強く剣を振るった。すでに城門は突破され、城の内部で、視界の至るところで武器が激しく打ち合わされている。せわしなく上がる金属音と雄叫おたけび、それに悲鳴。胸壁きょうへきにいた弓兵も階段を駆け下りてきて、剣戟けんげきの戦いに加わるもはや混戦となっていた。


 その熾烈しれつな戦いの最中さなか、アルヴェンのもとに、不意に兵士が一人走り寄ってきて言った。


ね橋がこわされました!」


 アルヴェンは瞬間、頭が真っ白になった。だが必死で冷静になり、確認した。


「橋が下りたということか。」


「はい、敵の部隊が森からも襲撃してきます!」


 そうか、関所を破った部隊は、この時を待って森の死角に潜伏していたのか・・・! なるほど、この数日動きがなかったのは、森からの奇襲攻撃をさとられないようにするため。真夜中の攻防戦こうぼうせんは、注意をらすための敵の作戦だ。きっとその最中に、川から跳ね橋まで外壁がいへき沿いに回り込んで、一撃で橋が下りるよう何か細工さいくをしていた。その侵入者を許していたとは。そうでなければ、戦闘中に容易たやすく壊せるようなものではない。 


 そう合点がてんがいったアルヴェンは、警戒をおこたった・・・と認めて、やんだ。


 なんてことだ。跳ね橋を上げていられることで、正門側からの襲撃は警戒の範囲外だった。ここイスタリア城は、二つの滝に挟まれて建っている難攻不落なんこうふらく城塞じょうさい。油断していた・・・というより、そこまで視野に入れられる余裕がなかった。しかし森には何度も偵察ていさつに行った。いったい、どこにどうやって隠れていた。


 とにかく、そんな愚痴ぐちは言ってられない。今、正門からも敵がなだれ込んでくれば、いっきにたたみかけられる。


「隊長はどこだ?」


 部隊をまとめてくれる指揮官の姿が、近くにはどこにも見当たらない。


「クリフ隊長がただちに隊を編成へんせいして、門の守りにつけさせています。」


「よし、ほかにも向かえる者たちをすぐに正門へ。バリケード用のやりは出てるか。」


「はい、大手門(正門)の武器庫よりすぐに。」


 このような不意の事態にも対応できるよう、常に準備だけは整えている。


「川へ! 正門を守れ!」 


 なおも戦いながら、アルヴェンはそう声を張り上げて敵のあいだを駆け抜けた。


「橋が下ろされた! 正門へ!」


 そうして、大急ぎでそこへ駆けつけたアルヴェンが見たものは、確かに、石橋のたもとにむらがるバラロワ王国の軍勢。隊形を組んでもう橋を渡り始めている。敵も槍隊やりたいのバリケードを予測していたらしく、馬で突っ込むのを避け、先頭集団はみな、大きなたて防御ぼうぎょしながら向かってくる。


「敵のたてくだけ!」

 アルヴェンはいさましく叫んだ。


 しかし実際、急遽きゅうきょ築いた防壁は、何とも薄く頼りないものだ。迎撃部隊の兵がまったく足りていない! 胸壁ややぐらに上がった弓兵もわずか。これでは踏み倒される。


 しかし考えていられる余裕などない。とにかくここは真っこう勝負しかない。強気でむかえ撃つ! 苦い顔をしながらも、アルヴェンはそう気を引き締め、敵に向き直った。


 その時 ―― 。


 川沿いに紺色こんいろの軍服を着た騎兵きへいの一団が現れた。馬を飛ばしてやってくる。


 味方みかただ!








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