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真夜中の攻防戦


 城壁じょうへきとうから見る限りは、城の周囲の暗い森に敵の姿はない。関所をやぶった部隊は、裏の岩山か周りの森のどこかにもう潜伏せんぷくしているはずだが、何の動きも確認できないまま数日が過ぎた。


 城にいたただの召使いや奥方は、事前に他市へ避難していた。今やイスタリア城には、戦闘員と軍医、それに保護されたラルティスしかいない。


 兵士たちはみな、いつでもその瞬間に戦いにのぞめるよう、常に装備している。アルヴェンも武装してそこにいた。ラルティスが休んでいる塔の部屋の、ベッドのそばに置いた椅子に腰掛けている。


「こちらの準備は。」

 ラルティスが心配してきいた。


 一方、ベッドに横になっているラルティスは何の防具も身に着けていない。肋骨ろっこつや肩のあたりを傷つけられて巻いてある包帯はまだ取れず、満足に戦える体ではなかった。ラルティスには、敵が踏み込んできたその時は殺されようと、覚悟ができていた。ただ、おとなしくやられるだけのつもりはないので、ヘッドボードには愛用の剣が立て掛けられている。


「カルヴァン城からの部隊がまだ・・・。話に聞いていたリステナン城の使いとは、大街道上で上手く出会えたようですが。その使者は今、この城にいます。彼が持ってきた知らせによると、エドラス総司令官は、待ち伏せ襲撃を回避かいひするため、森の道から迂回うかいする決断をくだしたそうです。」


 二人は苦い表情で少し黙った。


 敵はいつ攻撃してくるのか。その気になれば、もういつでもしかけられる戦闘準備はできているだろう。何を待って、引き伸ばしているのか。まださらに兵力を呼び寄せているのだろうか。少しでも長引かせてくれるのはありがたいが、相手の力が増幅ぞうふくするのはいいとは言えない。


 間に合うか・・・。


「カルヴァン城の援軍が回避策をとったことに、まだ気づいていないのかもしれない。奇襲きしゅうの結果報告をただ待っているだけ・・・ということもありうる。」

 はげますようにラルティスが言った。ほとんど気休めだったが、緊張が絶えないのは精神だけでなく、体をも無駄むだに疲れさせる。


 アルヴェンは気弱な笑みでこたえた。

「ラルティス騎士、お体の具合は。」


「おかげで、きっと少しは戦えるようになった。かなり気合いがいるが。」


 そこで二人は、ドアの向こうに急ぎ足な気配を感じとった。そうかと思うと、ノックの音よりも先に声が聞こえた。


「アルヴェン様!」


 ドアはいきなり開かれ、すっかり興奮こうふんしている兵士が、息を乱してひざまずいた。


 見張りの兵士が、山脈側に敵の軍勢を確認。あわてて報告しにやってきたのだ。


 それを聞いたラルティスは、とたんに険しい顔をした。またが悪すぎる。状況は関所の戦いと同じだ。


 アルヴェンも同じ思いでラルティスの目を見た。


「やるしかありません。あなたはここにいてください。護衛を呼びます。」


「必要ない。せめて自分の身は自分で守る。」

 ラルティスは手を伸ばし、愛用の剣をつかんでみせた。


 アルヴェンは部屋を出て、今いる塔を天辺てっぺんまで駆け上がった。


 えわたる深夜の空には美しく輝く星々がはっきりと見られるが、山道の方は風に流されている炎の白煙はくえんけむっている。


 イスタリア城裏の岩山に足並みをそろえてくる敵の軍勢と、それらが手にしている数えきれない松明たいまつの灯りが山道沿いに並んでいるのである。アルヴェンがそのことを確認した時には、イスタリア城でも迎撃げいげき準備が整っていた。裏の門扉もんぴ付近や城壁にはすでに兵士たちがズラリとそろい、しっかりと守備についている。山脈側に全部隊が配備されていた。


 ついに始まる、攻撃が・・・!


 アルヴェンも指揮官の一人、ただちに戦いへ向かった。


 横一列に敵の大きな弓がザっと構えられ、角笛が鳴り響いた直後、岩山から無数の矢が放たれた。たちまち、飛び道具によるすさまじい応酬おうしゅうとなった。それによって、胸壁きょうへきにいる兵士の何人かはたれて死んだ。


 一方、城門にたどり着いたまた別の部隊は、強固に閉ざされている扉を強引ごういんに突破しようとしている。


 長い歴史をもつこの城塞じょうさいの門は木製だ。分厚ぶあつ頑丈がんじょうに造られてはいても、おおかた木でできている。そこに、破城槌はじょうついが何度も打ち込まれた。轟音ごうおんがとどろき、大きな木片が飛び散った。破壊されてできた穴から、敵がぞくぞくと侵入してきた。門の近くで接近戦が繰り広げられ、どちらの国の戦闘員も次々と倒れた。


 窓から身を乗り出して、わっと響いてくる戦いの騒音そうおんを聞いているラルティスは、祈りが届くよう強く願い続けた。どうか間に合ってくれ、レイサー・・・! と、弟の名をつぶやきながら。


 アルヴェン騎士は胸壁にいて弓兵を鼓舞こぶし、いそがしく指揮をっている。城主エオリアス騎士は、なんと門扉もんぴのところにいて敵と戦っていた。


 その中で、エオリアスと息子のアルヴェンは、同じ言葉を繰り返し叫んで味方みかたはげまし続けた。

「この夜を生き抜けば、東からの援軍がきっと来る。今はえろ! そして、ただ城を守れ!」


 そうして、真夜中の攻防戦こうぼうせんは明け方まで続いた。








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