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光の精霊のもとに ― 外の世界へ



 今は人数も多く、何の自然の光も射し込まない危険な場所であるため、アディロンの森でやったような、全くあかり無しで進む方法をとることはできない。


 ラキアは胸の前に両手を持ってきて、いんを結んだ。そうしながら、十代の澄んだ声で呪文を唱える。小さな声だったが、安定して伸びやかに響き渡った。


 すると。


 ポッ・・・ポッ・・・


 どこからともなく、いくつもの小さな光の玉が現れた。ラキアがほかの者には何やら謎の言葉をさらに口にすると、それらは隊列の後ろへと飛んでいった。適当な間隔かんかくを置いて、兵士たちの頭上から道を照らす。


 これで進めるようになった。


 エドラス騎士やレイサーが息を殺して用心してみれば、何も起こらない。不気味な気配は感じられない。よし、大丈夫なようだ。


 その灯りのもと中をよく見てみると、少し崩れた幅の広い岩の階段が、下へ向かってのびていた。足場に気をつけて、慎重しんちょうに下りていく。と、そこに、神秘の灯りの中では白く輝く鍾乳石しょうにゅうせきが、そこかしこから垂れ下がっている幻想的な世界が広がった。思わず恐ろしさを忘れて、うっとりと見惚みとれてしまう光景だ。眠っているのは魔物ではなく神ではなかろうかと、アベルはそんなふうにも考えた。


 アベルは、まだ少しおびえるラキアに頭を寄せ、耳元でそっとはげましながら、ぴったり寄り添って歩いた。


 時々、不気味に耳をすり抜ける声のようなものが聞こえた。洞窟の造りによって、自然にたつ音なのだとしても、おかげで緊張が耐えない時間が続いた。


 いびつな谷が通っていて、底には地下水が溜まっている。その谷沿いに、人が三、四人横に並んで歩けるほどの道があった。アベルは狭いとは感じなかったが、背の高い馬たちは怖がっているようだ。おびえた いななきを上げられるたびドキッとした。


 道は時々分かれたが、案内人が先導してくれる進路は、西へ北へと曲がりながら伸びているようだった。


 後ろに続いている兵士たちは一言もしゃべらず、黙々とついてくる。長い時間、そんな調子で歩き続けた。


 ある時、昔の人が置いたらしい、小さなほこらを通りかかった。


 ラキアを休ませるために、そこで少し休憩をとることになった。光がいったん去ると、一瞬にして真っ暗闇に包まれた。目が慣れてくると、そばにあるものなら少しはぼんやり見えるようになったが、この暗がりの中、もし本当に魔物がいて目覚めたら・・・と思うと、正直、精神的には全く休めたものではなかった。


 アベルは、せめてラキアは、少しでも疲れがとれるように安心させてあげたいと思い、そのあいだ両腕を回して体を包み込んであげた。ラキアは素直にされるままで、震えもせず落ち着けているようだった。アベルはほっとしながら頭をなでてやり、「きっと、あと少しだから。」と、優しい声をかけた。


 アベルの腕の中で、ラキアは小さくうなずいた。


 しかし周りからは息苦しそうな呼吸が聞こえる。休憩中にも、みな緊張している。そんな中で、馬たちがひづめで地面を打つ音や、鼻を鳴らす音があがる。あばれださないよう、それを懸命になだめる持ち主たちの動きが、暗闇で感じられる。


 やがて、アベルとラキアのそばからレイサーのややさき声がかけられ、再び出発した。それを隊列の前の方から兵士たちが立ちあがることで、静かに後ろへ伝えた。


 そのうち道は登り坂になった。最初の勾配こうばいはゆるかったが、ある所で少しきつくなり、そこから緩急かんきゅうを繰り返した。この恐らく二、三十分は、やや急な状態が続いている。地上に近づいている・・・と、アベルは感じた。


 それで顔を上げていると、なにかとどろく音が聞こえて、前方に白いものが見えた。ラキアが召喚しょうかんした精霊たちよりも明るい。


 光だ!

 外の、自然の光!


 しかし、強烈きょうれつに目にしみるような陽光ではなかった。ベールを通して見ている感じ。


 たきだ。なんと出口は、下へ向かって流れ落ちる大量の水でふさがれていた。ここは、滝の裏側だ。


 出るには滝に打たれろというのか? と、レイサーは考えた。本音を言えばいい気はしないが仕方ない。


 すると、滝のすぐ手前から横に伸びている道があるのに気づいた。


 やはり、案内人はその通路に入っていった。岩壁いわかべに挟まれているなだらかな下り坂だ。外からは見えないだろう。そして、そこを下りきったところは、密に生えているモミなどの樹木と、好きなように育った植物で荒れているように見える場所だった。振り返れば、山脈から駆け下る滝と、そのふもとに川があるのは分かるが、やはり洞窟は上手く隠れている。しかし、今おりてきたこの坂道は、そばまで来れば見つけられる。それについてはどうなのかとレイサーが疑問に思っていると、人を寄せ付けない理由が間もなく分かった。


 張り巡らされた高いフェンスと、鉄の門にたどり着いたのである。


 この場所を所有している者がいる。

門には何かのつるがびっしりとへばり付き、下藪したやぶから伸びてきた小枝がからまっている。


 驚いたことには、この門のかぎを案内人は持っていた。


 そして、その指導者の男性がこう言った。

「ここはイスタリア城主の所有地。洞窟の存在を分からなくするために、わざと野生のままにしているそうです。」


 レイサーは推測した。名無しの村とイスタリア城とは、恐らく、戦争の時代それ以前から関係がある。魔物が眠るという洞窟の存在によって。


 とにかく、カルヴァン城の兵士たち、それに本来は従順な軍馬もみな、無事に外の世界へ戻ってくることができた。魔物がひそんでいるとして、誰も食われることなく。


 成功だ。


 それを実感して、指揮官たちは安堵あんどの表情を見合った。中には、こめかみに冷や汗がにじんだままの者もいる。アベルはリマールと笑顔を交わしたあと、何よりラキアをたくさんめてあげた。もちろん、頭を何度もなでてやりながら。


 エドラス騎士が地図を広げた。そして、現在位置と、イスタリア城までのルートを確認する。それについて、村人たちはさらに助言してくれた。


「本当に、ありがとうございました。」

 心をこめてエドラス騎士は感謝をのべ、深く頭を下げた。


 ほぼ同時に、レイサーもそれにならった。


 アベルやリマール、それに、全ての兵士が続いて同じ姿勢をとった。


「イスタリア城は、私たちにとっても貴重な存在。恩がある尊い場所。あなた方に協力できて良かった。神のご加護かごがありますよう。」

 指導者の男性が、今は笑顔でその言葉をおくった。


 こうして、役目を果たした名無しの村の案内人たちは、カルヴァン城の兵士たちに見送られて、鍾乳洞しょうにゅうどうの地下道ではなく、外の森の道を帰って行った。









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