表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/67

秘密の道に必要なもの ― 恩人と少年



「わしは、お前さんの父親と育ての親、つまり先代の王とヘルメスと、ここで出会った。」


 アベルは胸をつかれて口を開けたが、衝撃しょうげきで声が出なかった。


「その頃は、もっと敵が多かった。時には、その襲撃は見境みさかいなく行われた。昔はこの辺りにも居住区がいつくかあったが、大きな城よりも、まずそれらがねらわれた。この村も標的ひょうてきになった。しかし、わしらは避難ひなんせんかった。伝統を重んずる民族だ。村と共に滅びる、そう思ってな。ところが、ある日、なんと王太子おうたいしが自ら部隊を率いてやってきた。そして彼は、この村を守ってくれるという。それが先代のラトゥータス王だ。さすがに王太子の言葉はこばめんかった。それでわしらは、村を彼にあずけて逃げることにした。しかし、森にはもはや安全な道などない。ただ、人間の敵だけを考えるなら、一つ無いこともなかった。鍾乳洞しょうにゅうどうの地下道だ。そこを行けば、数時間でイスタリア城の裏山、山脈のふもとに出られる。城へは、そこから歩いて二日でたどり着く。」


「すごい・・・そうなら、まる一日短縮(たんしゅく)できる。どうして教えてくれなかったんですか。」


「今、わしが、人間の敵だけを考えるならと言った意味が、気にならんか。」


「あ・・・気になります。」


 アベルは恥じるように肩をすくめた。人の話を聞いているようで聞いていない。


 だが長老は穏やかにほほ笑み、それからつらそうなため息をついて言った。


「さっき、あの若い隊長にも言ったが、無理なんじゃあ。」


「どうして・・・。」


 アベルはもう一度、長老の様子をうかがいながら、だが話をかすようにきいた。


 長老は、食い入るような目を向けてくる少年兵士の顔を見た。だがためらい、視線を外して目を伏せた。そうして、アベルがただ返事を待っているあいだ、また葛藤かっとうした。しかし、もうここで話は終われない、彼 一一 殿下には話すべきだ。


 長老は再びアベルの方を向くと、やっと言った。


「そこは、魔物が眠る道だからだ。」


 老人と少年は、無言で見つめ合った。


 魔物が眠るだって・・・?


 さすがに、しばらく絶句ぜっくした。だがアベルは、それで済まされてはならないという思いに背中をたたかれ、あわてて話を続けた。何か方法があるはずだ。


「でも・・・その道を行ったんでしょう?」


「行ける準備があった。それも、王太子が用意してくれた。その道を知る賢者けんじゃと、精霊使いだ。賢者というのは、つまり、そう、お前さんの育ての親ヘルメスだ。」


 長老の口調は、実際とても高齢でだいたいは年相応としそうおうの話し方だったが、時々、まだ若々しい中年男性のようにもなった。


「洞窟は暗い。だが、普通の松明たいまつやランタンは持ちこめん。そこにひそむ古代の魔物を目覚めさせると言われている。許されるのは、神秘なるともしびだけ。」


「神秘なる・・・。」


「精霊じゃあ。まあ、聞きなさい。」


 長老は軽く片手をあげ、アベルに口を挟ませずに、続ける。


「わしらもその道の存在は知っていたが、ただ恐れるものでしかなかった。ヘルメスはそもそも王室の侍医だった。そして精霊使いは、ヘルメスの知り合いだ。王太子は彼ら二人の案内のもと、その道を進めという。わしらは半ば仕方なく従った。そして無事に地下道を抜けると、イスタリア城の兵士が待っていた。そうして、わしらはしばらく、イスタリア城でかくまってもらえることになった。やがて村へ帰れるようになり、わしらは戻った。すると、戦いのあとは見られるものの、村は見事に破壊はかいまぬかれていた。そして、王太子が残した部隊が出迎えてくれた。その後も、王太子はたまに会いにきてくれた。その時、ヘルメスもお供としてそばにいた。わしらは親しくなり、たくさん話をした。イルマ山で育ったヘルメスは、もっと歳を取ったら山へ帰ると言っていた。そうして数年後、ヘルメスは王都での務めを終えて山へ帰った。王太子の方は、やがて王となっても時々、村のことを気にして様子を見に来てくれた。その時、彼がこんなことを口にしたことがある。ヘルメスにあずけた息子の成長した姿が見たいと。」


 もう会えない父親の愛情だけ、漠然ばくぜんとしていた。アベルは目頭めがしらが熱くなり、まばたきをして涙を乾かした。


 それから、実は話の途中から気になっていたことをきいてみた。


「あの、その精霊使いって、もしかしてコラルって人ですか。」と。


「ヘルメスから聞いていたか。」


「というより・・・その人の孫娘が、今、一緒にいますけど。」


 長老と少年は、また顔を見合わせた。長老の方は、面白いほど目を真ん丸にしている。


「あの娘っ子は、ただの飯炊めしたき娘ではないのか。」


「違います。どちらかというと、僕たちの方がお世話してるくらいで。彼女も精霊使いですよ。」


 長老は、まだ驚きからめないまま首を揺らした。


「これは運命か。わしは、お前さんが関わる全てに恩義おんぎがある。これ以上(こば)めば、天から恩知らずと言われそうじゃあ。」  


「はい、行ける準備ありましたね! 道は知ってるでしょう?」


 アベルは笑顔で、喜んで言った。有無を言わせぬ表情と声だ。


 かなわん・・・長老は苦笑した。

「では、(目つきも勘も)鋭いあの隊長と、もう一度話をしてこよう。」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ