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回り道 ― 森の奥地で


 王国を横断おうだんしている大街道からフェルドーランの森へと道を曲がり、そのまま奥へ奥へと南へ向かえば、道はやがていくつかの方向へ分岐ぶんきする。最初の南へ延びる道は次第に幅を狭めて、やがてだだっ広い荒野こうやに行き着く。そこに分かり辛い国境が引かれている。昔は、そこからもよく敵が攻めてきたという。


 リステナン城の使者と会ったあとすぐ、半日をついやしてその森街道もりかいどうを南へ向かった一行は、じゅうぶんな回り道をすると、改めて進路を西へとった。そして、睡眠や休憩時間をけずりに削って、かれたように先を急いだ。


 そんな日々を続けるうちに、どんどん無口になっていく隊員たち。疲労がピークに達しているのが、ありありと分かる。こんな調子では戦いに間に合ったとしても、結局、力不足だ。


 早朝、そう思いわずらっているレイサーの胸の前には、目覚めの悪いラキアがいて、後ろから支えているレイサーにもたれながら眠り続けていた。つまり、また馬の背中で。以前、一緒に旅をした時にもあったことなので、ラキアはこれをもう遠慮なしにやる。おかげでレイサーは思考がれた。その顔が、「置いてくればよかったか。世話のやける。」というものになる。


 このラキアの面倒は、基本的にはレイサーがみた。リマールもまた見習いであるとはいえ、軍医という肩書きによってレイサーのそばを居場所にしている。ほかの隊員と同じ兵士であるアベルだけが、時と場合によってレイサーのそばについたり、ほかの隊員に混じって行動したりした。それは、レイサーがいちいち指示をする。だいたいは、移動中はそばを歩かせ、食事や眠る時はほかの者たちと同じようにさせた。


 午後、指揮官たちは気がくのをこらえて、疲れた体に鞭打むちうちながら歩く隊員たちの様子に、ときどき目をやって進んだ。騎兵や指揮官たち自身も、手綱を引いて歩いていた。


 いちおう地図に載っている道の上にいるものの、それはとても分かり辛くて荒れた道だった。落ち葉や下生えの雑草に隠れて、たびたび切れては現れた。目の届く限り大きくそびえ立つ木ばかりという様相がずっと続いている。人が住んでいる感じは全くしない。もっとも地図上でもそうだった。指揮官たちはみな、特徴となるものに出会う度にその地図を確認して、道に迷わないよう慎重になった。


 考え事をしながら歩いていたレイサーは、ふと、アベルが接近して来るのに気づいた。


 レイサーの斜め後ろまで近寄ったアベルは、レイサーにだけ聞こえる小声でささやきかける。

「村があるみたいです。」


 わきを見下ろすようにして、レイサーは少し首を向ける。

「気配が?」


「はい。人の集団と、家畜かちくの。遠くないと思います。」


 そう教えるアベルの声は、いつものようにしっかりしている。そして、外れたことがない。レイサーは即行そっこうで、そこへ行きたい! と思った。


 村があるとして、その村人は、もっと効率よく進める方法や道を知っているかもしれない。それに、そこで一泊させてもらえれば、きっと心身ともに回復できる。夜になれば、鱗模様うろこもようのモミのみきや木の枝が、不気味な黒い影に変わる。それは毎夜、敵意てきいさえ向けられているかのような気分にさせられた。そんなものを見ているより、だんぜん精神は安らかでいられるだろう。心配された物資や食料不足の悩みも解消されるかもしれない。


 兵士たちに道を空けてもらいながら、レイサーはアベルを連れて総司令官のもとへ向かった。


 その動きに気づいて、行進が止まった。


 二人が最前列の前へ出る途中、レイサーは、ほかの隊長にも次々と声をかけた。


 そして、総司令官の周りに全部隊長が集まった。


 指揮官たちは相談をした。


 アベルの素性は内緒にしていたが、その特殊能力については、指揮官はみなすでに聞いていた。そして不思議に思いながらも、中には聞いたことがあるという者もいて、全員が信じた。


 ただこの時は、アベルの言葉を受け入れるのに、レイサー以外の指揮官には抵抗があった。その言葉にある、遠くないと言える場所のどこにも、地図上では村など存在しないからだ。今では、この森の居住区きょじゅうくはもう、大街道からそう離れてはいない位置にかたよっている。


 それで、指揮官の一人がその不安を口にした。

「しかし・・・地図には載っていない。」


「だが、きっとある。」と、レイサー。

 それについては、アベルに絶対の信頼をおいている。


 そして相談の結果、進路に支障ししょうをきたすと思われるところまでは、そこを目指してみることになった。よってアベルは、レイサーとともに、長い隊列の先頭に立った。









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