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妨害される進路



 男は馬から飛び降りると、すぐにその外衣を開いて、隠れていた服装を見せた。


 ウィンダー王国を象徴しょうちょうするこんに、リステナン城の兵士を表す緑色の線や紋章もんしょうが入った軍服を着ている。ちなみに、王城は金、イスタリア城は白、カルヴァン城は赤である。


 彼は、関所の戦いに加わるリステナン城の援軍にいたはずの男だ。


 つまり、使者。


 全身をすっぽりと包み込める外套がいとうで、その使者は軍服を隠しながらやってきた。ひどく疲れた様子で、乱れた息をしている。これ以上ないほど急いで来たらしい。真っ直ぐ立ってはいるが、表情がぐったりしている。そこでエドラス騎士は水を飲むようにすすめた。使者は素直にしたがった。


 この間に角笛の音で呼ばれたレイサーは、アベルやリマールのそばを離れ、列の横を駈歩かけあしで馬を走らせて前へ出た。


 指揮官が全員目の前にそろうと、リステナン城の軍服を着た使者は敬礼をした。


「報告します。我らの部隊は、大街道手前の山中で敵の待ちせ襲撃にい、そこで多くの負傷者、それに戦死者を出す事態に。」


 これを聞いた指揮官たちは、驚いてやや動揺どうようし、互いに顔を見合った。


 レイサーだけは、アベルがいるあたりを反射的に見た。


 先ほどのアベルの言葉を思い出してみると、この先の、街道の近くにいるという敵の軍勢、それは・・・もしや、我々を待ち構えている敵の部隊ではないか? イスタリア城を攻める前に、その下準備として、相手の戦力を奇襲きしゅうにより減らしておく任務にんむを負った者たちでは。関所へ向かうリステナン城の兵士たちが、突然、襲われたのと同じように。


 つまり、この話の続きは・・・。


 レイサーは、恐る恐る問いかけた。

「関所の戦いは・・・。」と。


 すると使者は、うつむいて首を振った。


「分かりません。自分は、その本来の戦闘が始まる前に、ここへ送られて来ました。イスタリア城の戦いへ向かう援軍が、我らと同じ罠にかからぬように。ただ、襲撃のあと、動ける者たちはそのまま関所を目指しましたが、すでに戦力は激減。新たな応援が間に合ったかどうか・・・。」


 同様に関所へ向かった南の国境警備隊は、例の呪われた森でのだまし討ちのせいで、戦力が期待できるほどそろってはいなかった。リステナン城の援軍をたよりにしていたというのに。


「回り道をしていたら、どっちにしろ間に合わない。」

 隊長の一人が苦渋くじゅうの面持ちで言った。


 きっとその通りだ、と誰もが思った。ラルティス総司令官が持ち込んだ情報から、決戦の日を予想した。その最も近い日に間に合わなくなる。


 常時、不備がないよう点検はしっかり行っているが、それでも軍馬の健康状態を確認し、武器や防具を万全に整える直前の用意に、数日に及ぶ徹宵てっしょうの作業が必要だった。大急ぎで出てきて、ギリギリだったのだ。


 エドラス騎士は、うなり声でも聞こえてきそうな顔で思案しだした。レイサーも黙って考えをめぐらせた。ほかの指揮官は、声をおさえて口々に意見を述べた。それを聞きながら、エドラス騎士はそうとう悩んで、決断をくだすのに時間がかかった。 


 レイサーたちほかの指揮官はみな、それぞれ意見を出し尽くして静かに注目している。


 そしてついに、エドラス騎士が大きく息を吐き出して、言った。

「待ち伏せ襲撃に遭うよりマシだと思って、ほとんど休み無しで進むしかないだろうな。場合によっては、騎兵隊だけでも先に行かせよう。あえてその奇襲に対抗して傷を負い、戦力そのものと体力の両方を減らすよりはいいだろう。」


 レイサーもその考えに賛成だ。同じく、誰も異議を唱える者はいない。


 不意打ちとはいえ、リステナン城の軍勢が大打撃を受けた。そこからの使者は、自分たちが同じ罠にかからないようにと警告しに、わざわざやってきてくれたのだ。他国にいながら、思うように先手を打てるまでに戦闘準備を進めていた敵は、ここウィンダー王国について予想以上に把握あはくしている。


 リステナン城の使者は、今度はこちらからの使いとして、イスタリア城へ先に行くことになった。また上手く姿を隠せば一人では襲われないだろうし、自分の軍がどうなったのか、もう起こったはずの関所での戦いの情報も聞けるだろう。


 一方、予定よりも早く森の道を行くことを決めたカルヴァン城の部隊は、その森へと続く最初の分かれ道で進路を変えた。入口はもう目の前にあり、長い隊列の最後尾まで、すぐに森の中に収まった。


 そうして、一行が隠れるように大街道から姿を消したあと、雨脚あまあし激しい雨がザーッとふりだした。

 







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