戦場へ
カルヴァン城からの援軍は、いくつかの騎兵隊や歩兵隊で編成された。よって、指揮官が何人もいる。その中には、二十歳前後の若者を多く擁する部隊の隊長であるレイサーもいた。レイサー自身も指揮官の中では最も若いが、時には、むしろほかの指揮官からも頼られる存在だった。というのも、レイサーはもともと騎士にもなれた人間。その素性は先代城主の息子であり、その跡を継いだルファイアス騎士の弟であるから。叙任を受ける前に、正気とは思えない行動 ―― 騎士になるのを辞退 ―― に出たものの、指揮官に必要な能力はすでに備わっており、周りも認めていた。
今、カルヴァン城の兵士たちは、大街道を、フェルドーランの森と平行して西へ進んでいる。その広大な森は、大街道に沿うようにして広がっている。もう片側は、おおかた低い丘と草原で視界がいっぱいになる丘陵地帯だ。草原には牧場があり、谷間からは家々の屋根が見え隠れに姿を現した。
この日の天気は、朝からずっと曇りだった。今はさらに薄暗くなり、雨の前触れだろうか、風がよく吹いた。それで、アベルが意識を集中して耳を澄ましてみれば、それは時々、何かを教えてくれた。
若い隊員が多いレイサーの部隊は、隊列の後ろの方にいる。本当はまだ見習いなのに、レイサーがスカウトした形になっているアベルと、見習い軍医のリマール、それに、ほかの多くの者から見れば謎の少女ラキアも、同じく騎乗してレイサーのすぐそばにいる。ラキアはまたレイサーに乗せてもらい、アベルとリマールはそれぞれ手綱をつかんでいた。
ところで、軍医見習いのリマールと、何かと便利なはずの精霊使いラキアの二人は、戦闘には加わらないため、直前の野営地で待機することになっている。
空模様を気にして、上空を仰いだアベル。そこへ、一陣の風が吹き過ぎた。そうかと思うと、強風は続いて吹きすさび、森の木々が落ち着きなくざわざわと音をたてる。
このあいだ、アベルは風の声を聞いていた。そして、急に怖くなった。
「風が騒いでいます・・・。」
アベルは、馬の頭一つ分前にいて、隣で馬を歩かせているレイサーに言った。
それを聞き取って、レイサーが肩越しに振り向く。
アベルは、その目を見て言葉を続けた。
「森に、大勢の人が来てるって・・・。」
レイサーは鋭い目つきと険しい顔になり、言った。
「つまり、敵の軍勢。」
「はい、たぶん。」
「どのあたりか分かるか。」
「・・・この先の・・・街道の近く。それに、山道にも。」
レイサーは、アベルの言葉を頭の中で整理しながら考えた。
「森の中の山道・・・イスタリア城裏の山脈の道か。」
「そっか、そうなる。」
「イスタリア城は、跳ね橋を上げていれば、川に阻まれる正門側からの侵入は不可能だ。奴らがとるべき道としては当然だな。」
しかし、山脈の道に入るには早すぎる。密かに峠を越えられる道を見つけていたのか。ならば、大勢といっても大軍ではないだろう。恐らく、ずっと以前から潜伏していた特殊部隊だ。どこかで合流するつもりだろう。そうして敵は、きっと各地から潜伏させていた部隊を集結してやってくる。
そう話していると、突然、先頭をいく総司令官、エドラス騎士が行進を止めた。
見通しのよいこの街道を、西から急いで馬を走らせてくる者がいる。みるみる近づいてくる。直感で、エドラス騎士はその人物を調べる必要があると感じたようだ。
すると、こちらが何もしないうちから相手は徐々に速度を落とし、手前で騎手が手綱を引いて馬を立ち止らせた。
乗っているのは、全身を鼠色の外套ですっぽりと覆った男だ。




