敗北
馬から引きずり降ろされたラルティスは、前から横からつかみかかってくる多くの手に逆らった。逆らっていたつもりだった。とても強い力に支配され、身動きできず、もがいて、もがいて、現実にかえった。そしてとにかく、真っ先に唖然となった。
若者に両肩をつかまれ、ベッドに押さえつけられている。
状況を理解するのに、少しかかった。歴史を感じる古いランプが一つ、石の壁と細い柱に囲まれた部屋の中を照らしている。
ふと気づくと、自分の方は、知らないうちに胸のあたりを鷲づかんでいた。眠りながら呻き声をあげて暴れていたのだろうか。体がひどく汗ばんでいる。
ラルティスはのろのろと腕を上げて、額をぬぐった。それから、近々と自分の上にいるその若者を見た。若者は心配そうな・・・というより、困って疲れたような目をしている。
「アルヴェン騎士・・・。」と、ラルティスは落ち着いてつぶやいた。
「そのままで。」と、アルヴェン。「大きな傷を負っています。医師が処置をしましたが、動けば傷口が開いてしまう。」
アルヴェンは微笑して、ラルティスの肩から手を放した。そして、自分のすぐ後ろにある椅子に座った。
「手を焼かせて、すまない。それに、世話になって。」と、先に察したラルティスは、恥ずかしそうに謝った。
「何も・・・。よく眠れない日が続いたのでは? 体もそうですが、あなたの精神面が心配です。」
ラルティスは、傷が開かないように見張ってくれていた若い騎士の顔を、覗き込むようにしてうかがった。自分は何かうわごとまで言っただろうか。何を口走ったにしろ、憎悪と悲しみに満ちた、ひどい文句だったに違いない。
「今はいつの何時だ・・・。」
そうきかれて、アルヴェンは時間を確認すると日時を伝えた。日は変わっていて、今は真夜中だ。
それから、自分の今の状態や、状況の経緯を簡単に説明されたラルティスは、そのあいだ物憂げに天井を見ていたが、急に目を閉じて眉間に皺を寄せた。
「すまない、止められなかった・・・。」
苦い口調でそう報告したラルティスはため息をついて目を開け、またアルヴェンの方へ首を向けた。
「リステナン城からの援軍は、道中で待ち伏せ襲撃に遭い、勝利したもののその戦力は激減。さらに関守のマルクス殿が、ある日突然、行方不明になった。」
関守のマルクスは、優れた軍師という過去をもつ。
ラルティスは詳しい話を続けた。
「どうしたのかとその帰りを待ったが、やがて暗殺されたのだと分かり、そこへ敵が攻めてきた。数の上でも圧倒的不利なまま、戦闘が始まった。衛兵長のイシルド殿は、この戦いで亡くなった。敵の生き残った部隊は東から来る軍勢と合流して、このイスタリア城を占拠するつもりだ。朝には、ここまで進軍してくるだろう。襲撃をしかけるまでにまた力を蓄え、準備をするだろうから、それらがいつ動き出すかは分からないが。それより、気になるのは・・・。」
「カルヴァン城の部隊も危ない。」
すぐに察したアルヴェンが、少し声を震わせて言った。親友・・・レイサー・・・のことが気にかかった。
ラルティスはうなずいた。
「ヴィンスロット城の援軍は。」
「大丈夫、すでに到着しています。」
「そうか。上手く出会えたか分からないが、戦いの前に知らせに向かった者がいる。それに、関所での戦いには間に合わなかったが、応援を呼びに戻った者もいると聞いた。関所が落ちたと知ったら、そのままここへ来てくれるだろう。ただ、敵に占拠された大橋は渡れないため、時間がかかるだろうが。」
報告を聞き終えたアルヴェンは、父エオリアス騎士に伝えると言って、ひと言 気遣ってから立ち上がった。
一人きりになったラルティスは、また呆然と天井を眺めた。
間もなく、看病をしに再び誰かが来てくれるだろうが、すぐに眠る気はしなかった。恐怖すら覚えた。しかし、自分は丸一日ここで眠っていたようなものなので、もうこのまま起きていられるだろう。
今もし眠ってしまうとしたら、きっと、またあの悪夢をみる・・・。




