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迎撃準備



 アベルとリマールは、この関所せきしょで、アスティンのほかにもう一人(なつ)かしい人と会った。衛兵長のイシルドだ。あのイルマ山から王都までの過酷かこくな旅の中でここへ来た時、彼はいろいろと宿泊の世話をしてくれたり、イスタリア城まで送ってくれた。


 しかし、以前のように愛想よく接してくれたイシルドだったが、その笑顔には気苦労きぐろうと疲れが感じられた。今、関所の衛兵えいへいたちは、間もなく始まろうとしている戦争に備えた訓練をしている。彼は、二度とそうならないで欲しいと祈っていただろうに。


 それから一行は、アスティンと一緒にここに残っていたコラルとも会った。その時、アベルもリマールも、やっと会えたという気がした。そもそもこのご老人とは、ヘルメスの指示によって、あの旅の中ですでに出会えていたはずだった。だが留守だったのだ。今は、それを幸運だったと二人は思う。だって、孫のラキアと、可愛らしくて楽しい彼女と知り合えて一緒に旅ができたのは、そのおかげだから。


 そして夜には、そのコラルに呼ばれて、関守せきもりマルクスが用意してくれた応接室に集合した。この広い館内には応接室のほかにも、会議室なども多く何種類も用意がある。人数やその顔ぶれ、また議題によってただちに適切な場所を提供できるようにするためだ。


 一行が通されたのは、十二人以下に対応した、中でも小さな応接室だった。真ん中に置いてある四角いテーブルを、三人掛けのソファーが取り囲む。部屋のすみに本棚とキャビネットが隣合わせに並んでいるが、接客の場らしく、夕映えの大河の絵や観葉植物で飾られている。


 本格的な会議で話し合う前に、一行は、関守マルクスから迎撃げいげき準備についての考えを聞いていた。要は、敵に狙われている西のこの大街道だいかいどうの関所と、橋を越えた東側にある、同じく標的ひょうてきとなっているイスタリア城に、どこからどれだけの援軍を送り込むかということだった。


「レイサーの部隊も行くんでしょう?」

 まだ何かほかにも言いたいことがありそうな顔で、アベルがきいた。


 カルヴァン城から兵を出すことは、ほぼ確定している。戦地までの距離や軍事力からみて妥当だとうで、その城主ルファイアスがもうここにいるのだ。しかもカルヴァン城の兵士は、代々その指導者が素晴らしく、かなり心強い存在である。つまり、レイサーたち兄弟の父ラドルフも、当然、名騎士だ。息子たちと同じように、武勇に優れているとして有名だった。


「ああ、兄貴に自分から申し出た。幼馴染おさななじみの城だしな。」


「アルヴェン騎士。」と、アベル。


 アルヴェン騎士は、イスタリア城主エオリアス騎士の長男で、跡取あととりである。少年時代はレイサーとも一緒に騎士になる訓練を受けていたと、以前会った時にアベルは聞いていた。親しみをこめてレイサーを友だと言った、少しするどくて端整たんせいな彼の顔が目に浮かんだ。


「あの、僕も連れて行ってください。」

 アベルは身を乗り出した。


「僕も。」

 アベルの力になりたい! と、リマールは思った。


「じゃあ、あたしも!」

 アベルと一緒にいたい! と、ラキアは思った。


「じゃあって、お前な。アベルはともかく、お前たちじゃあ戦力にならないだろ。」

 レイサーはあきれて背をそらし、腕を組んだ。


「僕は軍医(見習い)だ。戦力を回復させられる。」


「あたしは精霊使いだよ・・・なんかできるよ。」


「術を使って焼き殺すとか、できても無しだぞ。だいたい、お前に殺人なんてできないだろう。俺だって、お前を戦場に立たせるとか有り得ないし。」


「しかし、道中では大いに役立つんじゃないか。彼らみんな。」

 ルファイアスが穏やかに口を挟んだ。なんでもない言葉にも威厳いげんにじむ。軽いやりとりも、いっきに落ち着かせる声だ。


 レイサーは、腕を組んでいるそのまま考えた。


ほかが未熟なのが気になるが、アベルの驚異的な弓の腕は、城を守る戦いではかなり頼もしい。それに加えて、風の声(アベルが言うには)から何らかの情報を得ることができる。リマールは病気や怪我に対して適切な処置がとれるし、ラキアは・・・困った時にはなんか役に立つかもしれない・・・か。確かに、前回の経験から、この少女にしかできないこともある。


「だがアベル、戦士として行くというなら、もう敵を殺すつもりで・・・だぞ。」


「僕も、覚悟を決めて兵士の道を選びました。大切なものを守れる力をつけたくて。だから、大丈夫。やれます。」 

 アベルは、しっかりと首を縦に振って答えた。


 その目に、レイサーも固い決意を見て取った。アベルの素性すじょうを考えるとまだためらいは残るが、うなずかないわけにはいかないと思わされた。兵士になると決めたアベルの前に、もはや王弟であることを引き出すべきではないと。


 レイサーは、わかった・・・というように、一つうなずき返した。


陛下へいかには、私から伝えておこう。反対はするまい。」

 ラルティスが言った。


 ラルティスはここでの会議のあと、やはり王都へは行く予定を立てていた。何が起こったとしても、どんな理由があろうと、総司令官には全ての責任と報告義務がある。 









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