異国の三人
アベルとリマールが仰天して口を開け、ラキアは開けた口をさらに両手で覆った。
レイサーは説明を求めるように兄たちを見た。
そしてルファイアスが、こうなるに至ったわけを端的に話した。
そのあとで互いに名乗りあった。侍女はイオラ。護衛の彼はラルドだ。
「・・・で、彼女をどうするつもりだ?」
イルーシャ王女に一瞬目を向けて、レイサーがきいた。
ルファイアスとラルティスは顔を見合い、それからルファイアスが答えた。
「思わず連れてきてしまったが・・・そうだな。結局は、帰らせてあげねばなるまい。」
「どうか、このままご一緒させていただけませんか。」
すかさず、焦ったように身を乗り出して、王女がそんなことを言いだした。
思わぬ言葉に、ほかの全員が固まる。
するとコールが、「あの・・・恥を承知で申し上げますが・・・自分は、その・・・正直なところ、まだ、彼女たちのことを信用しきれていません。」と、とても言い辛そうに口にした。
「なぜ。」と、ラルティス。
「彼女は、あの・・・とてもお美しいので・・・その・・・利用されたのではないかと。それに・・・彼女はお一人ではありません。」
「つまり、我々がなかなか屈しないので、手を変えてきた・・・と?」
ハリスが確認した。
要するに、最も有り得ないが、彼女がその美貌を武器に油断させる密偵ではないかと、コールはそう言いたいのだ。もっと言えば、一番警戒すべきは護衛のラルド。彼ならスパイ行動もとれるだろう。
「馬鹿を言うな。」
ルファイアスが呆れて言った。芝居で多数の犠牲者を出すような事態になるわけがないと。もし仕組まれたことなら、戦う必要もなく逃げられたはずだ。
「自分も彼女が演技をしているようには見えませんが、どうしても信じられないのです。王女ともあろう御方が、親兄弟、祖国を裏切るなどとは。」
「我々の行動に嘘など・・・!」
ラルドが怒鳴った。
「そうです、王女様はとてもお優しく、私たちも善意であなた方のことを思って・・・!」
イオラも憤慨した。
「すまない、落ち着いて。彼も我々も疑いたくはないのだが、どうかこちらの立場も分かっていただきたい。」
ルファイアスが慌ててなだめた。
「俺は、どちらかと言うと、人質を取られたと勘違いするんじゃないかと思うんだが。それはそれで、ややこしくなるというか・・・マズいんじゃないか。」と、レイサー。
一人反論できないでいる若く美しい王女は、顔を赤くして居辛そうに震えているだけである。
それに気づいたラルティスは、そんなイルーシャ王女の手をさりげなく握りしめた。
「お前たち、そんなふうに言うな。彼女たちは、絶望と地獄から救い出してくれた恩人だぞ。」
捕まっていた者たちの顔には、みな殴られたような痕跡が見られた。着衣で分からないが、体にはもっとはっきりとした暴行の痕が残っているに違いない。
「私は、彼らを信じる。」
ラルティスがはっきりとそう言った。
「私も信じる。」
ルファイアスも同意した。
二人の隊長は顔を見合わせる。そして、「信じましょう。」と、口をそろえた。
「ところで、奴らは、兄貴たちから何を聞き出そうとしていたんだ。」
「王国の中心周辺にある城の兵士の数や、防備について。つまり、襲撃を予定している地域の兵力の規模や、軍事力についてだ。」
ラルティスが忌々《いまいま》しそうに答えた。
ここで、今度は、侍女のイオラと護衛のラルドに視線が集まった。
「あなた方は・・・。善意で助けてくれたのだとしたら、これは裏切り行為にあたる。今後、どうされるつもりで・・・。」
ハリスがおずおずとうかがった。彼らが母国で罪人になってしまったのは、自分たちのためだ。
するとラルドが、「私たちは罪を全て被り、このまま共に国を逃れます。もう、彼女とそう相談済みなので。」と、腹を決めたといった屈託ない微笑で答えて、優しくイオラの手をとった。二人は束の間、周りの目を忘れたように見つめ合った。
「ああ・・・そういう関係。」
レイサーがつぶやいた。
「ですから、王女様は何も知らないまま、私たちに頼まれてあの村へ行ったことにしてください。村まで戻れば、あとは兵士たちがお城へ帰らせてくれるでしょう。」
イオラは悲哀めいた微笑みを浮かべた。
「でも・・・。」
イルーシャ王女の顔が罪悪感に満ちたものになる。実際、そう頼んだのは王女の方だ。
「だが、逃れるって・・・どこへ。」
ルファイアスがきいた。
「とりあえず・・・西の方へ。」と、ラルド。
ウィンダー王国側の者たちは集まり、少し相談をした。
そして、その全員がやがて向き直ると、その結果をまずラルティスがこう伝えた。
「北はどうかな、私たちの国へ。あなた方は、私たちのために危険を承知で、たいへん勇気ある行動をとってくれた。かくまってもらうことができるだろう。西へは大山脈を越えて行かねばならない。危険な旅になる。」
ルファイアスが続ける。
「よければ、私の領地ラクシア市で暮らすといい。私に任せてもらえれば、うまく話をつけられる。それと、王女の身も。」
異国の三人は、目を見てすぐにうなずき合った。そして、ルファイアスやラルティスの方へ顔を向けたイルーシャ王女が、もう一度うなずいてみせた。
「では・・・というわけで、まずは基地へ帰らねばならないが・・・レイサー、お前たちは迷わずここまで来られたのか。」
ラルティスが言った。
「ああ、そのことなら大丈夫だ。任せてくれ。それで、出発は・・・。」
「夜明けまで待って移動するつもりだった。」と、ルファイアス。
「そうだな・・・仕方ないか。」
「ねえ、あたし案内できるよ、今。」
「道の無い夜の森を?」
レイサーがきく。
「うん、灯り無しでだって。」
「ラキア、そんなことできるようになったの!」
アベルが声をおさえて驚嘆した。
かつての旅の仲間以外は、みな、どういうことかと首をかしげる。
ラキアは、フフンという得意気な顔をした。
「あのね、闇の精霊にお願いするの。」




