捕えられたルファイアス
「まだ生きている。」
「しかし、本当にこの男もそうなのか。たった一人で来るとは。」
「見てみろ。立派な長剣を持っている。この辺りに来た戦士はすべて殺せ・・・が基本だ。」
ルファイアスは、そんなことをそばで話し合っている相手を見て、やはりと思い深いため息をついた。五人いる。ただ不可解なのは、そのうちの三人は見覚えのある軍服を着た兵士だったが、後ろにいる二人のうち、一人は農夫か木こりという恰好。そしてもう一人は、修道服のようなフード付きの長い外套を着ている。
しかし飢えているせいで闘志もかなり衰え、それを意志が支えている状態。あれこれ考えたり、疑問に思う気力はあっても、戦える力などほとんど残ってはいないだろう。
それでもルファイアスは力を振り絞り、武器を抜いて立ち上がった。ひとりの兵士の剣が、もう無言のうちに向けられているからである。自分よりも遥かに若い兵士だ。わきにいる中年の男だけは何もしゃべらず、さっきからなぜか顔をしかめながら、異様に見つめてくる。
後ろの農夫か木こりと、修道士のような二人は、何やらぶつぶつ言っている。
「待て。」と、無言でいた仏頂面の中年男が言った。
「殺すな。」
そして男は振り返り、後ろの二人にこうきいた。
「今、なんて言った。この男を知っているのか。」
「へえ、ルファイアス騎士です。」
農夫か木こりが答えた。
この中では指揮官らしいその男が、顔を覗き込むようにしながら近づいて来た。
「騎士ルファイアス・・・そうか、そういうのか、この男は。やっと確信したぞ。国ではさぞ英雄として扱われているのだろうな。これは思わぬ復讐の機会に恵まれたものだ。」
この男は私を知っている・・・? 復讐・・・そうか、かつての戦争の時代に・・・。
男のその言葉に反応して、思考が活発に働いた。
先代王の近衛騎士として、ルファイアスは、陛下の行くところどこでもついていった。時には、外交使節として送られることもあった。そこで話し合いに応じたのは、相手方は王の代理人ばかりだった。その時、この男とも会ったことがあるのだろうかと、ルファイアスは考えた。
そして同時に、謎が全て解けたというわけではないが、頭の中で一つの推理が成り立った。
もう死んだか。まだ生きている。
そんな妙な会話を聞いているうちに。
つまり、彼らはこの森を制している・・・ 迷わずに動ける、ということか? それが単に、この森に慣れていて詳しいだけでできることなら、なるほど、利用することもできよう。それが可能なのは、地元の者・・・イアリクの村人だけだ。軍服を着ていない、後ろの二人がそうだろう。敵は彼らを服従させ、協力させた。
だとすれば、これは、まさに罠。
だが、まだだ。自分も、昔はその村へ苦労せずに行くことができた。時を経て森の様相や道が変わったのだとしても、敵もこの森には不慣れで、同じ目に遭うはず。ここはあくまでウィンダー王国の領土なのだから。なのに、まずどうして村へ行けたのか。危険はなかったのか。
分かるようで分からない・・・そんな複雑な気持ちのまま、ルファイアスは抜き身の剣を少し動かした。
指揮官の目が白刃を見た。いやに涼し気な、冷酷そうな表情を少しも変えることなく。
「お前、戦うつもりか、その体で。空腹で今にも死にそうなんじゃないか。好きに動けないだろう。」
その通りで、体は自分が思う以上に衰弱していた。意思に反して、全く思うように動いてくれそうにない。足腰が情けないほど弱っている。
「ここに、私以外にも多くの兵士が来ただろう。その者たちはどうした。」
「心配するな。全て綺麗に片づけてやった。」
「どういう意味だ。」
「きちんと水葬してやったということだ。指揮官と、使えそうな数名の部下以外は、全てな。」
「まさか・・・!」
ルファイアスは、沼がある方へ視線を振った。
沼はハスの葉やもやもやした水草に覆われ、水中は少し暗く濁っている。だが、よくよく覗き込めば気づいたかもしれない。
あの中できっと、消えた隊員たちが永眠っていることに・・・。
ルファイアスは努めて冷静になり、男に目を向け直した。
「指揮官と・・・。その者たちは、今どこにいる。」
「連れていってやろう。ついてくるか、このままここで死ぬかだ。」
「ならば、ついて行くほかあるまい。」
そのあと、男の指示を聞いて動いた手下に、ルファイアスはおとなしく両腕を縛らせてやった。




