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嬉しい再会



 休憩きゅうけい時間に軽く昼食を済ませたアベルは、自分の馬を走らせて王宮に到着した。


 話を聞いていた門番の衛兵に案内されたのは、主宮殿前の大庭園のはしに建っている別館だった。以前、アベルやその旅の仲間たちの宿泊所として提供ていきょうされた建物である。内装は華美に飾られたりしておらず、家具の重厚じゅうこう感に高級さを感じるくらいで、どの部屋も広すぎるということもない。


 その一室で、大きな窓の向こうを眺めながら待っていると、よく知っている若い男性がノックもせずに入ってきた。


 アベルはソファーからはじかれたように立ち上がった。


 その若者は、ニヤッとほほ笑んで手を差し伸べてきた。アベルは満面まんめんの笑みで、その手を強く握り返した。互いの顔には再会の喜びがあふれている。


「頑張ってるようだな。」

 と、その若者が言った。


 黒髪の剣士で以前はさすらい戦士だった。そして今は、カルヴァン城の騎兵隊をまとめるレイサー騎士隊長。


 ただの見習い兵士として王都で暮らしているアベルは、ラクシア市にいるレイサーとは顔を合わせる機会がなかった。エドリック騎士から話を聞くことはできても。


「びっくりした。だって、誰からのお呼びか教えてくれなかったから。」


「ああそれは、わざとだ。びっくりさせたくてな。」


 なるほど。だけどそれより、レイサーでもそんなお茶目なこと考えるんだ。なんか変わった? と、以前はぶっきらぼうだと思っていたその憧れの戦士を、アベルはしげしげと見つめた。


 レイサーに手の仕草しぐさで座るよううながされたアベルは、背後のソファーにまた腰を下ろした。


「お前のあの力・・・風の声を聞けるという能力がいる。」


 アベルの向かいに座ったレイサーは、ひざの間に指を組んだ前屈まえかがみの姿勢で話し始めた。少し上目うわめ遣いになったその顔は、うってかわって真剣そのものだ。


「兄貴たちが、最も国境に近い南の森で捕虜ほりょになっている。」


「兄貴たちって・・・ラルティス総司令官の部隊ですよね。」


「いや、正確には、ラルティス兄貴とほかに二人の隊長。そして、恐らくルファイアス兄貴だ。」


「なぜ・・・ルファイアス騎士はもうラクシア市の領主じゃあ・・・。」


「アスティンが教えてくれた。詳しく話そう。彼もしばらくは一緒だったが、兄貴たち・・・実際、この時点ではルファイアス兄貴はまだいないが・・・一緒に捕まった者たちが逃がしてくれたと。」


 アベルは、あの叔父おじのもと側近そっきんのことを思い出しながら、その話に耳をかたむけた。


「ラルティス兄貴の部隊は森でだまし撃ちにあい、ほかの者は殺され、彼らは捕まった。ルファイアス兄貴は、それをまだ知らないうちに、一人で探しに出かけた。恐らく同じ目に・・・」


 レイサーは、アスティンからきいた話をより詳しく教えた。ことに森を彷徨さまよったこと、そして襲撃しゅうげきにあった話を。


「彼が言うには村の外れにいるらしいが、今も・・・とは限らない。作戦に合わせて移動されるかもしれない。だから、お前に同行して欲しいんだ。もし奴らが移動しても見つけられるように。遠くのものを的確に狙える腕も、様々な機会に役立つだろう。アベル、一緒に来てくれないか。」


「僕はまだ戦士として未熟だけど・・・じっとしてはいられないから・・・行きます。ただ・・・その話からすると、あやかしの沼みたいに邪魔される恐れが。風の声を聞くのは難しいかも。」


「邪魔はさせない。ラキアがな。」


「ラキア!」


 深刻な話の途中だが、アベルは思わず歓声かんせいをあげた。この反応を、実は少し期待していたレイサーも笑顔になっている。


「ああ、敵の精霊使い対策として、ラキアが一緒に行ってくれる。実は、アスティンをその森の中から助けたのは、ラキアとそのじいさんなんだ。」


「でも・・・ラキアで大丈夫なんですか。」


「実は、俺もその点不安なんだが・・・なんせ、あいつ、あやかしのぬまであたふたしたあげく、小さい子みたいに泣きだしたからな。」


 二人はまゆをひそめ、難しい顔をして、ちょっと黙った。


 だがすぐ、レイサーが笑顔に戻って言った。 


「ラキアに会いたいか?」

「もちろん!」

「実は、もう連れて来てる。」


 やられた。ドッキリの連続だ。レイサーが、「アベルのやつを驚かせてやろう!」なんて言うところ想像できないけど、でも、とにかく、そんなことより・・・。


 アベルは、出入口のドアに注目。


 するとドアは、アベルが目を向けたと同時に、勢いよくバーンと音をたてて開いた。


 そして入室してきた美少女が亜麻色あまいろの長い髪を後ろへふりはらい、怒って指を突きつけてきた。


「ちょっと、〝大丈夫なんですか〟とか〝不安なんだが〟って、何よ! それに小さい子みたいに泣きだしたとか、し返さ一一」


「ラキア!」


 アベルは嬉しくて駆け寄り、思わず両手を広げて抱きしめていた。


 ラキアは、ボッと顔が赤くなるのが分かった。でもこの様子、きっとアベルは、妹のようにしか見てくれてないのだろうと感じた。そして、久しぶりに会った彼は、ちょっと男らしくなったように見えた。背が伸びて、たくましくなった?


 ラキアがアベルの変化にそう面食めんくらっているように、アベルもまた同じ気持ちでラキアを見つめ返していた。アベルが思ったことは、もっと可愛かわいくなった・・・だけだったが。さっきの登場の仕方では、女らしくなったとは感じてもらえないのも仕方ない。


「それで、リマールは今、何をしてる?」


「軍医見習いとしてのつとめを。夕方には会えますよ。もしかして、リマールもさそうの?」


「ああ、そのつもりだが。」


「でも、リマールはなんで?」


「なぜって・・・お前たちはコンビだろう?」


 また意外なことを言う、と、驚いているアベルに、レイサーはさらにこう付け加えた。


「それに、俺たちはチームだ。」









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