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隊長からのご指名


 バラロワ王国の目論見もくろみが分かっても、詳しい計画や動きが分からないままだった状態から、アスティンの報告によって新展開が。その内容は、敵の計画よりも、どこに部隊を潜伏せんぷくさせているかなど、敵の今の状況や、戦闘準備の進み具合ぐあいが主だった。しかし、そこからより絞り込んだ推測ができるようになった。


 大街道だいかいどうが通っている大河の関所に、権力者たちが集められた。今度は、王都に召集しょうしゅうされた時よりも広範囲から、ことに敵が進軍してくると予想される地域にいる領主や騎士たちである。


 そして、ラトリ市のイスタリア城からは領主のエオリアス騎士が、それに、ラクシア市のカルヴァン城からは、ルファイアス騎士の代理人のほかに、捕虜ほりょとなっている者の身内であるレイサー騎士も参加した。


 その関所へは、ラキアと一緒にコラルも同行していた。彼は彼で、まだすべきことがある。よって、コラルはそのまま、しばらく関所の館内にとどまることになった。


 コラルのすべきこと。それは、アディロンの森の異変について分かったことをまとめ、そこから推理をすすめて解決策を見いだすことである。それは関守のマルクスに伝えればいい。ウィンダー王国にとって、そのほぼ中央に置かれたラジリーク市の関所は、王国各地から領主や軍の上官が集まる拠点きょてんであり、司令部であるから。







 王都の城の中に造られた騎馬修練所きばしゅうれんじょから、やりを打ち合う騎馬戦の音が響いている。今は、まだ未熟みじゅくな若い見習い兵士たちが、立派な騎兵や騎士になるための訓練を受ける時間。その中には、アベルもいる。武器の音を鳴らしているのは、アベルと対戦相手だ。


 カッ、カシッ、キン・・・!


 何度が打ち合った末に、アベルは体勢を崩して距離をとった。しっかりとくらに座り直し、槍を構えながら馬を回して、また相手めがけて素早く馬を走らせる。


 先手をとった。だがたくみにかわされ、離れては近寄る。槍が激しくぶつかり合い、よろいを傷つける。馬同士も度々ぶつかる。


 アベルは、興奮して落ち着きのない自分の馬に、手をやってなだめた。


 馬も疲れているが、それ以上に自分は疲れていると、アベルは弱音を吐きそうになることもしばしばだ。なんせかぶとまでかぶった銀色の甲冑かっちゅうを着て、フル装備というか防備だ。こんなの落馬したらスッと起き上がれないよ。 そしたら恰好かっこう餌食えじきじゃないか、とアベルはいつも思う。とにかく重くて、実際、この姿で戦地へおもむくことはもうほとんど無いというが、訓練はこの完全武装で行われる。安全性と、体力づくりの両面から。だが、基本的には実戦を想定して全てが用意されているので、槍は戦場で使われるのと同じものだし、強い突きをまともに食らえば血だって流れる。訓練では急所はわざと外してくれたり、すんでのところで止めてもらえるが、アベルは、今、相手をしてくれているこの先輩には全く歯が立たない。それに、ぜんぜん上手くなる気もしない。 


 心の中でそう愚痴ぐちった、まさにその時。


「うーん・・・なかなか上手くならないな。お前、苦手意識をもっちゃいないか。」


 アベルはカチンときた。たった1歳年上の彼は、見透みすかした、ちょっと馬鹿にしたようなことを、悪意なく少しえらそうに言う。悪い人ではないんだけど・・・。


 自然といったん中断されたが、まだ時間が残っているので訓練再開。この特訓は、昔行われていた馬上(やり)試合というものに近い。


 やがて終了の時間がきて、馬を向かい合わせた二人は、終わりの挨拶を交わした。すっぽりと甲冑かっちゅうに身を固めているアベルは、ぐったりしたいのをこらえて、馬上で姿勢を正したまま退場した。 時おり涼しい風が吹き過ぎ、空気はからっと乾いているが、太陽が照りつけてくる晴れた日には、さすがに体じゅうが汗びっしょりになる。


 そこで気づいた。馬場のきわに、自分の指導者が現れている。彼は主に職務について教えてくれる人で、普段は、体や技術の鍛錬たんれん中にそばに来ることはない。


 不可解ふかかいに思っていると手招てまねきされたので、アベルは自分の指導者の方へ馬を寄せ、地面に下りて兜を外した。顔も汗まみれだ。


 彼は推定すいてい、32歳といったところ。若いと言えば若い。一人知っている、ぶっきらぼうな青年よりも寡黙かもくだ。そして、生真面目きまじめそうな顔つき。


 怒っているようには見えないけど・・・と、アベルは思い、ここ最近の自分の行いを振り返ってみる。アレ ―― 夜警当番の見習い兵士、失踪しっそう事件 ―― 以来、何も問題は起こしていないはず。


 よし、大丈夫。


 彼が、あいかわらずの無表情で口を開いた。

「王宮からお呼びがあった。午後の当番はほかの者に代わらせるから、今すぐ向かうように。」と。


「王宮から・・・ですか。」

 アベルはすっとみ込めずに、戸惑とまどいながらきいた。 


 行きれた場所だが、こんな時間に兄上の方からさそってくるなんてことは、まず考えられない。


「ああ、隊長からのご指名だそうだ。門番の衛兵えいへいに名前と身分を言えば、案内してもらえる。」


「あの・・・。」


 アベルは口を閉じた。隊長からご指名って、どこの? と問いたかったのだが。だって、隊長なんて王都にはたくさんいる。アベルはまだ見習いの身。その自分の指導者である目の前の彼も隊長だが、彼は、「無駄むだ話をさせるな。」という顔をしている。言葉少なで分かり辛い指導者と以前から気になってはいたけど、なんて不親切なんだ。あ、もしかして、聞き取れなかったからごまかしてるんじゃあ・・・。


 失礼なうたがいの目を向けられた彼は、「行けば分かる。」と、答えた。








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