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アスティンの帰還



 やがて、広い川沿いの平坦な道に出た三人と一頭のロバ。まだ夕焼けが残っている時間に、国境警備隊の基地が近くにある橋のところまで帰ってこられた。対岸の森にはあかりがポツポツと見えている。村や宿からの灯りだ。三人は、ラルティス総司令官が部隊を率いて向かった先とは全く別方向から戻ってきた。


 橋を渡りきって、アディロンの未開の森の対岸にある林道を進んでいくと、間もなく国境警備隊の基地が見えてきた。そこはいくつものかがり火に照らされて、勇ましく輝き、活気づいていた。夕食の準備をしたり、馬の世話をしているき活きとした人の動き。木につながれた綺麗な馬たち。アスティンにはなつかしい光景のはずが、まるで別世界の絵のよう。


 一途いちずに、がれるように思い続けた、自分の本来の居場所。それを見ても、アスティンは飛び跳ねて喜ぶ気にはなれなかった。熱のせいもあるだろう。今はただ、目をうるませて、うっとりと陶酔とうすいしながら眺めることしか・・・。


 訪問者ほうもんしゃに気づいた若い隊員が一人駆け寄ってきて、三人のそばで止まった。その隊員は、少女と老人、そして、全てを覆うように外套がいとうに身を包んでいるロバに乗った少年 ―― そこそこ背丈があって細い足が見えていたので、そう思った —— に、にこやかに挨拶あいさつをして言った。


「どうされました? あ、もしかして、ラキアさん!」と。


 ラキアは以前、一度ここへ来ている。その時一緒にいたのは、アベルとレイサー、そしてリマールだ。ここではラキアは、王都へ向かう王弟アベルディン殿下のお供、または護衛(?)だった者と認識されている。


「こんばんは。こっちはおじいちゃん。」


 ラキアに紹介されて、コラルも挨拶をした。だが二人とも、アスティンのことは言わなかった。彼らの方がよく知っているからだ。その通り、その若い隊員は、フードの中の顔を見ると、驚きと喜び、だが戸惑とまどいや不安も混じった複雑な気持ちで叫んだ。


「ア、アスティンです! アスティンが戻りました! 誰か隊長たちに報告を! 」


 聞き取った者たちが一斉いっせいに目を向け、たちまち駆け寄ってくる。言われた通りに、離れた場所にいる隊長や副隊長のもとへ走った者もいる。


「アスティン!」 

「おい、何があった!」

「ほかの皆はどうした。」 

「ラルティス総司令官は?」


 こんなふうに次々と興奮してわめき立てているのは、アスティンと変わらない年齢の若い隊員ばかりだ。


「これこれ。」コラルがあきれて手を払った。「病気で傷ついている者を質問攻めにすることはなかろう。」


 殺到さっとうしている若者たちが、サッと動いて道を空けた。そして、指揮官と見える風格ある男性が六人、そこを通って前へ出て来た。隊長や副隊長たちだ。彼らはみな冷静を崩さないでいるが、当然、内心では周りの部下たちと同じ思いでいる。そして、素直に喜べないことも。戻ってきたのは、アスティンだけ。これは嫌な予感を裏付けるものであるし、良い兆候ちょうこうではない。


 実は、この国境警備隊の残った隊員たちは、ここへ立ち寄ったルファイアス騎士から、アスティンが関わったことの真実を聞いていた。それからというもの、誰もが待つことしか許されない不安の中にいたのである。


 集まった者たちは、そこでみな気づいて注目した。その視線は、ことごとくアスティンの下半身に向けられている。


 外套がいとうの合わせ目から伸びている、彼の素足の、なんとおとろえていること・・・。


 恐る恐る、副隊長のヴルーノはアスティンのフードに手をかけた。そっと後ろへ払いのけると、頬はこけて、無気力な目をした、やや紅潮こうちょうしているその顔があらわに。その時、少し着衣が開いて胸が見えた。ガリガリだ。外套の下は、何も身に着けていないことにも気づいた。ヴルーノは、それから腕をとって袖もまくり上げた。同じように脂肪や筋肉は悲惨にそげ落ち、所々にあざまである。


「お前・・・。」

・・・なんて姿に。そう言いそうになって、ヴルーノは声を飲み込んだ。


 アスティンの方は、そうされてもまだ、何かをしゃべる気にはなれなかった。ロバから降りて、着替えをして、すっかり落ち着いてから、いっきに事情を話したかった。


 それでアスティンは、今は弱々しく一言だけ口にした。

「ただいま・・・戻りました。」









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