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イアリク村の少年たち



 空がれてきて、見張りの兵士たちが火を起こし始めた。さっき交代したばかりの三人の兵士だ。一人は焚き火を燃え上がらせることに専念し、一人は川の水際みずぎわたたずみ、一人は山の洞窟をのぞきにいった。昼間、ある兵士が、「お前たちの牢獄だ。」と、ラルティスに教えた場所を。


 捕虜たちは、その山の方から連れて来られた。山裾やますその斜面を上ったり下ったり、山あいの細い谷を通ったりしながら。イアリク村に近づくまでは、その行路はやはり道と呼べたものではなかった。


 何日も、こんなことが続いている。すっかり見慣れた光景だった。 


 後ろ手に縛られたままというのも、それだけでひどいものだが、ラルティスもその部下も、まだ拷問といえるほどのむごい仕打ちを受けてはいなかった。兵士たちは、誰かを待っているようだ。恐らく、一番の指揮官を。


 襲撃しゅうげきの時に指揮しきをとっていた男を、あの日以来、ラルティスは見ていない。その男は、そのあと別の離れた場所へ行ったと思われた。どこへ・・・と考えると、一つ思い当たった。そういえば、森の向こうの国境を越えた湿地帯しっちたいには、バラロワ王国の古い城が一つ建っている。名はなんといったか・・・舌を噛みそうな・・・ノルヴァンディラス城・・・確かそんな名だ。


 とにかく、その指揮官が戻ってくれば、すぐにでも乱暴な尋問じんもんが始まるだろう。進撃をくわだてている敵には、より有利で的確な作戦を立てるうえで、知りたいことが多くあるはず。


 ラルティスたちは、時々、互いの様子を気にした。最も心配されるのは、やはり、まだ若いアスティンだった。ふと気づけば、たまにうつろな遠い目をすることがある。自分はここで終わる・・・とでも聞こえてきそうな顔だ。そんな時、指揮官たちはそっと声をかけて我に返らせた。


 やがて兵士たちは三人とも焚き火の周りに落ち着いた。


 捕虜たちも何もすることがなく、ただ疲れたため息をつくばかり。


 するとある時、あらぬ方から気配がした。とっくに村人も帰宅して、誰もいないはずの方向だ。


 それは、背後の岩の後ろ。 


 まだ少し遠いが、どうも兵士たちに見つからないように、ゆっくり、そっと近づいてくる。慣れたような忍び足でも、足場が石ころだらけなので嫌でも音がたつ。


 それで、ラルティスたちはみな、すぐに気づいた。救い手か・・・? というように目を見合う。だが、期待は湧かなかった。


 そして・・・。


「ねえ。」


 大岩を挟んだすぐ後ろから、この状況に全く不自然な声が聞こえた。


 子供の声。


 ラルティスとその部下たちは、まず監視の兵士たちを見た。ちょうど、村からの食事が届けられたところだ。兵士たちは喜んで食べ始めた。


 ラルティスたちは耳をそちらへ向けるようにして、少し首を動かしてみる。


「ねえ、おじさんたち、王様の兵士?」


 顔を出さずに、声の主はそう問いかけてきた。イアリクの村の子供たちに違いない。複数人いるようだ。声は男の子のものだった。


「ああ、君たちの王様の兵士だ。」

 ラルティスが答えた。


「おじさんたち、弱いの?」


 子供ならではのド直球に、思わず笑いがこみ上げた。


 それでハリスが、「困りましたな。」と、苦笑を浮かべた。


 後ろ手に縛られているこのざまでは、そんなことはない・・・とは言えない。


 ラルティスは、監視の男をチラチラと気にしながら、子供たちと会話を続けた。


「なぜ、ここに?」

「弱そうかどうか、近くで見たくなって。」

「そこからだと、おじさんたちの姿は見えないだろう。」

「僕たち、あそこの岩場のかげからなら、ときどき見てたよ。」


 それは気づかなかった。この子たちにはなかなか密偵みっていの素質がある。そう感心していると、岩の後ろから何人かがパッと顔を出してきて、素早く頭を引っ込めた。一瞬、目が合った子もいた。四人くらいか?


 ラルティスは、また監視に目を向けた。今のことにも、まだ気づいていないようだ。焚き火の炎がまぶしいのと、それと向かい合って食事をしているせいだろう。


「それで、どうだ?近くで見てみて。」と、ラルティス。


 すると、少ししてからひそひそ話が聞こえた。どう思う?とか、僕はああだとか、こうだと評価する声が。


 そして、間もなく意見が一致いっちしたようで、こんな返事が返ってきた。


「うーん・・・弱そうっていうより・・・弱ってるって感じ。」


「それは良かった・・・。」


 とりあえず誤解ごかいがなくて。


「でも、どうして気になった?」


「ここで、もうすぐ戦争が起きるって聞いたから。」

「でも、この国の兵士はちゃんと訓練していないから、負けるって。」

「でも、あの人たちの味方みかたをしたら、ここは襲わないって。」

「それに、王様が交代したら、その人がずっと守ってくれるって。」


 子供たちは口々に、言いたい放題ほうだい答えてくれた。


 なんてことだ。見事に罠にはまってこんな無様な姿をさらし、その言葉により説得力を持たせてしまっている・・・。


「で、どこでそんなことを?」

「村の会議で、大人たちがそんな感じのことをしゃべってた。」

「盗み聞きしたの?」


 子供たちは、自分たちがしかられることをしているのが気になりだしたようで、急にあせりだした。


「ほんとは、ここに来ちゃダメだって言われてる。だから、行くね。」


「待って・・・。」ラルティスはあわてて呼び止め、そして言った。「一つ教えて欲しいことがある。君たち、そのまま岩の後ろから小さな声で、もう少しだけ、おじさんと話しをしてくれないかな。お願いだから。」


 子供たちの相談し合うささやき声が聞こえた。


「じゃあ・・・うん、いいよ。」

「ありがとう。それで君たち、この川にはくわしい?」

「うん。あの人たちが来る前は、このちょっと先は遊び場だった。」

「遊び場・・・もしかして、ここの急な流れはゆるくなるのか?」

「うん、ここはこんなだけど、遠くのあの岩の後ろくらいからゆっくりになるし、それに浅くなる。」


 ラルティスは、極めてかすかだが、ついにチャンスがおとずれた気がした。かなり無茶で、馬鹿げた、とうてい成功しそうにない考えではあるが、それでもラルティスは、すぐそこにある川のことを知りたがった。川という名の、希望を示す道のことを。


「その先に大きな滝はある?」

「ううん。僕たちが知ってるところには無い。」


 ほか三人の部下は、信じられずに上司を見つめている。まさか、しばられたまま川に逃げるなどという、正気とは思えない無茶を総司令官はお考えなのだろうか。


 見張りの兵士が顔を向けてきた。


 捕虜たちは前を向いて、黙った。


 兵士は少しのあいだそのままだったが、結局は立ち上がって、やはり近づいてきた。やっと気づいたようだ。


「こらっ!」


 兵士の一喝いっかつに驚いて、パッと姿を現した子供はやはり四人だ。みな腕白小僧(男児ばかりということ)で、その兵士のわきをわめきながら素早くすり抜け、村の方へ走って行った。後ろからやってきたが、どこから回り込んできたのだろう・・・と、ラルティスは考えた。


「何を話していた。」

 監視の兵士が仁王立におうだちで、腕を組みながらにらみつけてきた。


「私たちは訓練していないから弱いと言われた。」

 ラルティスは、がっかり肩を落として答えた。


「それに、ここはお前たちの王が戦争に勝って、守ってくれるようになると。」

 コールもそう続けた。


 見張りの男は急に機嫌きげんよく声をたてて笑いだした。








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