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歓迎の宴 ― 怪しい誘い


 夜、大理石の広間で歓迎かんげいうたげが開かれた。


 開宴の合図あいずに、グラスが一斉にかかげられた。広間のすみで待機していた楽団の演奏に合わせて、若く美しい娘たちが舞う。調理ができる暖炉だんろでは、串に刺した牛肉の塊がくるくる回っている。ランプが並ぶ明るいホールには、その美味うまそうな匂いが充満していた。大きなテーブルには、ほかにも高級食材を惜しみなく使った豪華な料理が並んだ。


 アレンディルとムバラートは、ほかの者たちとは別の、一段高くなった席にいる。料理は大皿に盛られていた。エドリックやマクヴェインは、それを鋭い目で凝視ぎょうしした。まさかとは思うが、どくはもられていないようだと。


 執事しつじが、二人の君主のために、じゅうぶんな量の食事を取り分けた。騎士たちは自由に皿によそって食べた。年老いたゼルフィンには、騎士の一人が、いちいち好みを聞きながら食べやすそうなものを食器に入れてあげている。


 エドリックとマクヴェインは、王から一番近い場所の席についている。


 ムバラートは、本心を知っているアレンディルや、この二人の護衛から見れば、逆に不気味なほど、陽気にふるまっていた。アレンディルもひかえめな笑顔で調子を合わせている。


 ムバラートからは、度々、主に軍事に関する情報を引き出そうとするような質問がさりげなく投げかけられていたが、アレンディルは見事な頭の回転によって上手くかわし続けた。


 今回の招待は、単に情報をさぐり出すためのものか・・・? と思うも、その魂胆こんたんを知る者たちにはひっかかった。この男は侵略を目論もくろみ、〝前もって〟王都を混乱させるための策略を考えていたのである。情報を聞くだけでは、そうはならない。その笑顔の後ろに隠されている闇の計画とは・・・。 


 そんな思いで、二人の演技を見つめているエドリックの頭には、ほかにも、それに関するいろんなことが交錯した。撃たれたもと側近のことと、その密告の内容。それによって行われた会議での様子。そして、罠がしかけられているかもしれない怪しい森へ入った二人の兄のこと。


 警戒心よりもだんだんと嫌悪感けんおかんもよおしてきて、エドリックは最高級のワインをがぶがぶとのどに流し込んだ。


 そうして、歓迎の宴も終わりに近づいた頃、ムバラートがついにあやしい動きをみせた。


「上の部屋で、二人だけで話がしたい。」


 と、言ったのだ。


 とたんに緊張が走った。それを聞き取った騎士たちがサッと視線を向ける。


 バラロワ王国と共謀きょうぼうしているという情報は、今のところ、ここでは王のほかにはエドリックとマクヴェインしか知らない。だが因縁いんねんによって、ムバラートが王に危害を加えかねない危険人物であるという認識は、従者の誰もがいまだに持っている。


 さらに二人の近衛騎士は、ムバラートの一挙一動にいよいよ注意をはらわねば、と気を引きしめる。いったい、どんな手を使って王都を混乱させようというのか。ますます気になった。わざわざ自分の領域へ来させたのだから、やはり不慮ふりょの事故に見せかけての殺害が念頭ねんとうに浮かぶが・・・。


 そんな騎士団に向かって、ムバラートの方は、おやおや・・・と言わんばかりの苦笑を返した。


「アレンディル、そなたの騎士たちが、なぜか怖い顔をしているぞ。」ムバラートの笑みは、自嘲じちょうにも似たものに変わった。「何を心配している。私がアレンディルを襲うとでも? 仮にも、私とてウィンダー王国の者。法を犯せばさばかれるのは分かっている。」 


 侵略戦争を起こそうとしているくせに、どの口が・・・と、エドリックは内心言ってやりたい気分だった。


 従者たちはみな、信じてよいものか・・・と、顔を見合わせる。


 王アレンディルは、黙って叔父が話す言葉を聞いている。


 ムバラートは、すらすらと口を動かし続けた。

「そうだ、では、ゼルフィンも一緒にくればいい。もし、私が何か物騒ぶっそうなことをしようものなら、彼が証人になる。」






 宴会場をあとにして、叔父と二人で部屋を移ろうとするアレンディルに、侍従じじゅうのゼルフィンのほか、王の一番の護衛たちも堂々とついて行った。


 長い階段を三階まで上がった。その部屋の前まで来ると、ムバラートは、エドリックとマクヴェインの顔を無表情で見た。それから、アレンディルと向かい合って立った。


 その時、アレンディルは、叔父おじが一瞬視線を外して、自分が護身用で腰に帯びている短剣を見たのに気づいた。何かうまい理由をつけて置いていくよう言われるかと思ったが、叔父はそれを気にしなかった。なので叔父が身につけている長剣についても、アレンディルも何も言わなかった。


 すると。


「剣を・・・。」と、マクヴェインが一歩前へ出て、思いきったように口にしたのである。「ムバラート様、大変、恐縮きょうしゅくではございますが、お腰の長剣をおあずかりさせていただいても、よろしいでしょうか。なごやかな場にふさわしいものではございません。」


「ああ、いいとも。だが、わたしは常に剣を帯びている。わたしの感覚では装身具そうしんぐのようなものだからな。」


 そう言いながら、ムバラートは腰から剣を外して、両手でそれを受け取ろうとしているマクヴェインに差し出した。


 ここでムバラートは、アレンディルの腰にはっきりと目を留めた。


「そなたも短剣を備えているな。だが、そのままでよい。より安心していられるだろう。そなたが、わたしを恐れていることは分かっている。以前は敵意てきいを持っていた・・・と、私も認めよう。」


 背中に手を回されたアレンディルは、ゼルフィンを連れて中へ入った。それからうながされて、応接セットが置いてある部屋の真ん中あたりまで進んだ。


 そこでムバラートが、音をたてないように、後ろ手でそっとドアに鍵をかけた。


 その妙な行動にアレンディルも気づいたが、侍従のゼルフィンを見て、口に出そうとした言葉を飲み込んだ。


 にこやかな笑顔で、「雲が晴れてきた。月を眺めよう。」と誘われて、ソファーに座ろうとしていたアレンディルは、そのまま広いバルコニーに出た。


 手すりの壁が低く感じた。突き落とされるだろうか・・・という考えがよぎった。思わず叔父の横顔にうたがいの目を向けるアレンディル。そして、またゼルフィンの顔を見た。


 ゼルフィンは壁際かべぎわにひかえ、ややうつむいて立っている。


 そこは湖沿いのバルコニーで、真下には累々《るいるい》と積み重なる岩場に湖面が迫っていた。









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