なろうの純文学ジャンルについて
純文学って何でしょうか。読みづらくて難解でとっつきづらいもの?
しいな ここみ様主催『純文学ってなんだ? 企画』参加作品です。
ここではアホリアSSが考える、純文学について述べようと思います。
出版物での純文学全般の話というより、『小説家になろう』内での『純文学ジャンル』を対象にした話です。
どのように小説を書けば純文学と認められるか、それは人によって意見が異なります。
既存の純文学作品をマネした場合は、純文学で本来重要とされる『独自性』がなくなるのでは、という指摘もあります。
なろうで純文学ジャンルで投稿する場合は、その作品のどこに『純文学らしさ』があるか考えてほしいです。
■1 純文学って何?
まずはなろうのガイドライン『小説家になろうヘルプセンター』でのジャンル説明について再確認しましょう。
大分類『文芸』ジャンル内の純文学はこうなっています。
純文学:芸術性に重きを置いた作品。
なろうの説明はこれだけです。
では小説での芸術性とは何でしょうか。
これも一概には言えないのですが、以下の手法で芸術性が表現されることがあるようです。
・深いテーマ:
他のジャンルでは避けられがちな話題を取り扱います。
例えばこういうのがあるかな。
哲学、倫理、社会問題、病気、死、精神医療、差別、宗教問題、
殺人行為、自身または親族による犯罪、老い、政治問題、汚職
ニュース記事などを取り上げて、軽く感想や意見書くだけ、ではありません。
それならエッセイの方がいいです。純文学で出すなら内面に深く切り込みましょう。
取扱いの難しい話題の場合、先入観や思い込みを避け、よく調査をして書きましょう。
実在の事件や組織・人物を扱う場合に、ノンフィクションでエッセイで出すと問題視されることもあります。
架空のフィクション作品に置き換えて純文学で投稿する、という手もあります。
差別用語や放送禁止用語を扱う場合は、直接の言葉で書かないように。
作品自体が差別的にならぬよう、また、差別の助長につながる書き方も避けましょう。
・心理描写:
キャラクターの感情の変化、心理状態の移り変わり、精神的成長または破綻を細かく描くことです。
逆に、主人公の心の内を明文化せず、第三者視点や神の視点で読者に主人公の心を想像させる書き方もあります。
扱うテーマや書き方によっては、読者が登場人物に共感すると精神的ダメージが入る場合もあります。
・個性的な文章表現
言葉遣いや文体を工夫し、韻をふませる。同じ言葉に複数の意味を持たせる。
似た文章または似た音の段落を繰り返す。辞書に載っていない新しい言葉を生み出す。
従来にない文章の書き方をすることで、『文学の可能性を追求する』という考え方もあります。
読者の心に美しい情景を描かせたり、音楽を響かせてみましょう。
においや暑さ寒さなど、読み手の五感に訴えかける手法です。
・徹底した事前調査:
文中のテーマや事項について、その物語の背景や裏情報も含めて徹底した調査を行い、リアリティを高める。
歴史背景や文化を理解し、より作品の精度を高める。
・独自性:
過去の作品をマネるのではなく、作者が独自で考え出した書き方や言葉、取り扱うネタを扱うもの。
自分独自のアイデアを重視しましょう。もしかすると同じアイデアをどこかで誰かが使っているかもしれません。
しかし、他者のアイデアを知る前に自分の頭でそれを生み出せたなら、それも独自性と言えるかも。
……いくつか書きましたが、これらが全く含まれていない『純文学』もありだと思います。
■2 大衆文学について
これを読んでいる人が『小説』を聞いて想像できるものをひとくくりにすると、それがおそらく『大衆文学』になるかも。
読者の楽しませることや、読みやすさが重視されています。
通俗小説とかエンタメ小説ともよばれます。
文学全体を『純文学』と『大衆文学』にわけて区別されることもあります。
では『大衆文学』にはどのような特徴があるでしょうか。
・娯楽性重視:
大衆文学は読者に娯楽を提供することを目的としています。
ストーリーの展開が早く、読者を引きつけるためのサスペンスやアクション、ラブロマンスなども取り入れられます。
起承転結を使って話を盛り上げ、読者を舞台劇に引き込むような書き方になります。
・分かりやすさ:
読者にとって分かりやすい言葉遣いやストーリーテリングが特徴です。
テーマも一般的に親しみやすく、共感を呼びやすいものが多いです。
・量産される作品:
書籍の世界では多くの作品が短期間で生産され、広範な読者層に向けて販売されます。
シリーズ物やベストセラーを目指した作品が多いです。
・広い読者層:
一般の読者に広く受け入れられることを目指し、幅広い年齢層や趣味に対応しています。
なお、文学者の中では『大衆文学は歴史小説や時代小説に限る』という考え方もあるようです。
純文学以外の全般という意味では、通俗小説と呼ぶべきという考え方です。
ただ、今回は大衆文学と通俗小説は同義として書いています。
『純文学』と『大衆文学』の違いは例にあげるとこのようなものでしょうか。
『純文学』は芸術性重視で、
『大衆文学』はエンターテイメント重視
『純文学』は難解で、読者が努力しないと理解しずらい。
『大衆文学』は読者に読みやすく書き、読者を楽しませる作品を目指す。
■3 ライトノベルの扱い
小説家になろうに投稿された小説の多くは『ライトノベル』に近いものでしょう。
ライトノベルはSFやファンタジー、推理、恋愛などをテーマに軽い文体で書いた娯楽小説。
若者向けを対象にしていることが多く、書籍化された場合は可愛らしい挿絵が入るのが普通です。
ライトノベルは『大衆文学』からさらに読みやすくエンターテイメント性を高めたものと言えそうです。
■4 定型ストーリーからの脱却
小説家になろうでは、話の進め方として『よくある展開』『テンプレート、略してテンプレ』『王道的展開』などがあります。
流行っている定型ものがあれば、それに則って書くことで作品の人気につながることもあります。
読み手の皆さんの多くが好きな展開となり、読みやすい利点もあります。
『純文学』は独自性が重視されるので、定番は避けられる傾向があります。
なろうで純文学で投稿する場合は、『どこかで見たことのある展開』だけでなく、自分のオリジナリティを出しましょう。
■5 ハッピーエンドとご都合主義
物語の締めくくりをどうするかを3つに分けるとこうなります。
・ハッピーエンド
・バッドエンド
・落ちなしエンド
『純文学』では他ジャンルに比べてハッピーエンドでない終わり方が多くなります。
(ホラージャンルは別として)
ハッピーエンドは純文学ではダメ、ということでもありません。
純文学では扱うテーマが世の中の不条理や不幸が使われることもよくあります。
さらに『ご都合主義』は、純文学では避けた方がいいでしょう。物語の進め方で、どう考えても不幸な結末になる展開なのに、奇跡的な幸運によってハッピーエンドに……というものです。
ご都合主義は、現実世界においては言動や主張に一貫性がないことです。
その場その場での当人の状況や雰囲気に流されて行動する様子です。
言っていること、やっていることがそれまでとは矛盾することもあります。
創作ものでは、十分な合理的説明がなく主人公に都合のいい急展開が入ることなどです。
ハッピーエンドに持っていく場合、あらかじめ伏線を張っておくなど、読者が納得できる展開にしましょう。
バッドエンドで投稿する場合はキーワードに『バッドエンド』と入れておいた方が親切ですね。
切れのいいバッドエンドをもとめて、純文学ジャンルを見に来る人もいるようです。
コメディーを純文学で書くことも可能です。
この場合も独自性や芸術性を盛り込むようにしましょう。
■6 斬新な文章表現
純文学では『独自の要素』が重視されます。
通常の書き方とは外したり、従来の日本語にない言葉を創作するのもよいかと。
純文学の第一人者ともいわれる芥川龍之介の『羅生門』では、末尾にこう書かれています。
外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
『黒洞々』は芥川龍之介が考えた造語で、深い暗闇を端的に表しています。
純文学で小説を書く場合、斬新な言葉に挑戦するのもいいかも。
新しい形容詞の例
そのファンタジー小説は、なろい世界設定で描かれていた。
『なろい』って何?
新しい擬態語の例
彼女は、あびゃあびゃな動きで相手を翻弄している。
『あびゃあびゃ』ってどういう感じだろう?
新しい熟語の例
その男は若稚萌えの嗜好をもっており、いつか警察の世話になるかを危ぶまれている。
『若稚萌え』って何と読むの?
また、小説家になろうは、Webで公開されたシステムです。
書籍にない手法を取り込むことで、新たな試みが生まれるかも。
例えば……
挿絵を挟む。(書籍での純文学では挿絵は好まれない)
参考情報のWebサイトのURLを載せる。
活動報告と連動する。
あとがきかランキングタグで別サイトに飛ばす
■7 私小説
書籍での純文学では、私小説が書かれることもあります。
作者の体験をもとにした内容で、作者をモデルにした主人公が登場するものです。
ただし、小説家になろうでは私小説はヒューマンドラマの方がよさそうです。
『おすすめキーワード』では『私小説』がヒューマンドラマのジャンルで設定されています。
純文学ジャンルで投稿する場合は、ただの『日記』『身の上話』でなく、より優れた書き方を目指しましょう。
純文学では世の中の不条理や社会問題が扱われることもあります。
実在の人物に迷惑にならないように配慮しましょう。
プライバシー侵害や秘密保持違反、中傷行為にならないように。
ちょっとした体験談の場合はエッセイのジャンルでもいいかも。
■8 PVと評価、そしてランキング
純文学の小説は、読者にとって難解でつまらないものになりがちです。
ハッピーエンドの作品より、バッドエンドが多くなります。
このような『純文学らしい作品』は、小説家になろうで高評価がつくでしょうか。
むしろ、エンターテイメント性のある『純文学らしくない作品』の方が評価が集まるかもしれないです。
では、なろうの『純文学』ジャンルでのランキング上位のものは、純文学とは言えないのでしょうか。
そうとは限らないです。
小説家になろうで投稿する、ということはWebサイト『小説を読もう!』『小説家になろう』にアクセスした人に読ませることを想定して書いていますよね。
書籍としての純文学とは異なり、なろうで投稿しようという時点で読みやすさやエンターテイメント性も求められると思います。
■9 中間小説
最後に、中間小説という考え方を紹介します。
中間小説は、大衆文学と純文学の間に入るようなものです。
純文学と大衆小説のどちらとも割り切れない、あるいは双方の要素を併せ持つ小説です。
(中間小説が『ライトノベルと大衆小説との中間』という意味でも使われることもありますが、ここでは割愛)
誰が見ても『完全な純文学』と呼べるようなすごい作品を書いたとします。
ただし、それが多くの読者に難解で、内容的に『読んでも楽しくないもの』だとすれば、あまり読まれないです。
書籍の世界でも『純文学は売れない』という認識を持つ人も多々いるでしょう。
文学賞に受賞しない限り、読まれづらい小説が本来の純文学なのかもしれません。
中間小説には、たとえば以下のものがあるでしょうか。
・大衆文学をベースに芸術性をもたせる
・純文学をベースにエンターテイメント性を持たせる。
・既存の純文学を模倣した作風だが、読みやすい表現を使っている。
小説家になろうの『純文学ジャンル』に出す場合は、完全な純文学というより中間小説で出せばよいと思います。純文学要素のあるライトノベルを書きましょう。
この文章は『エッセイ』ではなく『純文学』で出してみましたが、はてさて芸術性ってあるかなぁ……
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