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過去編 かけてみたくなった

俺は生きたい。

これは誰でも持っている生存本能だと学者は言うのだろうか?

俺から言わせれば違う。

普通の奴等は生きながら生きたいと願う。

俺達は死にながら生を望む。

俺が死体とかゾンビだとかそういった身体的な話ではない。

心だ。

心が俺達は死んでいる。

誰が死んでも泣かないし息子が生まれても喜ばない。

そんな奴等に育てられた人間はどうなるか分かるだろう?

同じように心が死んじまう。

そんな風に延々と連鎖して生まれ死んでいったのが俺だ。

そんな俺が何故もう一度生きたいと願ったのか?

それは恥ずかしいが一人の男と出会って奴みたいに生きてみたいと思っちまった。

馬鹿だろ?死んでた方が楽なのに。

なのにどうして惹かれちまったのかだって?

それは奴の心に光を見たからさ。


 いつも奴は空を見ていた。

別に空を見るのは珍しいことじゃねぇ。

それだけがこのスラムで唯一外と同じものだからだ。

そうは言っても大半は廃棄汚染の煙や雲で隠れちまう。

綺麗な空や星が見えないと分かっているのに見れるのを願ってそこにいく奴等もいる。

そんな奴は馬鹿だ。

そう大馬鹿だ。

なのに来てしまう。

星が見たくて。

一度も見たことがないのに。

そんな俺のように毎日ここに来るやつがいた。

こいつも大馬鹿だ。

だが何故か俺とは違いずっと遠くを見ていた。

俺はそんなやつが嫌だった。

理由はよく知らない。

子供なんてそんなもんだ。

俺は嫌いな男に何故そんな目をしているのか気になって問いかけた。


「この町は腐ってるよ。なのにおまえはそんな顔をして遠くを見ていられる?」

「あぁそうだな子供が死にかけても何もしない大人達。平気で大人を襲い物を奪う子供 破綻してるよこの町は 」

「ならなんでおまえはそんな顔をしてられる?

おまえには何が見えている?」

「何も見えてねぇよ。でも夢を見るのは辞めたくない。」

「夢だぁ!?おまえは相変わらず馬鹿だな明日の事を考えて生きていけるほどここは甘くないって知ってんだろ?」

 

ここはそんなものをもって生きていけるほど甘くはない。

だが俺は何故かそれを否定してほしかった。


「あぁここは甘くない。

その日を生きるのだって精一杯だ。

でも俺は夢って言う希望だけは失いたくない。」


希望聞いた記憶すらない言葉だ。

そんなものをもってここで生きているなんて俺以上に大馬鹿だ。


「おまえがそんなロマンチストだったとはな。

その夢に足を引っ張られていずれ死ぬぜ?」

「それもいいかもな。夢を見て死ねるんだ。こんな地獄で延々と生きるより幸せかもな。」


奴は笑顔でそう呟いた。

笑顔で死ぬ……生きることだけ考えていた俺には思い付きもしなかった。

確かにそれもいいかもしれない。

無限の地獄で生きるよりは一時の希望にすがって死ぬ。


「確かにちげぇねぇ……所でおまえの夢って何なんだよ。」

「俺の夢は平穏で生きることただそれだけだ。」

「平穏?ロマンチストのお前らしくねぇ随分ちいせぇ夢だな。」


俺は少しがっかりした。

こんな大きな考えを持っているやつがこんな小さな夢だと?

くだらねぇ損した。

損した?

俺はこいつに期待していたのか?


「かもな。でもここでは手に入らねぇ夢だ。」

「だな ここは平穏とは真逆で静かなんて事はねぇからな。」

「だから俺はいずれここを出て平穏に暮らす。」


ここを出る!?

そんなこと不可能だ!


「はぁ!?どうやって!?そもそも俺らは出ることすら許されずここ出身だとばれたら殺されるような奴等だぜ!?」

「今はそうだ。だがいずれ時代は変わる。誰でも自由に生きられる時代がくるさ。」

「そんな時代文字通り死んでも来ねぇよ。俺が保障してやる。」


そんな時代一生来ねぇよ。

他の奴等が俺達を受け入れるなんざ。

俺達ですら仲間を受け入れられてすら居ねぇのに。


「ふっそうか……」

この時遠くを見ていたこいつの目を覚えてる。

いずれ何かやらかしそうなそんな目だった。

おもしれぇ俺はこいつにかけてみたくなった。

このままなにもせずダラダラ生きて死ぬよりは楽しいだろう?






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