人を呪わば
「………うっ……ッ!?」
朱理が目を覚ますと、そこは見知らぬ天井。手足はベッドに縛られて動くことが出来ない。
「…?……???」
状況がわからない。
視線を動かすと、壁には棚が並び、女性物のバッグや服、瓶が並んでいる。それと、朽ちた藁人形。
(ここ、どこ?)
ギイッ
「お、気づいたか?」
見知らぬ男。30代後半くらいの少しガタイの良い営業職が似合いそうな爽やかさのある男だ。
「ちょうど壊れたばかりだったから良かったよ」
(壊れた?)
男を見ていると、棚に丸い形のメガネを置いていた。
(丸いメガネ?)
綺麗な丸。特徴的なメガネ。どこかで…。
『優香さんは丸い形のメガネをかけたショートボブの女の子……』
ニュースでしていた行方不明の女子高生が確かそんなメガネを…。
「丑の刻参りする奴なんて女しかいない。しかも、誰にも言わず、見つからないように人気のない場所に来てくれる。攫うのも楽で嬉しいよ」
そう言いながら、橘優香の情報提供のチラシを壁に飾っている。
「……まさか、その子も?」
「ああ。女子高生がこっそり家を抜け出し、誰にも見つからないように自転車でここまで来たな。藁人形片手に必死の形相で」
自分で自分の行動を隠しているのだから、女子高生が見つからないのも仕方ない。
「なかなか楽しめたよ。女子高生だからな。性的暴行から体を切り刻むまで、フルメニューで料理してやった。ずっと怯えて涙流して助けてって叫んで。顔の皮を剥がした時には殺してって言い出したから、斧で頭を割ってやろうとしたら……また助けてだとよ。くははっ!ま、殺したけどな」
狂ってる。この男、狂ってる。
「未経験な体に何の前戯もなく蹂躙。痛い痛いって泣き叫ぶのにゾクゾクした。散々楽しんだ後、反応が変わってきたから、次は足を切り落とした。血が流れてきたから、切断面を焼き固めて止血した。ギャーギャー泣いてたから、そのまま腹を切り裂いた。死なないように取り出す内臓は選んだぞ。取り出した内臓を猿轡の代わりに口に押し込んでやったら、『もう殺して』って言い出した。つまらなくなって顔の皮を剥がして捨てやすいように斧で細かく切ろうとしたら、再び命乞いしだしたんだ。何故だろう?斧かな?斧が怖かったのかな?」
声が出ない。恐怖で体の震えが止まらない。今、朱理の口からは微かな「あ…ぁ……」という言葉にならない音だけが漏れている。
涙がとめどなく流れる。
そんな朱理を見て男は馬鹿にしたようにハッと笑った。
「あんたも藁人形持ってたよな。今までの女もそうだった」
「今まで…」
周りの棚、たくさんの女性物の道具。
「これ……まさか……全員…」
「そ、全員行方不明扱いになってるな。日本の行方不明者数知ってるか?年間約1万人。その極々一部がここにいる。まぁ、他の心霊スポットにも俺みたいなのがいるのかもな」
そんな…そんな……。私、これからどうなるの……?
「処分するのは大変なんだ。斧や鋸で小さく切って、焼却炉で焼いて残ったのを埋める。この家は金持ちが山の中に建てた建物で、隣近所がいない。この部屋は元ワインセラー用の地下室で音も外に漏れにくいし古い建物のためか庭に焼却炉までついてる。俺のために作られたような家だよな」
助けは来ない。助けは来ないの…?どうして、私ばっかりこんな目に…。
男は斧を片手にニッコリ笑顔で振り返った。
「だいたいあんたら、人を呪おうとして自分には何もないと思ってたのか?ほら、よく言うだろ?『人を呪わば穴二つ』って。あんたの呪いは俺自身って所かな」
呪いって何よ?!私はちょっと幸せになろうと思っただけなのに!
「あんた、いい声で鳴きそうにないな。じゃあ、切り刻むか」
片手にノコギリを持った男が近づいて来る。まるで今からカレーでも作り始めそうなくらいなんでもない表情で。
「いや……いや……いやーーーっ!!!」